2020年も2/3が過ぎました。今年は季節を感じることも少なく、年末には「新型コロナウイルスに振り回された1年だった」と振り返ることになるんだろうと思います。世界中が影響を受け、普段の生活や仕事など、多くの場面で変化を求められ、それはこれからもしばらく続くことになります。
年初から始まって現在、先行きが見えない中を手探りで進むこのような生活を経験したことがありません。少なからず不安やストレスを抱えている一方で、今まで試すことのなかった新しい生活スタイルに順応していることを自覚したときに、「案外いけるんだな」と感じることもあります。
厚生労働省が公表するデータによれば、企業の障がい者雇用実績は前年度を上回る状況が10年以上連続しています。法律の改正により法定雇用率が引き上げられ、雇用義務のある企業約100,000社の半数近くが法定雇用率を達成させています。
しかし今年度に目を向けると、新型コロナウイルスにより事業に影響を受けていない企業は少なく、障がい者の求人や雇用も例外ではありません。多くの企業がこの困難な状況を乗り越えるための努力を続けています。
事業主は企業の存続に伴って障がい者を雇用・定着させることも義務となります。実は、障がい者の求人を検索してみると、当初予定していたスケジュールよりも進みが鈍くなっていますが、想定していたより障がい者求人はなくなっていません。実際、私が採用に関わっている企業の人事担当者からは「求人が鈍化しているこのタイミングだからこそ、採用を進めていきたい!」と相談をいただいています。
私が具体的な採用を進めるにあたり、協力をお願いするのが地域の障がい者就労支援福祉サービスになります。
就労移行支援事業所の活用
これも厚生労働省から公表されている別のデータになりますが、障がい者就労支援福祉サービスである『就労移行支援事業所』を経由して一般企業へ就職する障がい者の数が年々増加傾向にあります。これは、昨今の障がい者雇用状況の特徴のひとつとして見られる「精神障がい者・発達障がい者の採用実績の伸び」があります。
精神障がい者・発達障がい者を採用する場合、身体障がい者・知的障がい者と比べて特性の把握が難しく、障がいに関する間違った思い込みや知識が邪魔をしてしまうこともあり、求人をためらう企業は今でも少なくありません。
そのため、精神障がい者・発達障がい者の雇用実績のある企業では、職場で業務を円滑に進めるための準備に時間を掛けるようにしています。例えば、一緒に勤務する従業員と採用された障がい者が安心・安全に業務に就くために「障がい特性の理解・把握」「コミュニケーション方法」「必要な配慮」といったことを認識する研修を実施します。また、作業の細分化や確認工程を増やしたりなど、これまでの業務の進め方を見直すこともあります。
しかし、障がい者雇用経験が少ない企業が、これらのことを人事担当者を中心に独自で進めるにはハードルも高く、仮にミスマッチが発生してしまったことで社内の雇用に対する意識が消極的になってしまうのは避けたいところではないでしょうか。
そのようなとき、『就労移行支援事業所』に相談することで、高かったハードルを自社でも飛び越えることができる程度の高さにするサポートを提供してくれます。
『就労移行支援事業所』とは、厚生労働省が認可した福祉サービスのひとつで、就職を目指す障がい者に対して職業技能やビジネスマナーに加え自立した生活を送ることができるように訓練を実施している専門機関になります。事業所には、福祉サービスを受けている障がい者が通所しており、個々の障がい特性や自分の特徴に合わせた支援プログラムを受講しながら、就職のタイミングを計っています。
全国的にも『就労移行支援事業所』は増えており、最近では障がい特性や特定の技能に特化した事業所も出てきており、より専門性の高い支援やサービスを提供しています。(新型コロナウイルスの影響もあり、テレワークによる就職も想定した支援プログラムを実施している事業所もあります)
就労継続支援A型事業所およびB型事業所の活用
国の障がい者就労支援福祉サービスには『就労移行支援事業』以外にも『就労継続支援A型事業』と『就労継続支援B型事業』というものがあります。
このふたつの事業は、一般企業への就職は困難な状態にある障がい者が利用する福祉サービスとなっており、『就労継続支援A型事業』は障がい者と雇用契約を結び、福祉サービスによる支援体制の整った環境下で就労・生産活動の機会を提供するのと同時に就労に必要な知識と能力の向上を図ることが目的となっています。(給与は最低賃金以上を支給)もうひとつの『就労継続支援B型事業』は、障がい者と雇用契約は結ばない関係性となります。(給与は工賃として支給 ※全国平均約12,000円/月)
『就労継続支援A型およびB型事業』に通所している障がい者のすべてが一般企業への就職ができないのかというと決してそうとは言い切れません。地域によっては、「就職できる企業数が少数」「就労移行支援事業所がない」「選択肢が少ない」といった理由であったり、『就労移行支援事業所』は24ヶ月以内に就職という制限が設けられているため、一先ず就職に必要な技能や経験を積むために『就労継続支援A型およびB型事業』に通所している障がい者もいらっしゃいます。
障がい者人材を採用する求人先のひとつとして『就労継続支援A型およびB型事業』を活用する企業もある一方で、「施設外就労」という制度を活用することもできます。
この「施設外就労」とは、障がい者就労支援福祉サービスが企業との請負契約のもと、事業所に通所する「利用者(障がい者)」と事業所の「職員(支援スタッフ)」によるグループで企業から請け負った業務を企業施設内にて実施する取り組みをいいます。
以前、ミルマガジンでも「施設外就労」を実施している『就労継続支援B型事業所』(三重県)を取材いたしました。
企業のメリットとしては、将来本格的な障がい者の採用を進めるにあたり、適性判断や人材確保にもつながってくる取り組みとなります。また、法律である障がい者雇用促進法により導入された「在宅就業障がい者支援制度」を活用することで、「施設外就労」による助成金「在宅就業障がい者特例調整金・報奨金」を受給することができます。事業所への発注金額によって受給の可否が決まるのですが、現在は金額が見直されたため、助成金が受給しやすくなっています。
参考:厚生労働省「在宅就業障がい者特例調整金・報奨金の算定の見直し」
このように、障がい者就労支援福祉サービスを活用することで企業が得られるメリットは大きなものがあります。もし、現在障がい者雇用で悩んでいる企業や人材不足で困っている企業がありましたら、選択肢のひとつとして地域の『障がい者就労支援福祉サービス』にご相談してみてはどうでしょうか。
障がい者の採用に関連した助成金は、障がい者雇用納付金制度により法定雇用率が未達成の企業から徴収された納付金(罰金)が原資の一部となっています。
参考:独立行政法人福祉医療機構 WAM「障がい福祉サービス等情報検索」