『グレーゾーン』という言葉を耳にされたことがあるでしょうか。
グレーゾーンとは、「日常のいくつかの場面で発達障がいの特性が原因となり困りごとを感じながらも、発達障がいとしての診断基準を満たしていないために障がい者手帳が取得できずにいる方々を表現した言葉」です。グレーゾーンの方達も様々で、自分には発達障がいの傾向があると認識している人もいれば、職場などの周囲の人たちに気づかれないようにひとつひとつの行動に気を使う人など。
時々、人から「発達障がい者と健常者の違いを教えてください。」と質問をされることがあります。発達障がいを表現する特性として「場の空気が読めない」「コミュニケーションが苦手」「こだわりが強い」「匂いや音への感覚過敏」などが挙げられるのですが、それらを人に説明してもどこかしっくりこないと感じます。セミナーや研修では発達障がいと健常者の区別はグラデーションを分けるようなもので、明確に区別するのは難しいとお話をします。それは、場面によっては発達障がいでなくてもこれらの特性を自分の中に感じることがあるからです。
私は50年の人生で「完璧だ」と感じる人に出会ったことがありません。当然自分も含めて。
仕事ができる人でも、コミュニケーション力が抜群の人でも、必ず何処かに「あれ?」とか、「◯◯が苦手なんだ」と感じたり、自分から「△△がダメなんです」と話される人もいたりして、完璧な人は存在しないと思っています。
発達障がい者は私たちが普段の生活を送る中で感じる苦手や不便の度合いがより高く、それらから強いストレスを感じて体調に影響が出たり、当たり前の日常で我慢を強いられる場面が多いのだと考えます。
一方で周囲の人たちはそういった状態について理解を進めるのは非常に困難であり、職場で発達障がい者(傾向の強い人も含める)と一緒に仕事をすることで感じる違和感がストレスになってしまうことも少なくありません。
直近となる令和6年度4月と令和8年度7月から法定雇用率がそれぞれ引き上げられますので、今以上に職場で雇用される障がい者の数は増えていきます。これまではあまり関わることがなかった発達障がい者とも同僚や上司部下の関係として共に過ごす時間が増えることになるでしょう。
多様性社会とは「自分以外の価値を受け入れること」だと考えます。
今回ご紹介する『グレーゾーンの歩き方』という書籍ですが、文頭でお話をした発達障がいグレーゾーンの人たちから見た世界とその世界での生活・経験を、「旅人」の視点から描かれています。
発達障がいでない人が過ごす当たり前のような世界は発達障がい者からはどのように見えて、どのように感じられているのでしょうか。
本著は、「自分はグレーゾーンだ」と認識している人だけでなく、「もしかしたら発達障がいかも?」と感じている人が認識を深めるために執筆された内容だと思います。
また、職場で発達障がいのことをさらに理解するために加え、人の中に必ずある特性を認識して組織のマネジメントに活かすことも出来る内容だと思います。
目次では、発達障がいの特性ごとに分けられています。
例えば、多動性が強い特性のページでは、複数の当事者の体験談がひとつずつの短いエピソードとして語られます。またなぜそのような行動をとってしまうのかといった特性ごとの分析として解説がされていますので、感覚的に捉えるのではなく「なぜ」が理解できる内容となっています。
それぞれの項目にはチェックリストが設けられており、自分がどの特性に当てはまっているのかを知ることができますので、自分の苦手を理解し、それらを補うための工夫を取り入れる参考にできます。
本著の最後には「旅のガイド」として、普段の生活を生きやすくするための心構えや知識がまとめられています。自分の感じる苦しさは他人に分かってもらいにくいところがあります。
しかし、同じ苦しさを感じている人であれば共感が生まれ、解決方法が見つかるかもしれません。
この世の中には私たちが想像もしない世界を生きている人たちがいることを知ることから始めてみてはどうでしょうか。
発達障がい・グレーゾーンの世界を理解する本
著 者:成沢真介(なりさわ・しんすけ)
元特別支援学校教諭。荘子とH.D.ソローに影響を受ける。
日本児童文学者協会にて丘修三氏より児童文学を学ぶ。30年に渡る療育の経験からたくさんの発達障がいの子ども達と出会う。児童書「ADHDおっちょこちょいのハリー」「ジヘーショーのバナやん」(少年写真新聞社)の他、「先生、ぼくら、しょうがいじなん?」(現代書館)、「虹の生徒たち」(講談社)、「生きづらさを抱えた子の本当の発達」(風鳴舎)など著書多数。
文部科学大臣表彰、日本支援教育実践学会研究奨励賞、兵庫教育大学奨励賞を受賞。
監修者:瀧靖之(たき・やすゆき)
東北大学加齢医学研究所臨床加齢医学研究分野教授。
東北大学スマート・エイジング学際重点研究センター副センター長。
脳のMRI画像を用いたデータベースを作成し、脳の発達のメカニズムを明らかにする研究者として活躍。読影や解析をした脳MRIはこれまでに16万人に上る。
「脳医学の先生、頭がよくなる科学的な方法を教えて下さい」共著(日経BP)、「回想脳 脳が健康でいられる大切な習慣」(青春出版社)、講談社の動く図鑑MOVEシリーズなど著書多数。
発行所:株式会社風鳴舎
東京都豊島区南大塚2-38-1 MID POINT 6F