私は普段、企業向けに障がい者雇用のコンサルティングをしています。「どのようなことをしているのですか。」と聞かれることが多いのですが、「求人・採用のアドバイス」「活用できる助成金」「研修」など、具体的に答えようとするとたくさんあり過ぎてしまって困ってしまいます。
そのため、「障がい者の雇用やはたらくことに関係することは何でも。」とお答えしています。
これまで、本業であるコンサルティングやミルマガジンの取材を通じて、たくさんの企業の取り組みや事業所の支援の形を見てきましたし、これからもこの活動を続けていきたいと思っています。
これらの経験から感じることは、企業が実践する障がい者の雇用や支援の形は様々だということです。これは、障がいというのは人の性格と似たところがあり、障がいの特性には個々に微妙な違いあります。そういったことを知っている企業は、雇用する障がい者に同一の配慮を提供しても理想には届かないことをこれまでの経験により身に着けているのです。
仕事のひとつに障がいの当事者との面談があり、毎月多くの方からお話や相談を聞かせていただくのですが、このような面談は当事者の生の声を聞くとても貴重な機会となっています。
相談の種類は様々ですが、障がいの特性から感じる日常生活の不便や困り事に関する内容も多く、そのような時には生活に取り入れられそうな工夫やアドバイスをお話します。ところが、「その工夫は自分には合わない」や「できない」という返事をもらうことも少なくありませんでした。
例えば、発達障がいのある方から「感覚過敏(視覚)の影響で仕事に集中することができない」という相談をいただいたことがありました。そこで、人事担当者を中心に職場にもご協力をいただき、「人の動きが気にならない席」「デスクにマットを敷いて蛍光灯の反射を軽減させる」という対策を実施してもらい、様子を見ようということになったのですが、1ヶ月が経過しても一向に改善が見られませんでした。
そこで、再度職場責任者を交えて本人からのヒアリングを行ったところ、感覚過敏による業務への影響はある程度改善されたのですが、それ以外に「担当業務との適性不一致」が原因で仕事に集中することができなかったという点が見えてきました。
本人とっては、せっかく就職できた会社でもあり与えられた仕事は頑張って自分のものにしないといけないという強い想いがあったために、実は自分の適性と業務が合っていないことに気が付かなかったようでした。
答えは「本人」を見てお話を聞くこと
最近は障がい者をテーマにした書籍も増えてきており、ミルマガジンでもご紹介をしてきました。特に「大人×発達障がい」を題材にした内容の書籍も多く、当事者・医療従事者・支援者など、色々な立場の目線で執筆されています。
そこには、発達障がい者と関わりを持つ際に必要となる理解へのヒントや支援方法が記されているのですが、あくまでもひとつの方法であったり、筆者にとっては最良であったということで、完璧な配慮の方法を教えてくれるものではないということを認識してほしいと思います。
過去に初めて精神障がい者の採用を検討している企業の人事担当者から「うつ病を患った人を採用する場合、どのような配慮をすればいいですか?」というご相談をいただきました。
おそらくその人事担当者は、
- 「〇〇の仕事はさせないように」
- 「週20時間勤務から始めましょう」
- 「孤立しないように昼休憩も他の従業員と過ごせるようにしましょう」
というような、教科書通りの答えが欲しかったのかもしれません。
正解かもしれませんし不正解かもしれません。答えは本人を見て、話を聞き、その方に合った配慮を考える必要があるということです。
書籍やメディアで取り上げられている障がい者に対する配慮は、個々の障がいにみられる特性の理解につながる知識の一端であり、その障がいのすべてを表現しているわけではありません。当事者が求めている配慮を提供しようとするなら、それぞれの方たちに耳を傾けることになります。
障がい者雇用を進めるにあたって、理想を高く持つことは大切なことですが、最初からハードルを高く設定してしまうと第一歩が出にくくなります。
障がい者の雇用が法律によって義務化されてから40年以上が経ち、まだまだ道半ばとはいえ、当初から比べると社会情勢や時代の変化もあって、企業の雇用数や取り組み内容は大きく進んできました。
障がい者の雇用は“点(一部)”から“面(全体)”で取り組むことが求められています。それは、組織が大きくなるほど強くなりますが、その一方で障がい者に対する理解や雇用定着への協力を得ることは簡単ではなく、中には障がい者雇用に対して否定的な考え方を持つ人も少なくなく、職場には邪魔だと考えている人もいるでしょう。
障がい者には個々の違いがあるのと同じように、企業の障がい者雇用にも個々に違いがあって良いと考えています。それぞれの会社が先ずは身の丈に合った雇用の形を模索し、結果として理想的な障がい者雇用の頂に立てれば良いのではないでしょうか。
私は自分の活動を通じて、法定雇用率を守っている企業にも、納付金(罰金)を支払っている企業にも、「障がい者の雇用は企業にとってデメリットではなくメリットになる」ことを伝える役割りであり、義務だと感じています。
これからも、まだまだ出会っていない素晴らしい障がい者の雇用を発見し、皆さんにお伝えしたいと思います。