ひとり言です。
障がいの有無に関わらず就職をしたのであれば、労働条件に基づいてはたらくこと(労務の提供)が求められます。人材と業務のマッチングを見ると新入社員の場合、概ね入社前の本人の希望をもとに各職場へ配属されますので、業務との適性は配属後に見ていくことになります。
その一方で中途採用では、求人募集をする企業が、必要としている業務に関する経験や技能・資格などの条件に照らし合わせながら人材を採用します。新入社員の時とは違い適しているであろうことを前提に業務に就いてもらいます。
障がいのある人材では、人によって障がい特性を起因として限られた範囲内であれば業務に就くことができる方がいます。担当する業務を習熟する時間も人によって違いが見られます。
企業の障がい者雇用担当者から「雇用している障がい者のできることとできないことの区別をどのように行えばいいのか分からない」と相談を受けることがあります。
もう少し詳しく聞いてみると、
- A「“できないこと”が障がいの特性が原因でできない」のか
- B「“できないこと”も時間をかけながら継続していくことでできるようになる」のか
の区別をどのように判断すれば良いのか分からないという内容でした。
例えば、「A」のようなケースで分かりやすいものをあげるとするなら、聴覚に障がいのある方に電話による架電・受電業務が困難であるというのは判断も容易です。
では、知的障がいのある方がベルトコンベアーを流れてくる廃材を材質や状態ごとに判断して取り除く作業について、できるかできないか。答えは「すぐに判断できない」だと思います。この場合、障がい特性で業務との適性を判断することは難しく、精度の高い答えを導き出すことができないと考えます。ではどうすれば良いのか。
私であれば「じっくり観察して、しっかり関わる」ことで正解を導き出します。場面によっては本人が業務に就くことを拒むこともあります。その時は別のアプローチとなりますが、基本的にはやっぱり「じっくり観察して、しっかり関わる」ことだと思います。もしかすると本人が拒むのは「自信がない」「失敗が怖い」といった理由であれば、実際にチャレンジしてみることで本人が気づかなかった適性業務に出会えるかもしれません。
できることとできないことを見極め、できることにチャレンジするのは成長の一環だと思います。今の社会は成長に対してしっかりと投資をしないと感じています。
投資はお金ももちろんですが、人材の成長に対する投資には時間も含まれます。特に障がいのある人材の中にはその特性上、一般的に想定する習得の時間よりももっと時間を必要とする方たちがいます。それを容認するためには「じっくり観察して、しっかり関わる」ことです。
「じっくり観察して、しっかり関わる」ことが面倒くさいことだと感じる方も少なくないと思います。分かります。技術職などの専門性の高い分野を除いて、私の世代(50代)以上は職場で丁寧に教えてもらうことってあまり記憶に残っていなくて、どちらかというと「背中を見て覚えろ」といった空気感の中ではたらいてきました。現在、自分が年齢を重ねて人に教えたり育てたりといった立場になって強く感じるのは「昔の人は手抜き」だということです。もちろん良い面もあります。
丁寧に教えてもらえない場面が多い一方、自分で努力して調べたり学ぼうとする姿勢・行動は、基礎をしっかりと身につけさせ足腰の強い社会人を輩出しました。しかしながら、手抜きな人材育成は、次の手抜きへと繋がっていきます。新人は時間と共に習う立場から教える立場へと階段を上がっていきます。自分が手抜きな教育を受けてきたために、教え方を知らず結果的に手抜きの継承が職場で行われることになります。
法定雇用率の引き上げなどの法律改正や多様性社会促進としての活動、労働力確保といった点からも障がい者の雇用分野はますます活発になることが予想されます。
企業間の採用競争が激しくなる中、障がい者の数は大きく変わることがないため、組織が求める人材をどのようにして採用して職場に定着させるかを考えると求人に関わるコストやリソースなどもこれまでと違った投資が求められることが考えられますので、経営判断にも関わってくる話だと思います。障がい者人材に選ばれる企業を求めると雇用の場面で「しっかり観察して、じっくり関わる」姿勢が見られる組織には、人が集まりやすく、より求める人材とのマッチング率を高めることが可能となります。
「しっかり観察して、じっくり関わる」ことで、できることとできないことの判断について知識と経験が積み上げられます。「しっかり観察して、じっくり関わる」ことが組織に浸透すると、本人の成長を自分ごとのように喜ぶことができます。結果的に、本人のやれる範囲が広がり、業務を捌く量が増え、自発的に行動できるようになります。それは障がい者であってもです。それらを期待する気持ちが大切だと思います。
また、「教える=偉い」ではないということです。
普段から障がい者をはじめ管理者の方々と1on1をする機会が多くあります。立場上、これまでの経験や知識からアドバイスすることは多いのですが、自分が偉いとは思ったことはありません。障がい者からの相談に対して考えを伝えるのですが、それ自体が自分自身の気づきや学びになります。人に教えるまたは人を育てる行為は同時に自分に学びの機会を与えると考えています。
ある障がい者雇用で素晴らしい実績をたくさん上げている企業の現場責任者の言葉です。
「組織が育てたいと思っている人材がいるなら、是非障がい者雇用の担当者にしてみてください。企業の成長に必要な人間性を身につけられる人材かどうかを見極めることができますよ。」