カスタードクリームやプリンなどに入っているバニラビーンズ。主にはマダガスカルやインドネシアなどの熱帯地域で生産されており、国内で流通しているほとんどを輸入に頼っています。もし、バニラビーンズが国内で生産できたなら。バニラビーンズの生産と販売が障がい者の就労と自立につなげられたなら。
一方、全国にある就労継続支援A型事業やB型事業などの就労系福祉サービスでは、「年間を通して安定した仕事の確保」「利用者が自立できる程度の給与・工賃の支給」といった悩みを抱えています。これらの課題解決になる取り組みについて取材しましたのでご紹介します。
取材にご協力をいただきましたのは沖縄県で就労継続支援A型事業所を運営している『合同会社ソルファコミュニティ』の代表である玉城卓氏からお話をお聞きしました。
A型事業所について
《話・玉城氏》
当事業所は11年前に開所しました。元々は福祉系の大学を卒業後、福岡県にある高齢者介護施設で勤務をしていました。その後高齢者介護施設での勤務経験を経て沖縄に戻り障害者就労継続支援A型事業所に転職しました。このA型事業所への転職が現在のソルファコミュニティを運営する上で必要な経験ができたタイミングでした。
ソルファコミュニティでは、利用者が望むサービスや支援を提供するためには勤務している従業員を大切にし、従業員が働きやすい職場環境を用意することが重要であるとの考え方を基本にしています。立場や役割に違いがあっても利用者も職員も同じ従業員ですから、誰もが働きやすいと思える事業所を目指しています。前職にてサービス管理責任者として従事した際、それまでの高齢者介護施設での仕事と違い障害者就労支援は施設外の関係先とのつながりが多く、利用者への支援の広がりというものを強く感じました。
また、その事業所では農業による就労支援を実践していたこともあり、農業の楽しさと障がい者の就労や自立への可能性を感じさせてくれた経験でもありました。その経験を通じて当事業所では利用者の就労訓練として農業を取り入れ、果樹や野菜の自然栽培(肥料や農薬を使用しない栽培)と作物の販売を事業収益のひとつとして取り組んでいます。
栽培した作物の販路について、果樹の場合は特定の業者への卸や直販をメインにしながら、野菜は地元スーパーの陳列スペースの一角を当事業所の販売コーナーとして確保していただき、毎日収穫した作物を並べています。
また、沖縄県も耕作放棄地の問題を抱えています。当事業所の農業で使用している農地は近隣で耕作放棄地となっていたところをお借りしています。元々はジャングルのような荒地だった状態から利用者と一緒に開墾し、農地として復活させ作物を育てています。
障がい者の労働力が課題の解決策になると考え取り組みをスタートさせましたが、今では収益が取れる農業として事業に取り組んでいます。事業性・収益性が見込めることで利用者や職員といった人材を増やしていくことができるのだということが分かりました。
バニラ農園について
これまで取り組んでいました自然栽培による農業に力を入れ実績を上げてきたことが、今回の新たな事業であるバニラ農園のお話へとつながってきました。バニラの栽培や国内で使用するバニラのほとんどを輸入に頼っていることといった詳しい話を聞く中で、就労支援事業所が抱える「安定した仕事の確保」「持続した収益事業」の悩みを解消するだけではなく、「耕作放棄地の再活用」といった社会問題の解決になる可能性を感じたことが取り組みを始めたきっかけでした。
世界で取引されているバニラの市場を見ると約10年前からバニラ豆の価格が高騰しており、現在も高値で取引されています。もし、国内で障がい者たちがバニラの栽培に成功した場合、輸入に頼っていたバニラは付加価値が高く、1度成長したバニラの木からは毎年バニラビーンズが収穫できるため継続性のある事業となりますので利用者にとっては高収入になると考えています。
また「耕作放棄地の再利用」として見た時にも、バニラを栽培する地域の気候に近い沖縄県でこの事業が成功すれば、耕作放棄地を減らすと同時にバニラが新たな産業のひとつにもなり得ます。
他にも沖縄県では失業率も高く、それに付随して子供の貧困問題が取り上げられています。中には1日の食事が給食のみという子供もいます。貧困と治安は関連性も強いため、バニラ農園を県内で広めることは障がい者に限らず、働くことで安定した給料を得ることで貧困から抜け出す機会にもしたいと考えます。
バニラ農園も他の農地と同じく耕作放棄地として荒れた状態だったところを職員と利用者が一緒になって木を伐採し、土を作り、植え付けを行いました。専門的なことでなければ、ハウスを建てることも土木作業的なことも全部自分たちで行いました。みんなが協力して作業をしたお陰でたくさんの農地を確保することができましたが、実はまだまだ開墾できていない耕作放棄地があるので、さらに農地が必要になっても拡大させることができます。
沖縄県内でのバニラ栽培は当事業所以外の農家さんでも取り組んでいます。
バニラの品質を高めるには栽培よりも発酵技術(キュアリング)が重要なのですが、その技術が解明されていないため、バニラの命とも言える香りを出す発酵技術の習得にとても苦労しました。今回、この発酵技術を解明するため東京農業大学と特定非営利活動法人ディーセントワーク・ラボと共同研究の結果、主要生産国のマダガスカル産と同じ品質のバニラの生産を確立させることができました。
バニラの栽培では1本1本丁寧な手作業が求められるのですが、障がいのある人達の中にはこの仕事にマッチした方もいて、今後バニラ栽培の拡大に伴い障がい者の給料にも反映させることができると思います。
今回お話をお聞きしたソルファコミュニティでの取り組みは、「障がい者の力」が様々な社会課題と障がい者の就労支援事業所が抱える悩みを解消する可能性を感じさせる内容でした。同社がこれまでの年月で培ってきた経験とノウハウが「課題の解決」と「新たなビジネス」を融合させる好事例に発展すると感じました。良い事業をつくるためには近道はないということでしょう。
ご協力ありがとうございました。
所在:沖縄県中頭郡北中城村熱田277
URL:http://solfa.biz
https://www.facebook.com/japanvanilla?locale=ja_JP