2020年も残すところ僅かとなりましたが、記憶に残る色々な出来事がありました。
その中でも一番の大きな出来事といえば「新型コロナウイルス」ではないでしょうか。発生から1年が経とうとしていますが、世界中で感染者数が増加し、今のところ終息(収束)する気配も見えません。当たり前だった社会にこれほど大きく影響を及ぼす今回のような出来事を経験したことがなかった我々にとっては、これまでの日常生活の様々な場面で新しいスタンダードを模索し、許容するという経験を学びました。
企業にとっても、「新型コロナウイルス」がこれまでのはたらき方を見直す大きな転機となりました。大きな見直しは企業にとっても従業員にとっても大変な負担となる一方で、新たな取り組みに目を向けるきっかけにもなり得ます。
代表的なものを挙げるならば、テレワーク勤務ではないでしょうか。テレワーク勤務をスタンダードなはたらき方になるまで浸透させるにはもう少し時間が必要かもしれませんが、少し前まではテレワーク勤務はどこか遠いところの話のような感覚だったのが、今でははたらき方の選択肢のひとつとなりました。
個人的な考えでは、テレワーク勤務が認知されはたらくスタイルのひとつになったことは、従来の「はたらく = 出勤」の時ならはたらくことができなかった人たちにとって社会参加できる機会が増えたことにもなるため、雇用機会の創出という面では一定の効果が見られたと評価すべきであると感じています。
障がい者雇用の分野も多分に漏れず影響を受けています。勤めていた会社の業績が影響を受けたために失業した方や企業の求人活動が延期・停止となり就職活動が進まなくなった求職者も少なくありません。
未だ出口の見えないトンネルを進んでいる状態の中、障がい者の採用活動がどのようになるのかと考えると不安を感じずにはいられません。
障がい者の雇用に関する仕事をしていると常態的に感じることがあります。それは、「企業は障がい者雇用を負担に感じているのではないだろうか」ということです。
企業の障がい者雇用は障がい者雇用促進法という法律に基づいて義務化されています。義務化の対象となる企業(従業員43.5名以上)は、この法律で定められた法定雇用率2.3%(2021年3月1日より)を達成することを第一の目的として求人・雇用活動に取り組んでいます。
障がい者の雇用に関する助成金や促進させる制度もあり、雇用数は年々増加傾向にある一方で、法定雇用率を達成している企業の割合は50%を行ったり来たりしているような状況が続いています。
① 問題提起
我が国の障がい者雇用の起源は、「身体障がい者雇用促進法(昭和35年)」が始まりとなります。当時の法定雇用率は1.5%からスタートし、それから約60年が経過しました。
現在では、障がい者の雇用義務対象企業は100,000社を超え、はたらく障がい者は約56万人になりました。
雇用対象企業の約半数が法定雇用率を達成していますが、その中身は規模の大きな企業ほど達成している割合が高くなっています。おそらく、雇用に対する意識の高さや義務感の強さが理由のひとつとして挙げられます。
一方で、約半数の企業で障がい者雇用が進まず、法定雇用率が未達成の状況にあります。それらの企業の中には、雇用促進につながる助成金などの制度を活用しながらも積極的に取り組みを進めた結果として適正な人材の採用ができなかった企業もあれば、故意に未達成の状態で納付金(罰金)を支払って済ませている企業もあります。
法律で定められているにも拘らず、障がい者雇用に積極的な企業とそうではない企業との間にはどのような違いがあるのでしょうか。
② 障がい者雇用の捉え方
障がい者雇用が進んでいない企業の人事担当者からはこのような理由を聞くことがあります。
【理由】
- 障がい者にできる仕事がない
- 募集してもエントリーがない
- 従業員の理解が得られない
- 過去に障がい者雇用で失敗している
役割りに対する責任感から、障がい者雇用に取り組みたいと考える人事担当者は多く、社会的意義や責任として障がい者雇用に目を向ける企業は増えてきましたが、実際に組織として取り組む際となるといろいろな壁や邪魔が入ります。
そこには、障がい者に対する間違った認識や思い込み(バイアス)が原因のひとつだと考えます。
例えば、「障がい者にできる仕事がない」「従業員の理解が得られない」という理由は本当に職場の声として上がってきたのだろうと思います。でも、これが新たな事業への取り組みであったり、社長がトップダウンとして出した命令なのであればどうでしょう。
おそらく、これら取り組みを阻害する理由を解消するべく対処を全社で実施するはずです。でも、障がい者雇用の場合は、出来ない理由(言い訳)を前面に出して、何とか回避しようとしているように感じられます。やはりそこには、障がい者を雇用するのはメリットではなくデメリットの方が多いと感じ、「障がい者雇用は負担だ」という考えが見え隠れしているように思えます。
なぜ「障がい者雇用は企業の負担」になると感じるのでしょうか。
これまで、企業ではたらく障がい者の仕事といえば、付随的な仕事や外注していた仕事を内省化したもの、物流や工場での作業、または内職的な仕事が多かったように思います。
所謂「障がいのある人材は補助的な役割り」といった考えが根源としてあるために、
- 障がい者雇用に積極的になれない
- 障がい者雇用を阻害する原因に対処しない
- わざわざ障がい者雇用に時間や労力を費やさない
となってしまいがちなのではないでしょうか。
確かに、障がい者はできる範囲が限定されていたり、周囲の理解や配慮を必要とするため、補助的な役割りが多くなりますが、企業にとって障がい者雇用は負担だと結論付けて良い訳ではないと思います。
③ 障がい者雇用の現状
「① 問題提起」のところで、法定雇用率を達成している企業の多くは企業規模が大きいところであったり、雇用意識の高い企業というお話をしましたが、少し厳しい見方をするならば、「雇用目的が法定雇用率の達成に大きく偏っている」と感じます。
至極当然のことではあるのですが、障がい者雇用が「企業本位」になり過ぎているように感じることが少なくありません。
就労における価値のひとつとして、はたらいている人は分け隔てなく仕事や社会生活を通じて学び成長する機会を得られるべきだと思っています。それは障がいのある人も同様です。
しかしながら、法定雇用率を達成した企業はそこでゴールを迎えたかのように、あとは達成状態を維持することに意識を向けているように見えます。
障がい者雇用の「量」は満たしたが「質」についてはどうなのか。ということです。
障がい者雇用の「質」とは、
『個々の強みを活かし、やりがいを感じられる業務に就く(適材適所)』
『障がい者の仕事が企業の売上や利益につながっている(経済活動)』
『業務を通じてキャリアアップや生活の向上を目指せる処遇である』
ということで、端的に言えば『従業員満足度の向上』ではないかと考えます。
仕事にAIやRPAが導入され始めても、仕事を組み立てて取り組むのはあくまでも人(従業員)です。従業員が仕事で満足感を得ることができる環境下であれば、生まれる成果にも影響します。
数年前までの障がい者雇用では、売上への貢献度や障がい者のキャリアアップというのはあまり考えられていなかったという印象ですが、これからは個々の障がい者の能力や要望に企業が応えていくことが雇用の「質」であったり、『従業員満足度の向上』になると考えます。
従業員は採用されてから時間が進むにつれて置かれている環境には様々な変化(結婚、出産、看護・介護等)が発生するのは当たり前のことです。これまでは「組織に従業員が合わせる」でしたが、これからは「組織が従業員に合わせる」ことが求められてきます。
それは、障がいがあっても個人の「役割り・職務」「実績」「要望」に合わせて給与や処遇が変わり、個々の強みや得意に適した業務に従事できるようにすることではないでしょうか。障がい者が必要とする周囲の理解や配慮は、個々で差異があることと同様に採用側が認識することでその後の雇用に影響します。
理想ではなく、企業に求められる存在価値だと思います。
次回へ続きます。