『虐待』という言葉を聞いてどのような印象をお持ちになりますか。
- ニュースでよく聞く言葉
- 身近なことではない
- 強い立場の人が弱い立場の人を虐げる
といった感じでしょうか。
平成24年10月に「障害者虐待防止法」が始まりました。目的は「障害者の権利及び利益の擁護」です。障がい者の虐待には下記の定義があります。
◯「障がい者虐待」とは
- 養護者(障がい者をお世話しているご家族等)による障がい者虐待
- 障がい者福祉施設従事者等(障がい者施設や障がい福祉サービス事業所の職員)による障がい者虐待
- 使用者(障がい者を雇用する会社の雇用主等)による障がい者虐待
◯「障がい者虐待」の累計(5タイプ)
- 身体的虐待(叩く、殴る、蹴る、つねる、正当な理由がない身体拘束等)
- 放棄・放置(食事や排泄、入浴、洗濯等身辺の世話や介助をしない等)
- 心理的虐待(脅し、侮辱、無視、嫌がらせ等で精神的に苦痛を与える等)
- 性的虐待(性交、性器への接触、裸にする、わいせつな映像を見せる等)
- 経済的虐待(本人の同意なしに年金・賃金・財産や預貯金を処分する等)
上記に挙げました「障害者虐待防止法」ですが、施行が平成24年(2012年)と聞き、正直なところ「10年以上前までは定められていなかった」ことに驚きました。
厚生労働省が毎年「使用者による障害者虐待の状況等」として同省のHP上で公表しています。
最新の公表データである「令和2年度使用者による障害者虐待の状況等」のご紹介とともに企業内で起こり得る可能性について考えてみたいと思います。
こちらの公表データでは、虐待の通報・届出、虐待が認められた事業所数、障がい種別、虐待種別(上記5タイプ別)に件数や割合ごとに見ることができます。
障がい種別で見た時に「精神障がい者」が最も虐待を受けてたことがわかります。ここで気になるのは次に多い「知的障がい者」の虐待です。
イメージでは「知的障がい者」の方が虐待を受けやすいと思っていたからです。実は「障がい者虐待」の通報や届出は本人から発せられたシグナルによって、そのご家族や支援者が行動に移すケースが最も多いとなっています。
障がい者の中には「虐待を受けてます」「助けて」のシグナルを発信することが苦手だったり、こちらがうまくキャッチできていないケースも少なくないと思います。そのように考えると潜在的な虐待の実数はさらに多くなると考えられますので、周囲にいる方々の「目」が大きな役割となってきます。
それは、我々自身が障がい者の虐待に対して日常に起こり得る事象と捉え、例えば「もしかして、我が子がいじめを受けているのではないだろうか」という視点を持つことも必要なのではないかと感じます。
次に虐待の種別を見てみます。
虐待の種別で最も多いのが「経済的虐待」になります。「経済的虐待」で最も分かりやすいものは「賃金の未払い」「最低賃金以下」が挙げられます。
「身体的虐待」「心理的虐待」の場合、殴る・蹴るといった身体への暴力や相手を傷づける言葉を投げかける言葉での暴力は加害者側も「虐待」という認識を持ちやすいのですが、「最低賃金の未払い」といったケースでは、事業主側が「本⼈および親族の同意があれば最低賃⾦以上の⽀払いは不要であると考えていた」から給料を下げても良いと思っていたなど、労働法に関する認識不足から発生する虐待があることもこの資料で事例紹介として公表されています。
職場での普段の接し方や待遇が虐待になっているケースが見られるのは、単純な認識不足で加害者になり得る事業主が自分の会社内における安全衛生面への配慮が少ないという点も理由のひとつとして挙げられると感じます。それは、特に障がい者の虐待が多いのは中小規模の企業が多く、事業主及び従業員のモラルに関する教育にまで行き届いていない実情も無視できない思います。
近年になり事業主側の障がい者に対する理解や法律の浸透もあり徐々に件数は減少傾向にあるものの年間に1,000件を超える通報・届出の事実があります。
パワハラ、セクハラと同様に加害者側と被害者側の認識が必ずしも一致するケースばかりではないですが、障がい者を含め、様々な立場の人を雇用することが求められている以上、組織内における「虐待」に対する意識の向上は忘れてはいけない取り組みだと改めて感じました。