今、情報収集ツールとして当たり前になったWEB。この世界には多くの情報が存在し、通信環境下であればスマホやPCを使って誰でも簡単にそれらを取得することができる世の中になったことで、私たちの生活の質は大きく変わりました。
この時代、今まで経験していないことにチャレンジする際には、先ずネット上ある情報を得るところから始める方が多いのではないでしょうか。
私自身も初めて起業をする際、定款の作成や申請に関する情報はネット上から集め、必要なものはすべて自分で準備し会社を設立しました。(行政書士の先生を使わずに登記ができたのはおおきなメリットでした)このように、あらかじめフォーマットが決まっており、手順通りに進めれば目的を達成できる事柄については、いくつかの情報を元にして進めるだけで十分でしょう。
その一方で、ネット上にある情報だけで取り組むにはハードルが高くなってしまったり、想定以上の成果を上げることができないモノもあります。例えば「障害者雇用」がそれに該当します。昔に比べると、障がい者に対する正しい情報も多くなりましたので、自社の現状に最適な情報(助成金や求人など)に出会う確率も高くなってきたと思います。
少し話が逸れますが、そもそも障害者雇用の目標を「法定雇用率の達成と職場の定着」とした場合、専門家によるサポートを受けながら実行していくことが必要だと考えています。様々な情報の中には、専門性が高すぎるために障害者雇用の経験値の浅い企業や人事担当者にとっては、自社だけで実現するには困難な取り組みなども紹介されています。雇用に対する義務感が先行し過ぎてしまい、個々の企業文化に沿わない進め方をしたことが原因で、結果として障がい者に対する悪いイメージが根付いてしまっては本末転倒となってしまいます。
話を元に戻します。皆さんは、障がいを持つ方たちの日常生活や仕事をサポートする「支援機器(ツール)」というのをご存知でしょうか。今回、ご紹介するのは「公益社団法人 日本理学療法士協会」が発行しています『障がい者支援機器のガイドブック』です。表紙を含め60ページ程度の冊子なのですが、写真やイラストも多く大変読みやすい内容となっています。情報として知っておいてもらうだけでもメリットがある冊子です。
『障がい者支援機器のガイドブック』のおすすめポイント
① 初めてでも丁寧にナビゲート
企業からのご相談の中で割りと耳にするのが支援機器に関するご質問です。障がい者の雇用実績のある企業の場合、法律や助成金に関する情報を元に活用しているケースはあるのですが、支援機器については情報が乏しく導入もしていないという会社は多いと感じる印象です。
その点、このガイドブックでは、支援機器の必要性についてはもちろん、導入の流れや入手ルートについても紹介されています。
また、障がい者本人の状態や必要な場面に応じた支援機器の紹介もされているので、初めて支援機器の導入を検討している人事担当者にとって非常に役立つ情報源になると思います。
② 各障がいのことを分かりやすく解説
障がいの特性別に支援機器の紹介がされています。主に支援機器が必要な障がいとしては身体障がいが中心になり、その中でも「視覚障がい」「聴覚障がい」「肢体不自由」「音声、重度の障がい」が取り上げられています。また、それらの障がい特性にプラスして精神障がいに含まれる「高次脳機能障がい」の支援機器についても紹介されています。
支援機器が必要な障がい特性に限られていますが、それぞれの障がい特性についての解説が非常に分かりやすい内容となっています。これは、支援機器の特徴や必要な場面などの説明理解を周囲の方々にしてもらうためには、先ず個々の障がいに見られる性質や特徴をベースとして知っておいてもらうことが必要だろうという配慮なのだと思います。この障がいに関する解説部分ですが、抜き出して従業員向けの研修にも使えるぐらいしっかりとした内容だと感じました。
③ 障害者雇用の範囲が広がる
仮に「当社では、PCを使用した業務が多いので視力に障がいを持つ人材は採用できない。」など、これまで採用する障がい特性の範囲を限定してしまったために、法定雇用率が達成できず、義務として納付金(企業に課せられた罰金)を支払っていたという企業は少なくないでしょう。このような考えは自社の障害者雇用を促進させるという意識を邪魔することにもなり兼ねません。しかし、現在では音声ガイドツールを活用した視覚障がい者の社会進出は珍しい事例ではなくなってきました。私も過去に全盲の方が音声ガイドツールを使用して複数あるExcelシートをひとつにまとめるデモンストレーションを見たことがあるのですが、圧巻の一言でした。当然、その方のスキルが高いのもあるですが、全く目の見えない方が音声だけを頼りにミスなくExcelで表計算を使ったシートを作成するのを見た時には、「性能が向上したツールやAIのサポートがあれば、多くの障がい者が健常者と変わらないぐらいの成果を上げることができるようになる。」と強く感じました。
また、障がい特性の中でも雇用が困難な部類となる「高次脳機能障がい」をサポートするツールの紹介もありますので、今後の求人範囲も大きく変化させることができると思います。
実は、こちらのガイドブックには紹介されていない支援機器も多く存在します。しかし、基礎的な知識を得る情報ツールとしては十分な内容となっています。また、今まで求人の対象としていなかった障がい者や現在雇用している障がい者従業員に対して導入できるモノを見つけることができるかもしれません。
最後に、少し残念なのは支援機器を紹介している写真が古く感じることです。もしかすると新しくリニューアルされたり、新しい機器の開発が進んでいないのかもしれませんが、出来れば今の時代に合った見せ方にも配慮をしてもらいたかったと思います。