前回の続き。
③ 数値を超えた雇用の在り方:人的資本経営と真のインクルージョン
2026年7月に引き上げられます法定雇用率2.7%という数値は、企業にとって障がいのある人材の活用を目指すための「最低ライン」に過ぎません。2026年以降、障がい者雇用の先進企業は「数値を満たすための雇用」から「企業価値を高めるためのインクルージョン(包摂)を踏まえた雇用」を念頭に、取り組みを進めるところが増えてくると考えます。これは、障がい者雇用を数合わせの次元からDE&Iやコンプライアンスの文脈だけで語るのではなく、ESG投資や人的資本経営の中核戦略として位置づけることが珍しくなくなってくることを意味します。
障がい者雇用に取り組む企業の中には「障がい」を「異能」として捉え、例えば発達障がいの中に見られる高い集中力やパターン認識能力、独自の感性などをイノベーションの源泉として捉え、戦力人材の視点で活用しようとする動きが増えてくると感じています。海外テック企業で先行しているような雇用事例が、2026年以降には日本の企業にも徐々に波及し、研究開発、品質管理、デザイン、データ分析などの領域で、障がいのある社員が高いパフォーマンスを発揮する事例が増加して欲しいと思っています。
また、「数値を超えた雇用」は結果として、障がいの有無にかかわらず組織全体の「誰もが働きやすい職場環境」の追求へと繋がります。誰にとっても働きやすい環境(明確な指示、静かな作業スペース、柔軟な勤務時間、心理的安全性など)は、全従業員のエンゲージメントを高め、離職率を低下させるという「好循環」を生み出すと考えます。
④ 中小企業こそ障がい者を戦力化:「労働者不足」から「生存戦略」へ

長らく、中小企業にとって障がい者雇用は「遠い存在」と捉えられていたかもしれません。しかし、2026年以降も少子高齢化による労働力不足がさらに加速し、特に中小企業の経営に大きな影響を与えることになります。そのような中、障がい者雇用は「生存戦略」としての意味合いを帯びてくると考えます。大企業が賃上げや福利厚生で人材を囲い込む一方で中小企業が労働力を確保するためには、労働市場においては十分に活用されてこなかった層、すなわち「障がい者の戦力化」が重要な存在となります。
中小企業が障がい者を戦力化する最大の武器は、その「即断力」と「柔軟性」だと思います。大きな組織に比べ、時間を掛けずに決断を下し、個人の特性に合わせて業務内容や勤務時間を柔軟にカスタマイズできる点は、中小企業ならではの強みです。特に、2024年4月から施行された「週10時間以上20時間未満」の超短時間労働者の雇用率算定特例は、中小企業にとって大きな追い風となります。長時間勤務が難しい精神・発達障がい者や重度障がい者を必要な時間帯に必要な業務だけで雇用するスポット雇用を導入期と考え、障がい者の戦力に対する認識が深まれば、フルタイムによる勤務一人分の業務を複数人で分担するワークシェアリングを定着させることもできます。
また、「業務の切り出し」の概念も進化します。障がい者に与えられる仕事に多く見られる「清掃」や「軽作業」といった周辺業務を切り出すのではなく、中小企業の現場でボトルネックとなっている事務作業やデータ入力、在庫管理などの業務を洗い出し、それを障がいのある社員に任せることで、営業職や技術職などのコア人材が本来の業務に集中できる環境を作ります。これは障がい者支援であると同時に、全社の業務効率化(BPR)プロジェクトそのものです。障がい者を雇うことで、社長やエース社員が『本来稼ぐべき仕事』に使う時間が週〇時間増えるといったメリットを享受できます。
「中小企業だから無理」ではなく、「中小企業だからこそ、個に寄り添った戦力化ができる」。このマインドセットの転換に成功した企業だけが、2026年以降の厳しい人材獲得競争を生き抜き、多様な人材が活躍する強い組織を構築することができると考えます。
⑤ B型事業所の役割の重要性:利用者と企業を繋ぐ

就労継続支援B型事業所(以下、B型事業所)は、これまで「一般就労が困難な方の居場所」としての福祉的側面が強調されてきました。しかし、法定雇用率の上昇と企業の人材ニーズの多様化に伴い、2026年以降のB型事業所には、企業就労への「架け橋」および企業の「ビジネスパートナー」としての役割が強く求められるようになると感じています。
まず、企業への「架け橋」としての役割です。
企業が求める人材レベルと、就労移行支援事業所の利用者層だけでは需給バランスが取れにくい状況の中、B型事業所に通所されている「潜在的な労働力」に注目が集まります。これからのB型事業所は、利用者の体調やスキルに合わせて、より実践的な職業訓練を提供し、就労継続支援A型や一般就労へとステップアップさせる「人材育成のプラットフォーム」としての機能を強化する必要があります。特に、「施設外就労」の仕組みを活用し、利用者がB型に在籍しながら企業の現場で働く経験を積むモデルは、企業側にとっても人材が持つスキルや企業で働く能力を確認し、採用のミスマッチを防ぐ有効な手段として活用することが期待されます。
次に、企業の「ビジネスパートナー」としての役割です。
すべての障がい者が直接雇用になじむわけではありません。企業にとって一人分の業務量を確保できない、繁閑の差が激しい業務をB型事業所がアウトソーシング(業務請負)として受託するケースが増加します。現に、新たに業務請負を受注する件数が増えているB型事業所が複数見られます。これは単なる下請けではなく、企業の一部門のように機能する高度な連携として捉えられるところもあります。2026年以降は、納期管理や品質管理(QC)といったビジネスの論理が実践されるB型事業所側は企業にとって重宝がられます。工賃向上と企業の生産性向上を両立させる「Win-Win」の関係構築が重要になります。
さらに、B型事業所の職員が持つ専門性(障がい特性の理解や対応ノウハウ)をうまく活用して、企業内で働く障がい者への定着支援を行うなど、福祉のノウハウをビジネス・サービスとして提供する動きも活発化するでしょう。
以上、好き勝手なことを並べ立てました。2026年の障がい者雇用に取り組み企業にとって、決して楽な年ではありません。しかし、乗り越えた企業だけが次の10年を作ることができると感じています。ぜひ、障がい者雇用を組織の成長に繋げる取り組みにしていただきたいと思います。





