【Q】
障がいのある従業員の目標・評価についてご相談です。
当社では様々な部署に障がい者を配置しています。障がい者であっても一般の従業員と同様の評価制度をもとに各自の評価を表しています。所属先の上長と一緒に目標を設け、業務を遂行しながらその目標の達成に向けて取り組んでいます。
所属先の上長から期待する業務が想定通り進まないときの対応について相談がありました。業務の遂行が進まない原因が「障がい特性によるものなのか」「障がい特性は関係ないのか」の判断ができにくく困っているとのことでした。こういったときの対応方法についてアドバイスをお願いします。
《システム開発会社、従業員数450名、人事課長》
【A】
障がい者雇用における評価制度に悩みを抱える企業は少なくありません。最近は法定雇用率の引き上げなどにより、障がい者を率先して雇用する企業も増え、様々な役割や業務に就く職場も多くなっています。そのようなことから、障がい者にも業務を通して目標を設け、達成度合いによって評価する会社が増えたため、これらの相談が多くなってきているのだと考えます。また、こちらの会社では一般の従業員と同様の評価制度を用いて、障がい者だからといって区別せずに業務と与えられた役割によって評価する姿勢は素晴らしいと感じました。
今回のご相談のように組織が雇用する障がい者に求める業務ができない、或いは想定した通り進まないという場面は少なくありません。その際に「障がい特性が原因」「障がい特性以外が原因」の見極めが難しいと感じます。
【採用前にできること:面接と実習の活用】
先ずは採用する前に本人の適性や強みを確認するタイミングとしては「面接」と「実習」が考えられます。障がい者採用の「面接」では、これまでのご経験やお身体の状態、求める配慮などを確認すると思います。しかし、対面でのやり取りだけで得られる情報には限界があり当事者の特性や職場で考えられる困りごとや得意な点について詳細に知るためにはもう少し時間をかけたいところです。
そこでお勧めしているのが「実習」です。障がい者採用における「実習」では、想定業務との相性を確認する以外にも、職場の雰囲気を事前に知ってもらったり、出退勤ができるかなど、雇用してからの勤務を明確にイメージしながら採用の判断につなげることができます。また、本人が求める配慮や職場でのコミュニケーションについても「実習」を通じて従業員が認識できる場としても最適な方法です。
【採用後の定着支援:対話による理解の深まり】
採用前に本人を理解する場を設け、いざ採用してから所属先への配置となります。実は障がい者雇用では採用するまでのプロセスよりも採用後の職場定着の方に重要性を強く感じます。何事も想定していた通りに進められれば安心なのですが、現実はそのようにいかないことも多々あります。また、勤務してから顕在化される配慮などもあったりして、人事担当者や所属先の上長はその都度対応を求められることがあります。
今回の相談も含め障がいのこと・本人への理解を深めるためには、普段からのコミュニケーションを通じた『対話』による方法が最適だと考えます。障がい者はよく一括りにされることがあります。特にこれまでに障がいのある方たちと関わる機会が多くなかった人からすると「知らない」「分からない」ことが前面に立ち、何となくインプットされた浅い情報、それによって形作られたイメージが先行してしまいます。でもそれは障がい者に限ったことではなく、どの分野でも同様だと思います。
例えば、視覚障がい者はすべて目が見えないわけではありません。光は認識できる人。表情は見えないが人の輪郭なら分かる人。ドーナツ型のように真ん中だけが見えない(逆に真ん中だけぼんやり見える)人。というように、それぞれの視覚障がい者によって状態に違いがあり、それに伴って周囲に求める理解や配慮にも違いがあります。そういったことを認識するためには、本人との『対話』による深掘りした理解が必要になってきます。そうすることでできないことが「障がい由来なのか」「そうではないのか」の判断もつきやすくなってきます。
【“できない”の背景を見極める視点】
仮に業務がうまく進まない場合、それが障がい特性による「本質的に困難なこと」なのか、あるいは「支援や工夫によって可能になること」なのかを見極めることが重要です。障がい特性により全くできないことを求めることは困難ですが、後者であれば本人との同意のもと、行動目標として掲げてみることは本人の成長(自分でできることを増やす)に寄与すると思います。本人の成長を自分ごとのように一緒に喜んでくれる上司がいる職場であれば、人は大いに活躍してくれると思います。
【最後に】
誰もがそうだと思いますが、障がい者も仕事を通じて自分の特性や考え方に気づくことがあります。壁にぶつかったとき、相談できる存在が職場にいることは、業務への安心感と意欲につながります。特性によっては、周囲の理解と支援が業務遂行に不可欠な場合もあります。
「できない」の背景を丁寧に見極め、対話を通じて理解を深めること。それが、障がい者雇用における評価制度をより実効性のあるものにする鍵だと考えます。