人事担当者が気になる今後の障がい者法定雇用率はどうなるの?[2/2]

人事担当者が気になる今後の障がい者法定雇用率はどうなるの?[1/2]

2018.03.02

それでは、今後も法定雇用率が障がい者人口の割合から見て半数となる「3.0%」まで引き上げられると仮定して、企業の障がい者求人や雇用の現場にはどのような動きと影響が見られるのでしょう。

下記のようなことが考えられます。

① 雇用率の引き上げと自然減

今後も段階的な形で法定雇用率が引き上げられます。人事などの採用担当者は、数年先までの従業員数の推移に法定雇用率を加味した数値を算出していると思います。忘れてはいないと思いますが、ここには定年退職等で会社を辞められる障がい者の数も含める必要があります。いわゆる実数のマイナスです。そこに毎年新卒採用を100人単位で実施している企業があるとすれば正にダブルパンチとなってしまいます。

おそらく、現在企業で雇用されている障がい者(特に身体障がい者)の年齢層のうち、50代以上の方々が多くを占めていると思います。これらも統計の数値として出ているのですが、身体障がい者のおよそ70%以上が60代の方々です。これは、病気や事故による手帳取得者が多い身体障がい者の特徴のひとつで、残りの30%を見た場合も50代の方が多いと予想されます。

また、定年退職やその後の再雇用まで在籍してもらえると計算も立つのですが、障がいを持っているため急な体調不良によるリタイアも考えられます。私の知っている企業の多くは、そういったことも想定して法定雇用率よりもプラス0.2程度の障がい者を雇い入れるようにしています。

② 精神障がい者と発達障がい者が主流

法定雇用率の上昇に伴い、企業が法律を遵守するためには精神障がいや発達障がいを持つ人材の活用を本格的に始めていかなければならないでしょう。現時点で既に精神障がいや発達障がいの求人数の増加傾向が見られますので、当然のことながら今よりも高い数値となる数年先には、今取り掛かかることができていない状況からの路線変更をしなければ非常に困った状況になってくることが考えられます。

これまで主流であった身体障がい者と精神障がい者や発達障がい者の雇用には大きな違いがあります。例えば、精神障がいや発達障がいを持つ人材と職場を一緒にする際、身体障がい者の時には特に必要ではなかった「コミュニケーションの取り方」「個々の特徴や癖の理解」「強みを伸ばすマネジメント」などが現場では求められます。しかし、企業は順応性が高いので「案ずるより産むが易し」の精神で実施してみると、案外精神障がい者や発達障がい者の労働力に対して大きなメリットを感じると思います。

③ このままでは大企業ほど限界

従業員数が1,000人を超えるような大企業にとって、段階的な法定雇用率の引き上げはボディブローのように効いてきます。仮に、雇用率が割り込んでしまったら納付金(罰金)の支払いや企業イメージへの影響など、損ばかりです。

従業員数に伴って部署や業務も多岐に渡り、多くの仕事を生み出すことが可能です。しかし、それにも限界というものがあります。企業での努力と言っても、仕事の切出しや付帯業務、アウトソースしている清掃業務を内製化させるのも無限大に作り出せるわけではありません。

考え方としては、「新たな職域」を用意することも視野に入れることが必要です。例えば、「新しいグループ(各部署の垣根を取っ払った事務サポートなど)や事業(敷地内で野菜や果物の栽培・販売)を立ち上げ、そこの業務の主力を障がい者に担当してもらうこと」もひとつの考え方ですし、新たな法人として「特例子会社の設立」というのも企業によっては必要な手段かもしれません

少なくとも、現状の延長線上だけで今後の障害者雇用を考えるよりも、新しい枠組み作りの導入も検討する方が現実的だと思います。大企業ほど助成金による恩恵は小さいですが、活用できるものもあるはずですから確認は忘れずに。

④ 雇用も多様

障がい者の雇用は“多様な”人材活用のひとつです。

障がい者の雇用定着には“多様な”働き方も必要な要素のひとつです。

従来からある「会社に出勤」するという働き方は、見方を変えれば障がい者の雇用定着を邪魔することではないでしょうか。“多様な”特徴を持つ障がい者であれば、この「会社に出勤」という働き方の見直しをすることも必要です。その見直しのひとつが在宅勤務やサテライトオフィス勤務などの「テレワーク」という働き方です

国や厚生労働省は「テレワーク」の普及に力を入れており、各自治体独自の助成金なども設けられています。

「テレワーク」という働き方は、障がい者に限らず子育て中の従業員や介護・看護の必要がある家族を持つ従業員の活用など、企業にとっては多くのメリットをもたらしてくれます。

また、フレックス勤務を活用することで、通勤ラッシュによる物理的な問題やストレスなどで出勤ができない障がい者にとって非常にありがたい働き方となります。“多様な”人材の活用には、義務的な就業時間に縛られるよりも、融通の利いた働き方で成果を導き出すことを選びたいと思います。

2回に分けてお話ししてきましたが、これからの法定雇用率は間違いなく企業にとっては負担や更なる義務となる面が多いと考えられます。しかし、流れに任せず早い時期から計画し、実行することで軽減させることができます

ABOUTこの記事をかいた人

[障害者雇用コンサルタント]
雇用義務のある企業向けに障害者雇用サポートを提供し、障害者の雇用定着に必要な環境整備・人事向け採用コーディネート・助成金相談、また障害者人材を活かした事業に関するアドバイスを実施。障害者雇用メリットの最大化を提案。その他、船井総研とコラボした勉強会・見学会の開催や助成金講座の講師やコラム執筆など、障害者雇用の普及に精力的に取り組んでいる。

▼アドバイス実施先(一部抜粋)
・opzt株式会社・川崎重工業株式会社・株式会社神戸製鋼所・沢井製薬株式会社・株式会社セイデン・日本開発株式会社・日本電産株式会社・株式会社ティーエルエス・パナソニック株式会社・大阪富士工業株式会社・株式会社船井総合研究所・株式会社リビングプラットフォーム