【上前のひとり言】「可能性の引き出し方」体験が紡ぐ人生の選択肢と組織の未来(前編)

ひとり言です。

■はじめに:自分ができること、やりたいこととの出会い

私たちが日々の生活の中で、「あ、これは自分に向いているかもしれない」「自分にはこんなことができるのだ」と気づく瞬間は、一体どのようなときに訪れるでしょうか。

その多くは、頭の中でじっと考えているときではなく、何らかの「体験」を通じた実感を伴ってやってきます。例えば、旅行先で参加したスキューバーダイビングなどのアクティビティでの経験であったり、友人に熱心に誘われた手作りのお皿や料理体験であったりといった、ちょっとした体験がきっかけになることが多いものです。
自分から能動的にその体験の場へ参加することはもちろんですが、誰かに背中を押されて受動的に参加した場であっても、そこには新しい自分との出会いが待っています。重要なのは、その体験の場に身を置いたという事実そのものです。人は、具体的な体験を通じて初めて自分の感情や適性を揺さぶられ、まだ見ぬ自分自身の可能性や、「これならできる」という得意分野に気づくことができるのです。

■体験という「場」が持つ圧倒的な価値


このように考えると、人が可能性を開花させるためには、大前提として「体験する場」が社会にどれだけ存在しているか、という点が極めて重要になってきます。体験を望む人がスムーズに行動に移せるような環境があることはもちろん 、偶然のタイミングや周囲からの促しによって、期せずしてチャンスを掴めるような選択肢が社会に多数用意されていること。少し大袈裟ですけど、それ自体が個人の可能性を育む豊かな土壌であり、人生を前に進めるための大切な原動力になるのではないかと考えます。
したがって、こうした「体験の場を提供する側」の存在には、非常に大きな社会的価値があると思います。このことは誰かの人生の選択肢を広げ、眠っている才能を呼び起こすための「舞台」を創り出しているからです。

「働く」ということについても、全く同じことが言えます。
例えば、私の高校時代の同級生のケースが非常に分かりやすい典型例です。彼は大学時代、小遣い稼ぎという軽い気持ちで居酒屋のアルバイトを始めました。しかし、その現場で「一般的な企業に就職してスーツを着て営業をするよりも、今までのアルバイトの経験を通じて、料理と接客が好きなのだということに気づいた自分にとっては、飲食店を自分で開いた方がいい。」と考えていました 。
その結果、彼は大学卒業後、そのまま飲食業界へと就職し、数年間の修行を経て独立開業を果たしました 。それから20年以上が経過した今でも、彼のお店は多くのお客さまで連日予約が埋まるほどの人気店として親しまれています。
もし、彼が学生時代にその居酒屋でのアルバイトという「体験」をしていなかったら、現在の成功や、彼自身の充実した人生はなかったかもしれません。学生時代の何気ない体験が、その後の人生を決定づける一端を形成し、進むべき道を鮮やかに照らし出してくれたのです。もちろん、すべての人がこのように一本道で進むわけではありませんが、人生のプロセスにおいて「体験」という経験が、眠っている可能性を呼び起こす強力なトリガーになり得ることを示す事例であると考えます。

■障がいのある人が直面する「体験の圧倒的不足」


この「体験を通じて可能性を引き出す」というアプローチは、障がいのある人の就労やキャリアを考える上でも、完全に同意できるものであり、むしろ最も重要視されるべき視点だと思います。
しかし、現在の我が国における障がい者を取り巻く環境を見渡したとき、そこには大きな課題が横たわっています。すべての人に一概に当てはまるわけではありませんが、特に先天性の障がいを持つ方々にとって、幼少期から青年期にかけて「何かを体験する場面」は、一般の人々と比較しても圧倒的に限定されているのが実情です。
移動する場面での制約、ライフスタイルで見られる環境の未整備、あるいは周囲の過度な遠慮や先回りしたリスク回避によって、障がい者は「やってみる」という機会そのものを奪われがちです。体験の場が限定的であるため、自分が何を好きで、何が得意で、何ならできるのかを知るためのデータ(経験値)が自分の中に蓄積されません

このような状態から、いざ「働く年齢になったから自分にできる仕事を探しなさい」と言われても、それは困難を極めるのは当然です。周囲もまた、本人が体験している姿を見たことがないため、「あれもできないだろう」「これも無理かもしれない」と、消去法で選択肢を狭めてしまいがちです。現在、多くの障がい者がこのような「可能性の手前で足止めされている」状況に置かれているだろうと感じています。

次回に続きます。

ABOUTこの記事をかいた人

[障害者雇用コンサルタント]
雇用義務のある企業向けに障害者雇用サポートを提供し、障害者の雇用定着に必要な環境整備・人事向け採用コーディネート・助成金相談、また障害者人材を活かした事業に関するアドバイスを実施。障害者雇用メリットの最大化を提案。その他、船井総研とコラボした勉強会・見学会の開催や助成金講座の講師やコラム執筆など、障害者雇用の普及に精力的に取り組んでいる。

▼アドバイス実施先(一部抜粋)
・opzt株式会社・川崎重工業株式会社・株式会社神戸製鋼所・沢井製薬株式会社・株式会社セイデン・日本開発株式会社・日本電産株式会社・株式会社ティーエルエス・パナソニック株式会社・大阪富士工業株式会社・株式会社船井総合研究所・株式会社リビングプラットフォーム