企業の人事担当者の皆さんは障がい者の求人を行うときにどのようなルートを活用されているのでしょうか。
ハローワークを中心に職業センターや障がい者就労・生活支援センターへの相談。または、障がい者求人に特化した人材会社や求人サイト。それに、地域にある就労系福祉事業所など、近年は障がい者の採用に積極的な企業が増えてきましたので、それに伴って障がい者の就職を支援する団体や企業も増加傾向にあります。
これらに加えて、大学に通う障がい学生も採用のターゲットとして取り組む企業が増えてきました。確かに高等教育機関である大学にまで進学する障がい学生であれば企業の将来にとっては必要となる人材だと考えられます。実は、大学に通う障がい学生を採用するために採用計画を立てて実行している企業は随分前から存在していました。それらの企業のターゲットは主に身体に障がいのある学生であり、彼ら自身も自らの力で企業へエントリーし、内定を勝ち取っている状況にありました。
しかし、時代は進み身体に障がいのある学生の採用競争も激しくなってきました。これは一般採用と同じ状況にあると言えます。その一方で、大学では障がいのある学生の数が右肩上がりに増えてきている状態になってきています。これは、自らの障がいを認識した学生が増えてきているのもひとつ理由です。また、大学のレベルに関わらず発達障がいのある学生が増えてきているというのも事実です。
企業の人事担当者として、現在の大学における障がいのある学生の状況についてもっと詳しく知ることで、障がい学生を企業の戦力として採用できると考えています。
今回は、京都大学にあります障がい学生支援ルームでご活躍されている准教授の村田淳氏に現状の障がい学生について語っていただきました。
村田氏は、障がい学生支援ルームで日々障がいのある学生の修学に関する相談の対応をする傍ら、日本学生支援機構や文部科学省などの仕事にも従事されており、多くの障がい学生の支援に役立つ活動をされておられます。
「大学に通う障がいのある大学生」について
全国的にですが、ここ10年ほどで障がいのある大学生の数が増加傾向にあります。
これまでは身体に障がいのある学生が中心だったのですが、精神障がいや発達障がいのある学生が増えており、それ以外にも病弱・虚弱(内部疾患など)のある学生の数も増加傾向にあります。
それに伴い、障がい学生支援ルームとしての障がい学生への対応も変化してきました。私どもの障がい学生支援ルームを利用する学生は様々な修学場面で困りごとを抱えた状態にあります。これまでであれば、カウンセリング等を中心としたアプローチが多かったのですが、特に増加傾向にある発達障がいのある学生への支援の場合、授業の受け方や普段の生活スタイルについてなど、個々で持つ悩みや問題に対してのより社会的なアプローチが求められるようになってきました。
これにより、大学のおける障がい学生を対象とした支援に関する課題認識も徐々に変わってきています。当然のことながら、大学として支援する内容についても増えてきているというのが大きな変化といえます。
京都大学に限らず、全国の大学でいえることなのですが、発達障がいのある学生の数が増えてきている要因のひとつとして「世の中で求められている人物像の変化」が挙げられるのではないかと考えています。医療や支援機関の変化も大きいですが、産業構造の変化に伴い、大学における教育の内容やスタイルにも変化を及ぼしています。つまり、環境や社会の変化に伴って必要とされていることも変わってきたことで、その必要とされていることが苦手な学生たちの存在が浮き彫りになってきたとも捉えることができ、増加というより顕在化という言い方ができるかもしれません。
そのため、個性のひとつと捉えることができるかもしれない個々の特徴も現在の社会のなかでは障がいのある人となってしまっているのかもしれません。
但し、発達障がいに対する認識の浸透が親や先生など周囲が知識を持つことで、これまで以上に支援が届くようになってきたというのもひとつの事実ではあります。
京都大学では留学生が多く、彼らの中には発達障がいと診断されている学生もいます。
実は、特に欧米では発達障がいであるASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠如・多動症)、SLD(限局性学習障害)に対する支援が非常に進んでいます。そのため、留学生のなかにも一定数、発達障がいのある学生がいることになります。
もちろん、欧米の支援が良くて日本がダメということではありません。日本のなかでも素晴らしい実践が多く行われていますが、全体をみればまだまだ発展途上中だと言えます。
「大学側の支援の変化」について
前項でもお話しをしました様に、大学に入学してくる障がい学生数の割合は身体障がいに比べて精神・発達障がいのある学生が増加傾向にあります。
このような状況にあわせて、障がい学生支援ルームを利用する学生も増えたため、支援ルームの体制(スタッフ等)も少しずつ強化されています。ただ、京都大学のなかでは障害学生支援ルームだけが相談窓口ではなく、医療的なことであれば保健診療所、心理相談等であればカウンセリングルーム、又各学部にも相談窓口が設置されているという学部もあります。学生によっては、困りごとの内容に応じて、いずれかの窓口を利用したり、複数の窓口を利用したりすることになります。
このように、窓口によっては医療的であったり福祉的であったりと多角的な形態を準備し、様々な対応を取れることが求められているということが言えるかもしれません。この時に注意が必要なのは、支援を求めている障がい学生がたらい回しになってしまってはいけませんし、関わる支援スタッフが増えるのであれば、スタッフ間による連携が重要になってくるということです。
また、学生の持つ「教育を受ける権利」に対しても真摯に対応をしていくことが求められています。どうしても、「前例がないからできない」という姿勢ではなく、「前例がなくても対処をしていく」という姿勢を持つことが必要となっています。
今後は、大学の障がい学生に対する支援も、大学を評価される上で注目される時代になってくると考えています。
現在、各大学における障がい学生に対する支援体制を見たときに温度差を感じることがあります。これは、情報収集が得やすくなった時代の学生からすると、大学の選択基準のひとつになってきます。「教育しやすい学生」と「教育しにくい学生」とを区別している大学に対する外部からの視線や評価というものが今後の大学運営に大きな影響になってくると思います。障がい学生支援が大学の価値を図る物差しとなってくるのではないでしょうか。その点は、おそらく企業の皆さんも気付き始めているのではないでしょうか。
後半は次回のコラムでご紹介します。