取材レポート:discovery(ディスカバリー)の取り組み

今後、障がい者の雇用や職場定着を実現させるためには「企業」と「福祉」がより一層距離を近づけていくことが必要だと言われています。私もその通りだと考えます。

法定雇用率が引き上げられ、障がい者の求人ターゲットが「身体」から「精神・発達」へと移行が進んでいくため、企業には障害者雇用に取り組んでいく上でこれまで以上に専門的な知識や経験が必要とされるからです。

しかし、現実を見てみると「企業」と「福祉」の距離はまだまだ開いていると感じています。特例子会社や様々な障害者雇用を実践している企業というのは全体のごく一部で、ほとんどの企業は高い専門的な知識を持っているわけではありませんし、必ずしも持つ必要があるとは思っていません。経験を積み重ねながら、たくさんのノウハウが蓄積されたという結果であればいいのですが、最初は知識や経験を持っていないのが事実なのですから、外部にあるリソース(福祉などの専門機関)を活用する方がよっぽどメリットになると考えます。これから予想する企業の障害者雇用はこれまでの雇用の形から変化してきます。大きな都心部のある地域では採用競争が激しく従来であれば採用が困難だと感じていた人材の採用をしていかないと法定雇用率を達成することができなくなってきます。また、地方であれば、就職先が少ないため十分な就労支援の体制も整っていないところが多いため、たくさんの人材が埋没しています。こういった人材を戦力にするための取り組みも一部の地域では始まっていますので、「企業」と「福祉」がより密接な関係を作り出していくことが求められます。

そのような現状を少しでも変えようと精力的に活動している団体があります。大阪を中心に、「企業」と「福祉」の交流の場をつくり、お互いの距離を近づけて、ひとりでも多くの障がい者が就職・職場定着するために必要な情報を発信している団体『discovery(ディスカバリー)』をご紹介します。

設立は5年前の2013年。代表である中 知也さんを中心に5人のメンバーで『discovery』を運営しています。実は、メンバーの5人はそれぞれ別々の福祉機関や企業に所属しているのですが、団体設立の思いでもある「障がい者の雇用を創出するコミュニティ」を提供するために、所属の壁を越えた有志の集まりです。

『discovery』では2ヶ月に1回のペースでイベントや障害者雇用を実践している企業の見学会などを定期的に開催。今回、大阪で開催されましたイベント「企業と支援機関の連携について」に参加してきました。

当日は、障害者雇用を実践する会社の社長が登壇されるということで、企業や福祉機関など30名近くの方々が参加され、会場であるお部屋は満席の状態でした。

イベントの冒頭では代表の中さんより、団体設立の経緯や思い、これまでの実績のご説明をいただきました。福祉機関の立場でできることは限られているため、もっと多くの方々との協力がこれからの障害者雇用に必要だということを力強くお話しされていました。

次に、実際に障害者雇用に取り組んでいらっしゃる会社「株式会社エムツープレスト」の増本社長のお話を聞かせていただきました。こちらの会社は、従業員数21名なので本来であれば障がい者の雇用義務はないのですが、雇用に関する課題を抱えており、それらを解決する上で障害者雇用にチャレンジされたのがきっかけだったということです。やはり、取り組みにあたっては就労支援機関からの協力が不可欠で、事前の打合せや準備のために必要なアドバイス(法律や助成金について)を受けられました。その後実習をスタートさせ、9ヶ月の間に22名の実習生を受け入れ、多い時には一日に3名の実習生が職場体験に来られたようです。また、こちらは雇用義務がありませんから、従業員からの理解を取り付けるのも苦労されたようです。今現在でも模索しながら雇用に取り組んでいらっしゃるのですが、そんな時でも就労支援機関の存在は大きいというお話でした。結果的には3名の障がい者を採用されたということでした。

その次に「株式会社エムツープレスト」の雇用支援に携わった3つの支援機関からのお話でした。

  • 就労移行支援事業所STAIR
  • 就労移行支援事業所ジョブジョイントおおさか
  • 特別支援学校

どちらの支援機関も「障がい者」と「企業」の希望を叶えるために必要な取り組みを丁寧にご紹介いただきました。

イベントの終盤には登壇者への質疑応答があり、参加者は5つのグループに分かれて、各グループから質問をしていました。

参加された方々それぞれの立場に沿った質問の中には、深く掘り下げた専門的なものもあり、参加者の熱意が感じられる瞬間でもありました。

最後に参加者同士の名刺交換の時間が設けられており、トータル2時間でしたが、非常に濃密なイベントだったと思います。

『discovery』では今後も継続して各種イベントを開催する予定です。障害者雇用に関する情報を収集するにはとても有効な場だと感じました。現在、法定雇用率が未達成なために納付金(罰金)を支払っている企業や社内理解が得られず雇用の邪魔をされている人事担当者は是非ご参加されてみてはどうでしょうか。助成金や求人募集に関する情報ではない、これまで得られなかった知識や繋がりとの出会いが待っていると思います。企業にとって大きなメリットになるでしょう。

ABOUTこの記事をかいた人

[障害者雇用コンサルタント]
雇用義務のある企業向けに障害者雇用サポートを提供し、障害者の雇用定着に必要な環境整備・人事向け採用コーディネート・助成金相談、また障害者人材を活かした事業に関するアドバイスを実施。障害者雇用メリットの最大化を提案。その他、船井総研とコラボした勉強会・見学会の開催や助成金講座の講師やコラム執筆など、障害者雇用の普及に精力的に取り組んでいる。

▼アドバイス実施先(一部抜粋)
・opzt株式会社・川崎重工業株式会社・株式会社神戸製鋼所・沢井製薬株式会社・株式会社セイデン・日本開発株式会社・日本電産株式会社・株式会社ティーエルエス・パナソニック株式会社・大阪富士工業株式会社・株式会社船井総合研究所・株式会社リビングプラットフォーム