「障がい者雇用」と聞いて、どんな仕事を思い浮かべるでしょうか。
清掃、軽作業、単純作業。
企業によっては、今もなおそうしたイメージが根強く残っていることがあります。
一方で、新卒採用や中途のキャリア採用の文脈ではまったく逆の声もあります。
「うちは総合職しかない」「何でもできる人じゃないと難しい」。
私は長年、企業と障がいのある方の間に立つ仕事をしてきましたが、この両極端な考え方に、ずっと課題感を覚えてきました。
そしてその課題感こそが、「職域開拓」というテーマに本格的に向き合うようになった原点です。
今回は、私がなぜ職域開拓に必要性を感じてきたのか、そして実際に企業とどのように進めているのかをお話ししたいと思います。
なぜ「職域開拓」が必要だと思ったのか
理由は大きく二つあります。
一つ目は、「障がいがあるから、この仕事しかできない」という思い込みです。
企業の中には、「障がい者雇用=単純作業」と無意識に決めつけてしまっているケースがあります。本当は、本人の強みや工夫次第で、もっと多様な仕事ができる可能性があるにもかかわらずです。
特に新卒領域では、
「新卒にやってもらう仕事がそもそもない」
「任せられる仕事が思いつかない」
という声をよく耳にします。
これでは、障がいのある学生が社会に出る選択肢が、なかなか広がっていきません。
二つ目は、その真逆のケースです。
「うちは総合職採用なので、業務を限定するのは難しい」
「何でもやってもらう前提じゃないと会社が回らない」
一見、前向きなようではありますが、これもまた別の意味で可能性を狭めてしまっています。
すべての業務を万能にこなせる人だけを前提にすると、特定の業務で高い力を発揮できる人が入り込む余地がなくなってしまうからです。
この二つの極端な考え方の間に、「業務を整理し、特定の領域で高い力を発揮する人のための仕事として切り出す」という視点が必要ではないかと、私は感じていました。
職域開拓とは「中間点」を探す作業
職域開拓というと、新しい仕事を無理やり作るイメージを持たれることがあります。
でも実際は、そうではありません。
企業の中にすでに存在している業務を、障がいのある方との親和性を高めるために、
- どう整理するか
- どう組み替えるか
- どこに価値を見出すか
この**「中間点」を探す作業**が、職域開拓の本質だと思っています。
「何でもできる人」か「単純作業しかない」か。
その二択ではなく、“限定されているけれど、会社にとって必要な仕事”を見つけていく。
それができなければ、障がいのある方の働く場は広がっていきません。
いきなり仕事を考えない。まずは土台づくりから

ただし、職域開拓は「さあ仕事を切り出しましょう」と言って、すぐにできるものではありません。
多くの企業では、
- 障がいのある方と接した経験が少ない
- 障がい特性に関する知識がない
この状態が前提としてあります。
だから私は、最初に必ず研修から入ります。
障がいのある方とはどういう特性を持つ人なのか。
どんな視点で仕事を考えると良いのか。
職域開拓には、どんな進め方の「型」があるのか。
この共通言語がないままヒアリングをしても、議論は噛み合いません。
逆に、共通の土台ができると、「この業務、可能性があるかもしれない」という思考が自然と生まれてきます。
ヒアリングで一番大切にしていること
ヒアリングで私が強く意識しているのは、会社の文化と課題を理解することです。
業務ベースで
「この仕事はどうですか?」と提案しても、
「うちの会社には合わない」で終わってしまうことは少なくありません。
だからこそ、
- 今、会社として何に困っているのか
- どんな事業を伸ばそうとしているのか
- 経営陣は、どんな雇用の形をイメージしているのか
ここを丁寧に確認します。
例えば、
- 各部署に1人ずつ配置したい会社
- まずは少人数でチームを作り、専門家が支援する会社
この違いだけでも、職域開拓の進め方は大きく変わります。
「どんな仕事を任せるか」より前に、「どんな雇用の形を目指しているのか」をすり合わせることが、実は一番重要なのです。
正解を押しつけない。選択肢を提示する
「この会社には、このやり方が正解です」
こうした言い方はしません。
A案とB案、それぞれのメリット・デメリットを整理し、最終的には企業自身が選べるようにします。
その上で、
「私個人としては、こう思います」
「他社では、こういうケースが多いです」
と意見を添える。
合意形成のプロセスを、一緒に作っていく感覚に近いですね。
実際の職域開拓プロセス
具体的には、次のような流れで進めています。
- 研修で共通認識をつくる
- 経営・人事のキーマンから考え方を聞く
- 他社事例を共有する
- 各部署に「業務棚卸しシート」を書いてもらう
- ヒアリングで可能性と不安を拾い上げる
この中で、
- 業務切り出しが課題なのか
- 定着支援体制が課題なのか
が自然と見えてきます。
最後は、「2〜3年後、どんな状態を目指すのか」というグランドデザインを描きます。
目の前の1人を採用できるかではなく、3年後に10人が安心して働けるか。
この視点が、職域開拓には欠かせません。
ヒアリング自体にある大きな意味

ヒアリングは、情報収集の場であると同時に、社内の不安を表に出す場でもあります。
「これを言ったら、すぐ雇用しないといけないのでは」
「現場の負担が増えるのでは」
そうした不安が、言葉として出てくること自体が重要です。
私たち第三者が受け止め、整理することで、人事や現場の心理的負担は大きく軽減されます。
反対意見が出ることは、悪いことではない
時には、「今は雇用できる状況ではない」という厳しい声をいただくこともあります。
でも私は、それをクレームだとは思っていません。
障がい者雇用は、価値観が強く出るテーマです。
立場が違えば、意見が割れるのは当然です。
むしろ、今まで言えなかった本音が出てきたという状態は、前進のサインだと捉えています。
その意見を、誰かが交通整理しなければなりません。
それが、コンサルの大きな役割の一つだと思っています。
コンサルの価値は「動かす力」にある
若い頃の私は、他社にはないクリエイティブな提案」こそが価値だと思っていました。
今は違います。
提案の価値は全体の2〜3割。残りの7〜8割は、実際に物事を前に進める力です。
社内で合意をつくり、最初の一歩を踏み出し、形にする。
そこにこそ、本質的な価値があると感じています。
職域開拓は、結局「人」の話に戻る
最終的に、「最初はどの部署から始めるか」という話になると、必ず出てくるのは人の名前です。
「あの部署の◯◯さんなら理解がある」
「まずは、あそこから始めよう」
結局、組織を動かすのは人。
職域開拓は、障がい者雇用の専門性だけでは語れません。
合意形成、関係調整、タイミング。そうした地道な積み重ねの先に、ようやく「仕事」が生まれます。
おわりに

職域開拓は、とても複雑で、多面的な仕事です。
だからこそ、簡単な正解はありません。
でも、研修 → ヒアリング → 整理 → 合意形成 → 実行
この流れを丁寧に積み重ねていけば、必ず前に進むと私は信じています。
「障がい者雇用だから特別」ではなく、「組織づくりの一環」として職域開拓を考える。
その視点が広がることを願いながら、今回のコラムを締めくくりたいと思います。




