今回は、障がい者求人に関する企業からのご相談と就職活動中の障がい者からのご相談の2件についてご紹介いたします。
どちらのご相談も障がい者雇用に取り組んでいる企業の人事担当者の採用活動のヒントになる内容だと感じています。
①「障がいの特性ごとに最適な仕事はありますか」
障がい者の特性と仕事に関するご相談です。
当社はこれまで身体障がい者の雇用実績しかなく、今後は積極的に他の障がい特性のある障がい者の採用を進めていくことになりましたが、業務の切り出しとマッチングに苦労しています。
障がいの特性は色々ありますが、「この特性にはこの業務がマッチする」といったポイントがあれば教えてください。
よろしくお願いします。
《製造メーカー、従業員数約250名、人事担当者》
【A】
ご相談ありがとうございます。
これから本格的に障がい者採用に取り組まれる企業にとっては、先ずは情報収集も含めた“準備”が重要です。これまでの障がい者雇用が特定された範囲での実施であったならば尚更です。「求人」「業務の切り出し」「法律」「制度・助成金」など、知りたいことは山のようにあるはずですから、今回のご相談者である人事担当者もそういった考えからだと思います。
セミナーや研修など、『障がい者』についてお話をする時があります。『障がい者』とことばで表現すればひとつなのですが、当然のことながらそれぞれの障がい特性は違いますし、同じ障がいの特性の方が複数いても、必要な配慮や抱える困りごと・不便の度合いにも違いがあります。そのため、『身体障がい者』『知的障がい者』『精神障がい者』、それぞれの障がい特性について簡単な説明をすることにより、障がい者雇用の邪魔となる思い込みや間違ったイメージをアップデートさせることも大切だと感じます。
今回のご相談に関する答えですが、
『特性のことは考えず、会社側が希望する業務を担当する人材』
を採用すれば良いと思います。
分かりやすく例を挙げてご説明します。
仮にアップデートができていない企業が経理業務で障がい者を採用する場合、
①経理業務の知識・経験がある人を希望
↓
②求人募集開始(ハローワーク、就労支援機関、支援学校、人材会社など)
↓
③エントリーシートが集まる
↓
④書類選考にて、いつの間にか「障がい特性」で判断
↓
⑤いつまでも採用ができない or 業務ミスマッチ
↓
⑥障がい者採用が進まず、法定雇用率が未達のため納付金(罰金)を支払う
という結果になることが考えられます。
採用した障がい者に就いてもらいたい仕事が具体的に切り出せたのであれば、次に「経験者」や「黙々と作業できる人材」や「手先が器用」といった人材への要望を基準としてブレずに採用判断をすれば良いと思います。
こういった判断も、採用準備のひとつとして専門家による社内研修や支援機関からの実習を経験することでアップデートさせることができます。現在の障がい者雇用を上手く取り組む方法のひとつとして外部リソースの活用は欠かせないと考えています。これは企業に大きなメリットとなります。
②「就職に失敗しないためのアドバイス」
私は障がい者として就職活動を始めようとしています。
自分が就きたい仕事や将来のことを考えて募集する企業を選びたいと考えています。そこで、これから就職活動を進めるにあたって、失敗しないためのアドバイスをいただけませんでしょうか。もちろん「障がい者を理解している企業」に入りたいと思っています。
例えば、就職活動中に企業を見極める基準のようなものがあれば教えてください。
よろしくお願いします。
《精神障がい者(うつ)、20代、女性》
【A】
ご相談ありがとうございます。
今回のご相談者のように精神障がい者であっても障がい者であることをオープンにして就職活動をしている方が以前に比べて多くなってきたような印象があります。徐々にではありますが、障がい者に対する意識の変化が影響をしているのかもしれません。
企業の採用についても昨今は精神障がい者の雇用実績が増加傾向にあります。企業における義務感・責任感の高まりも理由のひとつですし、助成金などの制度による後押しもあると感じています。いずれにせよ障がい者雇用が進んでいることは良いことではないでしょうか。
それでは、今回のご相談にあります「失敗しないためのアドバイス」について2点に絞ってお答えしようと思います。
ひとつめは『エージェントの活用』です。
エージェントとは、「障がい者就労支援福祉サービス」といわれる障がい者の就職をサポートしてもらえる福祉機関のことで、「就労移行支援事業所」「就労継続支援事業A型事業所」「就労継続支援B型事業所」を総称した呼び方です。
ここでは、「就労移行支援事業所」を例にお話します。
「就労移行支援事業所」は就職を目指す障がい者が利用する福祉サービスで、事業所ごとに特徴がありますが、主には下記のような支援を受けることで就職に大きなメリットになると思います。
- 「自己理解を深める」
自分の障がいに関連した特性や得意・不得意なことを専門的な視点からアドバイス
- 「個別支援」
自分にとって最適な支援方法をもとに、就職に有利な知識・スキル・情報を習得
- 「企業実習」
自分が就職したい企業に実習として職場体験、就職後のミスマッチを軽減
- 「希望企業へPR」
プロフィール書類だけでは伝えきれない点を補いながら希望企業へ提案
- 「企業も安心」
採用後も福祉機関からの支援を受ける人材であれば企業の安心度も高い
就職活動中の方の中には福祉機関のお世話になることに抵抗がある人もいると思います。当然のことながら福祉機関の利用は義務ではありませんが、これら福祉機関からの採用数が年々増加傾向にあることを考えるとひとつの選択肢として検討してほしいと思います。
ふたつめは「面接」についてです。
これまで、多くの障がい者雇用面接の場面に「企業側人事担当者」「就職活動中の障がい者」それぞれをサポートする立場として同席してきました。
面接の場面でお互いが『伝えるべきこと』『確認するべきこと』が十分でなかったために、採用後のミスマッチが起きてしまった結果として企業側は障がい者雇用が停滞してしまい、障がい者の側は就職への自信・意欲が低下してしまいかねません。
面接は両者がお互いを求めている気持ちが比較的高いタイミングになりますから、必要以上な気遣いと嫌われたくないという気持ちから『伝えるべきこと』『確認するべきこと』を遠慮してしまうのですが、採用が決まってからでは遅すぎます。
また、企業側の障がい者雇用実績や障がい者への理解度合いなどは就職する側にとっては非常に気になる点だと思いますので、私が求職者として企業の面接に挑んだ場合、下記のようなことを質問から判断します。
- 「現在の雇用状況」 身体障がい者以外の雇用実績が半数以上(※あくまでも目安)
- 「採用の方法」
- 「障がい者就労支援福祉サービス」から実習を経た採用経験がある
- 「契約社員から正社員登用」
登用制度はあるが、正社員になった障がい者がいない場合は理由により要検討
また、企業の担当者からご自身の障がいについて質問があった場合、会社からの配慮や理解を得るためには仕事の場面で想定される不便やできないことを伝えて置けるようにあらかじめ準備しておくことも大切なことです。