このコラムを書いているのは2018年の12月。
この2018年は障害者雇用に関する企業からの相談が多いと感じる年でした。
2018年の4月には法律として「精神障がい者の雇用義務化」が施行。それに伴う形で障がい者の法定雇用率が引き上げられることになりました。また、皆さんの記憶にも新しい「中央省庁と地方行政機関による障害者雇用の水増し問題」が発覚した結果として、皮肉なことに障害者雇用というものが多くの方々の関心事となりました。これらにより、助成金目的や義務感だけで障がい者求人に取り組んでいた企業だけではなく、社会的な価値を感じた企業も障がい者を採用しようとする動きが増えてきたように思えます。
現在、助成金の活用だけではなく障がい者の雇用定着を実現させるために重要だと考えられるポイントがあります。
改めてになりますが、それは障がいに対する「正しい理解」を持つということです。義務感だけで取り組んでいる企業などは、間違った知識や思い込みのまま取り組みをしてしまっていると強く感じています。それでは、社内にある障害者雇用を邪魔する壁を取り除くことは難しいでしょう。企業が雇用定着を実現させる上で障がい者に対する「正しい理解」を身に着ける方法というのはいくつもあります。
その中でも、人事担当者に勧めたい「正しい理解」を身に着ける方法のひとつとして『障がい者実習』というものがあります。
『障がい者実習』は随分前からあるのですが、導入している企業は少なく、もっと活用すべきだと思っています。もし、『障がい者実習』について間違った捉え方をしている人事担当者がいるのであれば、今回のコラムで理解していただき、自社の障害者雇用に役立ててください。
『障がい者実習』とは
『障がい者実習』とは、「実際に障がいを持つ人材を社会経験の一環として、職場で一定期間の受け入れをし、障がい者本人の適性判断やその後の就職に役立てるもの」となります。補足ですが、『障がい者実習』を導入することは、その障がい者を採用しないといけない。ということではありません。上記のとおり、前提としてはあくまでも障がい者本人の適性確認と社会経験の一環となります。
企業が『障がい者実習』を導入するメリットを下記に挙げてみました。
【導入メリット】
- 障がいを持つ人材に関する理解を進めることができます(特に精神・発達障がい者)
- 面接だけでは伝わらない障がいの特性や特徴を理解
- 障がい者は個々によって違いがあるのが普通
- 一緒に働く従業員の不安を軽減させることができます
- 採用後に共有もなく配属をすることは従業員への配慮が足りていない
- 従業員の不安解消が障がい者へも好影響を与えます
- 採用の際、自社にとって必要な人材かを見極めた上で合否の判断ができます
- 障がいへの知識が少ないうちは、本人と業務の適性を図る時間が必要
- 採用後のミスマッチを大幅に減らすことができます
実は、現在しっかりと障がい者の雇用定着を実現している企業や特例子会社のほとんどは必ずといって良いほど、この『障がい者実習』を導入しています。
上記以外にも、
「切り出し業務の適性確認」
「求人活動への好影響」
「就労系事業所などとのパイプの強化」
が挙げられます。
『障がい者実習』の種類
また、『障がい者実習』には「体験実習」と「採用実習」の2通りの活用方法があります。それぞれの実習の「目的」と「説明」を下記に挙げてみました。
体験実習 | 採用実習 | |
---|---|---|
目的 |
・採用を前提としない実習 |
・採用を前提とした実習 |
内容 |
・実習期間は1週間~10日程度(社会経験と理解促進が主) |
・実習期間は2~3週間程度 |
『障がい者実習』導入の流れ
最後に、『障がい者実習』導入の流れをご紹介したいと思います。大きく①~⑤までのステップがあります。
[STEP① 実習前の打合せ]
・各種現状の確認(「雇用の状況」「採用ルート」「採用計画」など)
・社外専門機関の選択と相談
[STEP② 実習業務の切り出し]
・「想定業務」の切り出し
・メリットになる業務(残業の抑制、業務負担の軽減など)を候補として
・同時に、関連部署や従業員との調整と連携
[STEP③ 面談と職場見学]
・社外専門機関より実習候補生の紹介と面談の実施
・企業側要望と実習生の要望を確認
・実習時の業務内容や流れ・注意事項を説明(配慮、突発事項の対処など)
[STEP④ 受け入れの準備]
・「一日の流れ」「担当者の配置」「質問・相談対応」を想定・準備
・業務マニュアルの作成、社員証の手配、休憩取得方法など
・実習生の了承のもと、関連する部署や従業員へ情報共有(場合により研修の実施)
[STEP⑤ 実習の開始と振り返り]
・各種適性(「業務」「職場」「従業員との相性」)を確認
・実習を通して障がいの特性や本人の特徴を理解・把握
・「日誌での日々の報告」「実習最終日の振り返り」をもとに本人へ評価を伝える
・「採用実習」の時は、実習期間終盤もしくは最終日に採用合否を伝えます
いかがでしょうか。
『障がい者実習』で考えられるデメリットは、導入当初に手間がかかってしまう点以外は企業にとってメリットになる点がたくさんあります。法定雇用率の達成に困り納付金(罰金)の支払いをしていなくても、早急に障害者雇用に取り組もうとしている企業であればぜひ『障がい者実習』を試してみてください。