障害者雇用に大きな影響となる法律である「精神障がい者の雇用義務化」の施行とそれに伴う「障がい者法定雇用率の上昇」がいよいよ目前に迫ってくるのにあわせて、人事担当者の方々との打合せやご相談の際に多くのことをご質問いただきます。「法律に関すること」「活用できる助成金」「罰則や罰金」「他社の動向」などが挙げられますが、その中でも「発達障がい者」の求人や雇用に関する内容が非常に目立つようになってきました。
「発達障がい」に対する認知も少しずつ広がってきているように感じていますが、まだまだ「未知なる存在」という認識が圧倒的なのではないでしょうか。
発達障がいのイメージ
最近では、発達障がいを取り上げた特集番組などで紹介される事例が、社内で問題視される従業員の行動と似ていたりすることがあり、どうしてもマイナスなイメージが先行してしまって、企業の「発達障がい者」の採用を邪魔している面があると感じています。
これは、「発達障がい」に関する情報があまりにも少ない中で、インパクトのある話題や事例が紹介されてしまうため、そちらの情報だけが強い印象として残ってしまうために起こる事象です。
「発達障がい」の認知が広がる一方で、こういった問題も発生しており、今後の障がい者採用にとってネガティブな影響となってしまうなぁと危惧しています。
私は「発達障がい」の特徴をしっかりと掴み、正しい知識を持てば、義務感だけではなく企業にとって大きな戦力になると感じられるはずです。実際、「発達障がい者」の能力を理解し、採用をしている企業が存在します。その企業は彼らの強みを活かした業務配置により、十分なメリットを感じています。
発達障がい者の採用に興味を持っている人事担当者に読んで欲しい一冊
星野仁彦氏の著書『会社の中の発達障がい』です。
著者の星野氏は、ご自身も発達障がいを持つ現役の医師という立場でいくつかの著書を執筆されています。もしかすると、星野氏が執筆された他の書籍を読まれた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
読み終えた感想は、「発達障がい」の特徴を端的に分かりやすくまとめられているという印象です。
おそらく、「発達障がい」について伝えたいことを文章に表した場合、膨大な量のページが必要になってきます。しかしこちらの書籍では、「会社の中」を切り口としているので、読者がイメージしやすい文面が特徴です。
こちらの書籍をお勧めしたい大きな特徴のひとつとして、「発達障がい」を持つ人が働く場面での見かける行動や特徴について、多くの事例を用いて紹介しています。
少し、大袈裟な印象も受けなくはないですが、紹介されている事例の中を読んだ時に、そのエピソードに該当する従業員が頭に思い浮かぶ読者もいらっしゃるのではないでしょうか。
先ほどもお伝えしましたが、著者である星野氏自身も発達障がいを抱えていらっしゃるということで、書籍の中で幼少期から現在に至るまでのエピソードがたくさん紹介されています。
エピソードのほとんどが失敗談であり、今だからこそ笑い話になるといった形式で書かれています。
しかし、発達障がいを持つ方々はその特徴のために他の方たちと比較した時の違いが原因で、幼少期より周囲からのイジメや叱責の対象となり、その結果自己肯定感が持てずに自分を責め続けて生きてきた人が少なくありません。
自分で想像してみて欲しいのですが、同級生や周りの人たちが普通にできる事が、自分はできずに笑いものにされたり悪い評価を受けてしまう。「発達障がい」という脳の機能障がいが原因ということも分からず、ただただ自分の能力の低さを責めながら生きていかないといけない境遇というのは計り知れないものだと思います。
もうひとつ、こちらの書籍をお勧めする点として、後半部分にあります「発達障がいに似た症状と発達障がいの治療法」という項目ですが、是非読んでいただきたいと思います。
「発達障がい」の特性として、周囲から見て理解しづらい部分があるというのはご存知のことだと思いますが、「他の精神疾患発症の原因」である場合や「一見すると間違えてしまうぐらい似た症状」という面があります。
例えば、「他の精神疾患発症の原因」というのは、うつ病を発症した方の治療を進めていった時に見られるケースなのですが、実は生来持っていた「発達障がい」に気づかなかったために、周囲とのズレなどから抱えてしまったストレスがもとでうつになってしまったというものがあります。この場合、診察をした医療機関が「発達障がい」に気づかずに治療を続けてしまい、症状が改善されないということもよく聞く話です。
書籍の最後にあります「おわりに」に印象深い文章があります。ここでは、敢えてご紹介しませんが、「発達障がい」についての可能性を感じさせる文面です。
今回ご紹介しました「会社の中の発達障がい」やその他の「発達障がい」を解説する書籍を読んだ時にも、「自分も発達障がいの特徴と重なる部分がある。」ということをいつも感じます。発達障がい者は「宇宙人」ではありません。注意深く観察してみたり、その特徴を理解するようにしてみると、自分と重なる点が見えてきます。
近い将来、「発達障がい」は今よりも理解が進み、その特徴が世の中で活用される日が来ると思っています。障がいの特徴が企業のメリットとして理解される日が来ると思います。