2021年12月末に厚生労働省から『令和3年障害者雇用状況の集計結果』が公表されました。皆さんもご存知の通り、企業に報告義務のある「ロクイチ報告」をもとに集計された全国の障がい者雇用に関する様々な値を確認することができる資料になります。
前回『令和2年障害者雇用状況の集計結果』との違いとして、新型コロナウイルスの世界的なまん延が集計期間すべてに掛かってきているために、企業における障がい者雇用状況にどの程度の影響があったのかがポイントになってきます。また、今回から法定雇用率が2.3%の引き上げに伴い、新たに43.5名以上の企業規模も雇用義務の対象となります。
今回の資料から気になるところを3ヶ所に絞って見ていきたいと思います。
①コロナ禍にもかかわらず実雇用数は過去最高を更新
令和3年の障がい特性ごとの実雇用数を見てみます。障がい者雇用全体の数は597,786名となり、前年よりも19,494人多く障がい者が雇用されました。内訳は、
- 身体障がい者359,067.5名 : 前年比0.8%増、雇用全体の60.1%
- 知的障がい者140,665.0名 : 前年比4.8%増、雇用全体の23.5%
- 精神障がい者 98,053.5名 : 前年比11.4%増、雇用全体の16.4%
となり、雇用されている障がい者の60%が身体障がい者で最も多く、続いて知的障がい者、精神障がい者となります。国内の障がい者人口が約1,000万人と言われている中で約60万人の障がい者が一般企業に雇用されています。
令和3年は終始コロナ禍にあったために企業の新規障がい者採用も含め、雇用実数がどのような結果となるのか非常に気になるところでした。公表された内容ではすべての特性で前年を上回る雇用数となり雇用義務のある企業が経済的に不安定な状況にもかかわらず一定の成果を出してくれたからだと感じました。
特に精神障がい者の雇用数は11年前にあたる平成22年の9,942名からおよそ10倍の98,053.5名で、もうすぐ10万人に到達するところまで来ました。それだけ、精神障がい者や発達障がい者の理解が進み、企業内の戦力としての認知が深まってきた証拠だと考えます。
②法定雇用率2.3%到達まであと少しではあるが企業全体の雇用率も上昇
令和3年の法定雇用障がい者数の算定の基礎となる労働者数27,156,780.5名をもとに障がい者雇用実数597,786.0名から実雇用率を計算すると2.20%となりました。
企業に義務化されている法定雇用率2.3%まで0.1%足りませんが、過去最高の実雇用率を達成することになりました。
企業規模ごとの内訳は、
- 43.5~45.5人未満(2,657社) : 1.77%
- 45.5~100人未満(52,219社) : 1.81%(前年1.74%)
- 100~300人未満(36,803社) : 2.02%(前年1.99%)
- 300~500人未満(6,983社) : 2.08%(前年2.02%)
- 500~1,000人未満(4,810社) : 2.20%(前年2.15%)
- 1,000人以上(3,452社) : 2.42%(前年2.36%)
となります。
全ての企業規模(43.5~45.5人未満が令和3年から)で前年の実雇用率を上回っています。
但し、法定雇用率2.3%をクリアしているのは企業規模1,000人以上のみとなり、企業規模が大きくなるのに伴って実雇用率が高いということが分かると思います。これは、障がい者雇用に対する義務感と社会的な責任のある取り組みであるという認識の高さが企業規模に比例していることの表れでもあります。
その点を次の「③」でお伝えしたいと思います
③法定雇用率達成企業割合の低下で企業間の取り組みや意識に格差
法定雇用率を達成している企業の割合は、『障がい者雇用状況の集計結果』を公表してから2017年に50%に到達し対外でそれを上回ったことがありません。
令和3年の企業規模ごとの達成割合も確認してみましょう。
〇43.5~45.5人未満(2,657社中929社が達成) : 35.1%
〇45.5~100人未満(52,219社中23,855社が達成) : 45.7%(前年45.9%)
〇100~300人未満(36,803社中18,614社が達成) : 50.6%(前年52.4%)
〇300~500人未満(6,983社中2,911社が達成) : 41.7%(前年44.1%)
〇500~1,000人未満(4,810社中2,063社が達成) : 42.9%(前年46.7%)
〇1,000人以上(3,452社中1,931社が達成) : 55.9%(前年60.6%)
法定雇用率の達成している割合が半数を超えているのは企業規模が「100~300人未満」「1,000人以上」になりました。
この法定雇用率の達成状況では、上記「①」「②」と違って前年を下回る結果となりました。新たに加わった「43.5~45.5人未満」の達成割合35.1%が全体の値を引き下げているものの、企業規模ごとで割合を見てみるとすべてにおいて前年を下回る結果が見られたということは、新型コロナによる影響も要因のひとつだということが分かります。
上記「①」では、実雇用率が上がり過去最高になったことが分かりましたが、その一方では法定雇用達成企業の割合が前年を下回る結果になったということから推測されることとしては、『障がい者雇用に取り組む企業間の格差が広がってきた』ということが考えられます。
「障がい者雇用に力を入れている企業は増々雇用を伸ばし、採用・雇用定着が進まない企業は法定雇用率が達成できない状況」がさらに進んだことを表しています。
特に令和3年から新たに加わることになった「43.5~45.5人未満」を含む中小企業は雇用義務企業106,924社の中でも多くの割合を占めていますので今後の雇用実績向上が期待されます。しかしながら、新型コロナによる経済・社会への影響はまだしばらく続くことも予想されることから、国や地方自治体による雇用促進に向けた助成制度(助成金など)の導入により、新たな雇用のきっかけ作りや障がい者雇用における組織のメリットが伝わる活動も検討していただきたいと感じています。