【Q&A】障がい者を採用するときの『業務切り出し』を進めるコツが知りたい

【Q】

お世話になります。

新年度から人事部に配属となり、障がい者の求人・採用に取り掛かることになりました。
現在のところ数名の障がい者が勤務していますが、皆さん一般雇用として採用された方が雇用後に障がい者手帳を取得しケースばかりで、これまで障がい者の新規採用の経験がありません。そのため、各関係機関やハローワークを訪問し、情報収集しながら採用の準備を進めています。

新たな採用に向けた準備に取り掛かる中、「業務の切り出し」についてどのように進めれば良いのか悩んでいます。障がい者の受け入れに対する理解がこれからの中、「業務の切り出し」として部署への説明や協力の依頼方法がわかりません。参考にできる進め方があれば教えてください。
よろしくお願いします。

《情報通信、従業員数約360名、人事担当者》

【A】

ご相談ありがとうございます。

今年度2024年は障がい者雇用促進法の改正があり、法定雇用率が2.5%(2026年7月1日に2.7%)に引き上げられたこともあり、障がい者の求人・採用活動に取り組む企業が増加傾向にあります。
すでに障がい者雇用に取り組んでいる企業は法定雇用率の引き上げに応じて障がい者の新規採用枠を増やしていることに加え、これまで障がい者の採用経験がなかった企業も新たに採用活動を始めるなど、障がい者の採用競争が一段と強くなることが考えられます。

今回のご相談は「業務の切り出し」についてということですが、企業が障がい者採用に初めて取り組む際に直面する悩みのひとつとして挙げられます。

現在は法定雇用率の引き上げもあり、企業ではたらく障がい者の数も年々増加しています。企業規模が大きくなるのに合わせて、複数の障がい者がはたらくことになると組織によっては受け入れる部署も複数になります。そういったことも想定した場合、社内の様々な部署から障がい者に任せる仕事を切り出す工程が生まれます。各部署の責任者へ「障がい者に任せる業務を切り出してほしい」と伝えるだけで全ての従業員が協力的な姿勢を示す組織がある一方で、障がい者の受け入れに積極的でないところがあるのも事実です。

障がい者採用を進める上で実現させたい「業務の切り出し」のコツ【OOP(オーオーピー)】を下記に挙げました。障がい者の採用活動のひとつである「業務の切り出し」を始めるにあたり、各部署からスムーズに協力を得られる方法についてご紹介をしますので、自社にて取り組む上で参考にしていただきたいと思います。ポイントは「困りを解消する」です。

◯【Overwork(長時間労働・安全衛生)】


近年になり、これまでは職場で当たり前だと感じられていたことが少しずつ見直されていき、企業は労働者がプライベートな生活も充実したものにできることを考慮した「新しいはたらくスタイル」の実現を求められるようになったと感じます。厚生労働省からも労働時間についての指針が公表されています。
また、2020年に発生した新型コロナウイルスによる社会への影響も我々のはたらき方を大きく変えるきっかけとなりました。

【参考】厚生労働省「時間外労働の上限規制」
https://hatarakikatakaikaku.mhlw.go.jp/overtime.html

こういった流れを受けて、企業も従業員の労働時間についてなるべく超過勤務を減らしたいと考えています。業務特性によっては時間外労働を求められてしまう従業員の労働時間を改善するひとつとして「業務の切り出し」を行なってください。

  • 時間外労働が多くなっている部門・担当者の業務から
  • 担当者にとって切り出してもらえると助かる業務
  • 担当者以外でも処理が可能な「データ入力」「請求書」「日々の集計」等

のような、担当者が本来求められている業務に集中できるための切り出しです。
業務の中には適当な処理ではいけないが細々とした事務作業レベルの仕事が含まれているようであれば、十分な切り出しにすることができます。

◯【Outsourcing(アウトソース業務)】


この機会にアウトソース(外注)している業務の中から内製化できるものがあれば切り出しの業務にすることができます。アウトソースしている業務の中には、始められた当時の状況として人手が足りなかったからアウトソースを使いそのままの契約が踏襲されているものがあるようでしたら、このタイミングで更新の検討をしてみてください。
派遣や外注している業務の契約期間を確認し、終了期日の数ヶ月前には相手先への通知のもと、内製化への準備を進めます。

  • 派遣社員に担当してもらっている業務やその一部
  • アウトソースの契約を始めた当初と現在の状況に変化があり内製化できるもの
  • 派遣社員の募集をしても決まらない部署・業務の代替案として

◯【Procrastination(先延ばし・後回し)】

「優先順位として緊急性がなかった」「労働力の確保ができなかった」「いつの間にか後回しにされていた業務」についても切り出しの候補として挙げることができます。
普段の業務に追われる一方で、スポット的に発生する業務や蓄積されたデータの集計・解析といったものについてそれらの特性によっては先延ばしにされたり、日々の業務の中で埋もれてしまっているものがないでしょうか。障がい者の採用を進めるこのタイミングを機会と捉え、改めて各部署から掘り起こしをしてもらってください。該当する部署にとっては本来であれば手をつけないといけない業務を障がい者が担当してくれるのであれば、願ったり叶ったりのはずです。「業務の切り出し」のポイントは「困りを解消する」です。

最後にコツをもうひとつ。今回の相談者のようにこれから始めて障がい者の新規採用を進める会社でしたら、各部署からの切り出しを行う前にこのことを注意してください。
『「障がい者に担当してもらう仕事」だということを伝えない。』 です。

経験値の浅い会社が「業務の切り出し」を行う際、「障がい者に任せる」を意識することで必要のないバイアス(思い込み)をしてしまった結果、切り出す仕事がなかったとなりがちです。「この仕事は障がい者では無理だ」「この仕事については障がい者に任せられない」といった勝手な想像をしてしまいます。

障がい者の中にはできる範囲が限定的な方もいますが、最初からあれはできないこれはできないと一方的な想像により切り出す業務に影響が出てしまっては採用できるはずの雇用が困難になってしまいます。
繰り返しになりますが、初めて障がい者の採用を始められる場合は、「障がい者に担当してもらう仕事」であることを伝えずに切り出しを進めてください。

ABOUTこの記事をかいた人

[障害者雇用コンサルタント]
雇用義務のある企業向けに障害者雇用サポートを提供し、障害者の雇用定着に必要な環境整備・人事向け採用コーディネート・助成金相談、また障害者人材を活かした事業に関するアドバイスを実施。障害者雇用メリットの最大化を提案。その他、船井総研とコラボした勉強会・見学会の開催や助成金講座の講師やコラム執筆など、障害者雇用の普及に精力的に取り組んでいる。

▼アドバイス実施先(一部抜粋)
・opzt株式会社・川崎重工業株式会社・株式会社神戸製鋼所・沢井製薬株式会社・株式会社セイデン・日本開発株式会社・日本電産株式会社・株式会社ティーエルエス・パナソニック株式会社・大阪富士工業株式会社・株式会社船井総合研究所・株式会社リビングプラットフォーム