【Q】
2024年4月以降の障がい者法定雇用率の引き上げなど、法律の改正に合わせて当社でも障がい者の雇用を推し進めていくことになります。おそらく、当社と同様に障がい者の採用を検討する企業が増えることが考えられ、求人数も多くなると予想しています。そのため、障がい者が働きやすい職場環境、障がい者が求める雇用の仕組み作りについて真剣に取り組んでいこうと思っています。
今後、これまで以上に多様な特性の障がい者を採用することを想定したときに、曖昧になりがちな合理的配慮について、会社としての理解を明確にすることで障がい者が定着する会社になると考えます。
そこで、組織が理解しておくべき合理的配慮について教えてください。
よろしくお願いします。
《物流会社、従業員数約450名、人事部長》
【A】
2016年に障害者差別解消法が施行され、2024年度からは一般の企業においても障がい者が求める合理的配慮の提供が義務化されることが決まっています。
合理的配慮の提供とは「その組織が『人材』というリソースをどの程度重要な位置付けとして考えているかのモノサシになる」と考えます。
前職で私が営業担当をしていたある企業が数百万人規模の顧客情報を流出させてしまったことがありました。当時はメディアでも大きく取り上げられ、企業がコンプライアンスや情報セキュリティの管理についてより一層注意を払った経営を迫られるきっかけになった事件でした。その企業では顧客情報の管理は厳格化されており、従業員であっても関係のない部署の情報へはアクセスができないようにされていました。しかしながら結果として顧客情報は流出してしまいました。
原因は、顧客情報を取り扱っていた従業員が故意に持ち出し、他社へ横流ししたためでした。その事件があったときに企業へ訪問した際、窓口だった課長から事件のことを聞かせていただいたのですが、今でも忘れられない言葉がありました。
「立派な会社であっても人を大切にしない組織では、どのようなルールであれ簡単に破られてしまうんですよ」
①障がい雇用を経営判断として位置付ける
一昔前まで企業における障がい者雇用とは企業活動として「中心に位置していない」と捉えられていることが少なくなかったため、人事担当者は一部の部署での取り組みとなっていました。しかし時代が変わり、障がい者を多様な人材のひとつと考え、自己との違いを認容する社会の形成に向けた活動が企業にも求められています。
企業の採用活動は、予め決まっている人数の新卒者を採用し、面接と短期間の研修をもとに不十分な適性理解のもとで各部署へ配属。一定数の離職者を当然のように排出しながら翌年の採用活動をしていることに疑問も持たずに取り組んでいる。
厳しい表現をするならば、「経営戦略のない人材採用」「マネジメントの放棄」と見えてしまいます。
これからの世界は様々な分野で技術が進歩し、それらの繋がりのもとで我々の暮らしはますます便利になっていきます。一方で技術の進歩は我々から仕事を奪う存在になると危惧されています。技術の進歩を「便利な存在」とするのか「奪う存在」とするのかは、活用する我々の使い方ではないでしょうか。
このような時代を迎えるからこそ、それらを扱う人材というリソースを大切に考える組織。人材を大切に考える組織に在籍する人材はルールを守り、他者のことも大切に考えることができます。合理的配慮の提供には人材を大切に考える組織かどうかがキーポイントになります。
人事担当者に任せるだけで、企業が成長するための人材戦略を経営判断として位置付けていますでしょうか。時代は進んでいます。
②組織全体は「平等性」、個々への対処は「公平性」
例えば、現在ではオフィスワークで仕事をする場合にPCは不可欠に近く、ひとりに一台の時代になりました。この場合、PCをひとりひとりに貸与することは「平等性」です。PCを貸与した従業員のひとりである右手が欠損した障がい者から左手用のマウスを希望されたときに会社として提供することが「公平性」にあたります。
多くの企業では「平等性」で足を止めてしまっていて、個々の人材が求めている「公平性」に対する理解と配慮の提供を実施できていないと感じます。
ということは、組織は従業員ひとりひとりの声に耳を傾けて対応をする必要があるのかとなります。答えは「はい」です。
我々が暮らす社会は目まぐるしく変化しています。
この直近だけでも世界的な感染症が流行り、近くの国では侵略戦争が起こったためにあらゆるところで価格が上昇しています。多様性に目を向けるとLGBTQ+やセクシャリティなど、昔から存在していたマイノリティな人たちが少しずつ社会に認識されるようになったことで、公共の場やアンケートの記載時にも「男性・女性・その他」といった表記など、身近なこととして目や耳にする機会が増えたことがその証拠です。
会社は「従業員の生活環境」「社会の変化」に敏感ですか。少子高齢化のもと国内の労働力は右肩下がりになっているのが事実です。家族の在り方も当然昔と違っています。労働力不足の時代、障がい者も含め、育児や介護・看護との両立を求められる従業員を戦力化するのは企業の努力と工夫が不可欠です。それに伴って雇用条件、求めるルールを変えていく柔軟な考え方が必要です。色々な立場、環境下にいる人材への理解とその対応ができる組織が求められます。
組織に在籍する誰もが、働くために必要な配慮を求める時代になりつつあります。人材を一括りにする組織から人材を個々のリソースとして捉え戦力化する組織への転換期だという認識が必要です。