2026年7月1日の法定雇用率引き上げを目前に控え、障がい者の雇用義務のある企業は数値目標の達成を第一に新規採用に力を注力しています。今回の法定雇用率の引き上げに伴い、障がい者の雇用が義務となる対象企業の数が増えます。また、少子高齢化により従来のような労働力の確保が難しくなったことで、障がい者を労働力として採用する企業の増加も売り手市場を後押しする結果だと感じます。
しかし、その活況の裏側で、私はある強い危惧を抱かずにはいられません。法定雇用率という「数字」を追うことにばかり注力するあまり、いつの間にか「雇用すること」自体が目的化し、彼らを組織のメインストリームから切り離してはいませんか?もし、現在の雇用形態が「障がいがない従業員とは全く異なるルールや環境」であり、物理的あるいは心理的に隔離された場所で完結しているとしたら、それは法が定める「社会連帯」の理念と合致しているでしょうか。
近年の障がい者雇用状況を見ると、精神障がい者や発達障がい者の雇用数が増えてきました。理由としては、求職活動をしている精神障がい者や発達障がい者を採用ターゲットして捉える企業が増えてきたこと。それに加え、職場で戦力として活躍するロールモデルが新たな雇用を生み出したことで、多様な障がい特性の人たちが企業で活躍する時代となりました。
一方で法定雇用率の達成に目を向けることにこだわるあまり、数合わせな視点が強い障がい者雇用を進めた結果、障がいのある人材の強みに十分なフォーカスを当てることができない企業が少なくないと感じます。「障がい者は職場で戦力化することは困難だ」「障がい者は成長できない」「障がい者は組織と切り分けたところで雇用する」といった考えは、障がい者雇用の間違った側面が当然の姿であるような見え方が蔓延している事実に非常に残念です。
企業が障がい者雇用をどのように表現するのかをコントロールすることは難しいのですが、障がい者雇用の本質を理解し、障がいのある人材を活躍させるための取り組みが企業を成長させるための原動力になると気づいてもらいたいと感じています。
障がい者雇用の方針を定める『障害者雇用促進法』のことはよくご存知だと思います。
正式名称は「障害者の雇用の促進等に関する法律」といい、障がいのある方が有する能力を発揮し、職業生活において自立できるよう、事業主に対して一定割合の障がい者雇用を義務付け、安定的な雇用を確保するための法律になります。
障がい者の雇用に関わる仕事をしている者として忘れず心に留めておきたい条文がありますのでここにご紹介したいと思います。企業の経営者や人事担当者にも知っておいていただきたい、自社の雇用を映し出す「鏡」のような内容です。
障害者の雇用の促進等に関する法律
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(事業主の責務)
第五条 全て事業主は、障がい者の雇用に関し、社会連帯の理念に基づき、障害者である労働者が有為な職業人として自立しようとする努力に対して協力する責務を有するものであつて、その有する能力を正当に評価し、適当な雇用の場を与えるとともに適正な雇用管理並びに職業能力の開発及び向上に関する措置を行うことによりその雇用の安定を図るように努めなければならない。
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この条文は、事業主である企業が障がい者の雇用に取り組む上での基本的な姿勢や、果たすべき責務を定めています。条文にある言葉を障がい者雇用の場面に置き換えて、自社の現状と照らし合わせてみてください。
◯ “社会連帯の理念”とは
→「個人は孤立して存在するのではなく、互いに依存し合い、支え合って社会を構成しているという認識のもと、すべての構成員が尊厳を持って共生する社会を目指す考え方のことです。」
社会において人は誰もが不完全であり、互いに依存し合って生きています。
職場に置き換えてみると、障がいのある人材の特性による不得意を合理的配慮や周囲の理解によるサポートでそれらを補い、一方で本人の得意分野で組織に貢献するという、双方向による支え合いを実現するという考えです(相互補完の関係性)。
そして、障がいのある人材をただ職場に在籍させるだけでなく、適材適所の職務を通じて「必要とされる価値」を組織に提供し、経済的自立とプロフェッショナルとしての自尊心を育む環境を指します(尊厳の保持)。
また、障がいを個人の問題と捉えず、組織側が理解を深め、共に働くための仕組みを主体的に整えることで、誰もが「構成員」として排除されない職場を目指すことを意味します(社会的障壁の除去)。
貴社の雇用は、彼らを組織から「孤立」させてはいませんか?「支援」という名のもとに、彼らの「尊厳」を脇に追いやる結果になっていないでしょうか。
◯ “有為な職業人”とは

→「単に収入を得るだけでなく、自らの能力を継続的に高め、専門性を発揮して組織や社会に貢献し、自立して価値を生み出し続ける人材のことです。」
障がい特性に応じた適切な配慮を受けながらも、自身の強みを磨き、専門的なスキルを習得し続けること。それは、単なる定型業務の遂行に留まらず、自身の能力を最大限に活用して、替えの利かない戦力として活躍することを目指します(能力の伸長と専門性の発揮)。
障がい者も他の従業員と同様に適切な評価に基づく公正な賃金を得るだけでなく、仕事を通じて自己肯定感を高め、社会を支える一員としての責任を果たすことを指します(社会的・経済的自立)。
本人も支援を受けるだけの存在から脱却し、他にない多様な視点や独自の工夫をもって組織に新しい価値をもたらすこと(組織への主体的貢献)。
「障がい者にはこの程度で十分だ」と、成長の限界を勝手に決めてはいませんか?「有為な職業人」として育てる努力を放棄し、ただの「コスト」として処理していないでしょうか。
次回に続きます。





