「今後の障害者雇用促進制度の在り方に関する研究会」について ④A型事業所の位置付け(前編)

今回も『今後の障害者雇用促進制度の在り方に関する研究会』に関するコラムは最後になります。
最後に取り上げたのは「就労継続支援A型事業所やその利用者の位置付け」についてです。就労継続支援A型事業所の役割やそこに通う利用者の未来についてもテーマとして取り上げられました。

「今後の障害者雇用促進制度の在り方に関する研究会」について①障がい者雇用の質(前編)

2026.02.24

「今後の障害者雇用促進制度の在り方に関する研究会」について①障がい者雇用の質(後編)

2026.03.03

「今後の障害者雇用促進制度の在り方に関する研究会」について②難病・精神障がい者の雇用(前編)

2026.03.10

「今後の障害者雇用促進制度の在り方に関する研究会」について②難病・精神障がい者の雇用(後編)

2026.03.17

「今後の障害者雇用促進制度の在り方に関する研究会」について③100人以下の納付金対象について

2026.03.24

【要約】就労継続支援A型事業所とその利用者の位置付けについて

就労継続支援A型事業は、2006年の障害者自立支援法施行により、障がい者と雇用契約を結び最低賃金を保障する「雇用型」の福祉サービスとして誕生しました。しかし、施行から20年が経過した現在、その構造的矛盾が限界に達しています。現状、A型事業所の利用者は一般企業の労働者と同様に法定雇用率の算定対象となります。A型事業所は、国からの「福祉サービス報酬(自立支援給付)」を運営原資として受け取りながら、同時に「雇用関連の助成金」を受給し、さらに「法定雇用率の算定対象」という雇用上のメリットも享受しています。 この「福祉」と「雇用」の二重構造に対し、自力で雇用環境を整える一般企業との公平性の欠如や、本来の目的である「一般就労への移行」の形骸化が強く指摘されています。報告書では、A型事業を「一般就労への通過点」として再定義し、制度上に見られる旨みの部分が安易に利用されないための枠組みの構築が提言されました。

◆福祉か、雇用か。A型事業所が直面する「二兎を追う」構造の限界

就労継続支援A型事業所は本来、利用を希望する障がい者が雇用契約を結び、最低賃金以上の給与を得ながら、一般就労を目指すための「鍛錬の場」であるはずです。しかし、今回の報告書を巡る議論を交わす際に、私たちが決して忘れてはいけないことがあります。それは、「この制度は一体、誰のためのものなのか」という視点です。

現行制度のマイナス面を指摘することは簡単です。福祉サービス報酬を原資に支援員の賃金を支払い、経営を安定させている体系は、純粋な市場原理で戦う企業と単純に比較することはできません。当然ながらプラスの側面も多分にあります。例えば、一般的にB型事業所では最低賃金よりも低い工賃を支払っているため、それだけでは自立が難しい障がい者が通所しています。それに対してA型事業所は「雇用」という形で最低賃金を保障する経済的自立の基盤を提供しています。また、いきなり一般企業に入るには不安が強い方にとって、福祉的配慮のある環境で「働くリズム」を整えられる場所があることは、セーフティネットとして極めて大きな役割を果たしてきました。

社会の変化に沿って、制度もまた変化が求められます。現在、法定雇用率は段階的に引き上げられ、一昔前であれば一般企業の採用テーブルに乗ることさえ稀だった精神障がいや発達障がいのある人材が、今や企業間での採用競争のターゲットになっています。
制度が頻繁に変わることへの信頼性の疑念はあるものの、当事者である障がい者の生活向上と、時代に即した働き方を考えたとき、福祉サービスもまた、その中身をアップデートさせる必要があると考えます。

①A型事業所の「社会における役割」の再定義の必要性


なぜA型事業所の役割を再定義しなければならないのか、その背景をさらに噛み砕いてお伝えしたいと思います。

現在、一般企業における障がい者雇用は、かつてないほどの熱量を持って取り組まれています。障がい者雇用を単なる「数合わせ」ではなく、自社の本業の中でどう戦力化するか、価値のある人材として求められる役割で力を発揮できるのかといった視点から、多くの工夫を凝らしている企業が増えてきました。
例えば、障がい特性に基づいた業務の切り出し、マニュアルの整備、ジョブコーチ等の専門的人材の配置に目を向け、職場で一緒に働く従業員の理解が深まるような働きかけが行われています。こうした企業の血の滲むような努力と投資を、私は高く評価すべきだと考えています。また、一般企業の場合は当然のことながら自社の利益の中から人件費を捻出し、試行錯誤しながら戦力化のための環境整備や職務開発に投資しています。失敗すれば経営に直結する、まさに「真剣勝負」の雇用と表現できます。

A型事業所は、障がい者の「雇用」を担う一翼として重要な機能を果たしています。しかし、一般企業による雇用と比較したときに構造的な違いがあります。A型事業所は福祉サービス報酬という公的な安定財源が経営を支える構造にあるため、極端な言い方をすれば、利用者がそこに「留まり続ける」ことが事業所の安定経営に寄与してしまいます。本来であれば、利用者の成長に合わせて一般就労という次のステップへ背中を押すべき立場でありながら、優秀な人材ほど手放したくないという「雇用の囲い込み」が生まれる状態が見られます

企業側からすれば喉から手が出るほど欲しいと感じられる働く意欲と能力のある人材が、本人の意思とは関係なく福祉の場に留め置かれたならば、社会全体としての適材適所が阻害されていると見られてしまいます。これは労働市場全体で見ても大きな損失であり、何より本人の可能性を摘み取ることになりかねません。

「福祉サービス報酬をもらいながら、雇用率のカウントも得られる」という構造は、一般企業が自腹を切り、試行錯誤しながら雇用を維持している現状と照らし合わせたときに、歪みに近い印象を受けてしまいます。A型事業所は、本人の成長度合いに応じた選択肢を誠実に提示できているのか。それとも、経営維持のための「戦力」として囲い込んでいないか。この背景があるからこそ、A型が「福祉」なのか「雇用」なのかという問いが、今、鋭く突きつけられているのだと考えます。

次回へ続きます。

ABOUTこの記事をかいた人

[障害者雇用コンサルタント]
雇用義務のある企業向けに障害者雇用サポートを提供し、障害者の雇用定着に必要な環境整備・人事向け採用コーディネート・助成金相談、また障害者人材を活かした事業に関するアドバイスを実施。障害者雇用メリットの最大化を提案。その他、船井総研とコラボした勉強会・見学会の開催や助成金講座の講師やコラム執筆など、障害者雇用の普及に精力的に取り組んでいる。

▼アドバイス実施先(一部抜粋)
・opzt株式会社・川崎重工業株式会社・株式会社神戸製鋼所・沢井製薬株式会社・株式会社セイデン・日本開発株式会社・日本電産株式会社・株式会社ティーエルエス・パナソニック株式会社・大阪富士工業株式会社・株式会社船井総合研究所・株式会社リビングプラットフォーム