先日、当ミルマガジン編集部宛に問い合わせがありました。それは、障がいを持つ求職者の就活を後押しする書籍の紹介をしてほしいという内容でした。
ご連絡をいただいたのは著者である紺野大輝さん。ご本人も脳性麻痺による脳原両上肢機能障がいをお持ちで自身の就職活動時の体験から、著書「障がい者の就活ガイド」を出版されました。現在、紺野さんはある企業で働く傍ら、各地で精力的に講演活動もされていらっしゃいます。
この「障がい者の就活ガイド」は著書名にもある通り、求職中の障がい者を対象にした内容ですから、就職活動に必要な心構えや注意点について非常に丁寧に、また、分かりやすく書かれていると思います。これは、障がい者である紺野さんご自身だからこそ伝えられる文章だと感じる点が3つほどありました。
また、企業の採用担当者にも勧めたいと思える理由があります。先ずは、障がい者の方へのおすすめポイントは、
① 自分のことだからこそ知っておかないといけない障がい者の雇用環境
今、障がい者採用に取組んでいる企業が置かれている環境や各制度のことなど、就職活動をしている障がい者のどれだけの人が知っているでしょうか。現在の障害者雇用の状況を「売手市場」と表現されます。確かに、法改正や社会情勢を見てみると障がい者の社会進出は進み、企業の求人活動は盛り上がりを見せています。しかし、企業にとって障がいを持つ求職者のすべてが採用対象者かと言えば、決してそうではありません。法令を守るための義務感と同様にしっかりと働いてもらえる人材を企業は求めてるという点では障がいの有無は関係ありません。著書では企業にとって必要と思ってもらえる人材を目指すためのアドバイスを分かりやすく解説しています。
例えば、障がい者に対し伝えたいこととして、「働いた対価を給料としてもらえた喜び」「受け身でなく能動的な考えが身に付く」といった内容があります。このような表現も、実体験をした紺野さんだからこそ伝えられる真実味あるメッセージではないでしょうか。
② 誰も教えてくれないステップごとに必要な準備と心構え
次は実際に就職活動を始めるために必要なことをそれぞれ「準備編」「応募編」「一般採用編」という段階に合わせた説明が書かれています。
私が人材会社に在籍していた頃、就職を目指すたくさんの障がい者とお会いしてきました。しっかりと就職に必要な準備をしてきた方や社会経験の豊富な人は安心して、求人企業に紹介をすることが出来たのですが、もう少し準備期間を設けないといけない方などにはたくさんのアドバイスを行ってきました。その時のアドバイスに近いことがこの著書で説明されています。
「履歴書や職務経歴書の書き方」「自分の障がいの伝え方やタイミング」「不合格になった時の心構え」など、求職中の障がい者にとってはとても心強く感じるのではないかと思います。
③ 企業で働く障がい者としての目線
紺野さんご自身も現在の就職先が2つ目の企業で、1つ目の企業への就職活動を含めると100社以上の企業へアプローチをされたということです。当時は今と違い、障がい者差別解消法も施行されていませんでしたから、露骨な差別もあったようです。
そのような苦労をされた紺野さんだからこそ求職中の障がい者の皆さんに強く伝えたいんだと感じました。採用する側の立場から見た場合、どのような障がい者であれば採りたいと思えるのか。その点を伝えることで、就職活動に挑んでいる障がい者は参考になるのではないでしょうか。
障がいを持つということは日常の生活において不便な部分を抱えているということです。ですから、時には周囲からのサポートや理解が必要となります。でも、社会に出るということは、自分の足で立つという気持ちを持っていないといけません。企業はそういう人材を求めていますし、そういう人材だからこそ社会に求められる存在になれるのだと思います。
最後にこの著書が企業担当者にもお勧めする点をご紹介したいと思います。障がい者としての目線で就職に関する説明をしている内容ですから企業にとっても非常に参考になる内容だという印象です。
読んでいて感じたのですが、就職活動中の障がい者としての目線から解説されている本文を裏返しに解釈してみると採用側として気づかされる点がありました。例えば、面接での場面を説明しているところがあるのですが、「採用担当者もどのような質問をしていいのか分からない」とあります。事実その通りで、企業から「面接時にどこまで聞いて良いのか分からない」「障がいのことをどのように聞けば良い」といった相談を受けることがあります。障がい者が対象では難しいのでしょう。そんな時に障がい者の側も言わなければいけないことを言えなかったりして、コミュニケーション不足な面接では良い結果につながりそうに思えません。自社にとって必要な障がい者を採用したいのであれば、企業側からしっかりとリードした面接を進めてみることで良い人材に出会える可能性が高くなります。
また、心構えに関する点についても良いアドバイスをしていますので、仮に著書で表現されているような人材と出会えたのであれば、非常に有望な方なのかもしれません。
そういった点でも読んでいただいて決して損はない書籍だと思います。