前回の続き。
⑤採用・雇用方針の決定
障がい者の求人・採用の場面では、雇用経験の多くない企業の場合、業務を任せるのに適した人材よりも障がい特性にフォーカスした選考に偏りがちな特徴が見られます。
その結果として想定していた採用ができなかったり、雇用ができてもミスマッチによる離職してしまうケースが少なくありません。影響として「障がい者の雇用は難しい」というイメージが付いてしまい、障がい者の採用活動が遠のいてしまいます。
前項「④」で実施する業務の切り出しをもとに、「障がいの特性(身体障がい・知的障がい・精神障がい)」よりも「経験の有無」「スキルの程度」といった配属業務に直接的な関わりのある採用基準や部署・チームにとって必要とされる人物に焦点を当てた選考が求める業務成果につながりやすく、その結果として周囲からの理解のもと職場定着を実現させます。
また、障がい者の雇用待遇についても、一般従業員と比較してスケールダウンとなる雇用条件を設けている企業が多いように感じられます。おそらく理由としては、「任せられる職域が限定的」「成長を想定していない」といった障がい者に対するイメージの偏りが原因ではないかと思います。現在、コロナ禍を経て障がい者の求人は増加傾向にあり、就職活動中の障がい者はもちろん現職中の方にとっても目移りする雇用条件も多くなってきました。今後は障がい者が企業を選ぶ時代へと移行してくる中で雇用条件・職場環境・成長できる企業に人が集まるのは必然です。
それはどのような企業かと問われれば、人材に期待を持ち、個人の特性・強みに理解を示した配置・仕事の任せ方ができる組織です。少し視野を広げてもらえると、生産年齢人口の減少が深刻化する今後において、障がいの有無に関係なく限られた人材を確保し、戦力化させる上では組織として大いにメリットとなる活用法であると考えます。
⑥求人の申し込みに向けた準備など募集や採用活動の準備
前項「⑤」に続き、障がい者採用に向けた求人活動の準備を進めていくプロセスになります。
「法定雇用率の引き上げや多様性社会の実現など、障がい者の雇用数が今後も増加」「特に都心部では障がい者の求人競争が激しくなり人材の確保がより困難な状況」を踏まえ、従来からある求人票に記載する採用条件で求職者を集めることが可能なのかの判断が必要です。企業から出される障がい者の採用情報をよく把握しているハローワークの障がい者求人窓口への相談であれば現在の募集のトレンドを確認することができますし、求人に必要なアドバイスを聞くことも身近な存在としては大きなメリットになります。
障がい者の採用活動では面接も重要なプロセスのひとつです。
企業の人事担当者から「面接でどのようなことを聞けばいいのか分からない」といったお話をお聞きします。例えば、障がいのことやお身体のことなど、聞くことで相手を傷づけてしまったり、嫌な思いをさせてしまうのではないかと気を使いすぎて本来確認が必要なことが聞けなかった結果、採用後のトラブルに発展しまうケースは少なくありません。
面接では、障がいの特性やそれに伴い職場でお願いしたい配慮について、しっかりと確認をすることが採用に進めるための大前提です。私の場合は、「どのような場面でストレスと感じるか」「体調を崩した時の状態」なども面接では聞くようにしています。こういった質問を通じて、本人がどの程度自己理解ができているのか、周囲からのサポートの前にセルフケアができる方なのかについても、長く働いてもらいたい企業としては確認しておきたいところです。
そのため聞き漏らしを防ぐこと、面接での基準を明確にするために予め「面接質問シート」を準備するのも良いでしょう。
⑦企業内の支援体制等の環境整備
障がい者の採用活動が最終段階を迎える頃には配属先予定となる部署の受け入れ準備を整えることも大切な職場定着の要素です。現在は、受け入れる障がい者の特性も身体障がい者・知的障がい者に加えて、精神障がい者・発達障がい者を雇用し、戦力化している企業が増えてきました。
精神障がい・発達障がい特性は、内面的な特徴が強く、顔貌と同様に個々で求める配慮に違いがあるため、雇用経験の浅い企業では受け入れに戸惑いを感じることも少なくありません。また、企業内だけで全てをサポートできる体制づくりは非常にハードルが高いと感じます。それらを解決するひとつとして、外部にある専門機関への協力要請と定着サポートの体制づくりがあります。
外部にある専門機関には、
「障害者就業・生活支援センター」
URL:https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_18012.html
「地域障害者職業センター」
URL:https://www.jeed.go.jp/location/chiiki/
は全国の都道府県に配置されている期間になります。
また、障がい者の自立や就労訓練を提供する福祉サービス「障害者就労支援福祉サービス(障害者就労継続支援A型事業、障害者就労継続支援B型事業、就労移行支援事業等)」と呼ばれる専門機関があり、地域差もありますが近くに開設されている事業所には企業からの相談に対応してもらえるところもあります。障がい者の受け入れ体制づくりの一環として、前編「③」でも少し触れましたが、「企業内実習」を実施することでより障がい者理解を深めることができます。
おそらく採用を進めるプロセスの中に「企業内実習」を取り入れているケースも増えており、特例子会社などの障がい者雇用を積極的に取り組んでいる企業では「企業内実習」を必須にしているところも多くなってきました。「企業内実習」を行うことで、実際の配慮方法や接し方・関わり方などを身につけることで組織として準備が必要な体制づくりのポイントを掴むことができます。
⑧採用後の雇用管理や職場定着等
今後、生産年齢人口の減少に伴い人材の確保と繋ぎ止めのため企業ごとに特色を出した対策が必要になってくると思います。本業である事業を全面に出した企業PRに加えて、組織としての強み・特徴を掲げ実行することで生まれる成果を魅力として感じてもらえることも評価であり、エンゲージメントにつながってくると考えます。障がいのある人材が単に働くだけではなく、雇用・仕事を通じて出した成果が評価され、周囲から認められ、成長できる組織というのは従業員やその家族、広い意味ではステークホルダーに対しても魅力のある企業ではないでしょうか。
これまでの障がい者雇用では人事担当者がひとりで対応する時代から、組織として取り組む時代へと移行してきました。そのため、人事担当者が中心となり、障がい者の受け入れ先部署の担当者とコミュニケーションを図りながら、障がい者本人が働きやすく仕事で成果を上げられるための体制づくり・仕組みづくりが主流となっています。
障がい者との1on1によるヒアリングに加え周囲で一緒に勤務する従業員からの情報収集も職の定着には重要です。また、職域も可能な限り広げていくことで本人のやりがいや成長にも関わってきます。個人差もあり、周囲からのサポートも一時的には負担になることもありますが、中長期的な視点で見るとハンデのある人材が活躍できる組織は人材の確保にアドバンテージを持つことにもなります。一緒に勤務する従業員にとって、障がい者のサポートが負担に感じるのではなくやりがいや働きやすい職場づくりに貢献していると感じられる工夫も必要ではないでしょうか。
このプロセスでは明確な指標が設定しにくいところではありますが、企業独自の強みのある組織を目指すために必要なことを改めて検証する機会にしてもらえると良いのではないでしょうか。