先日、厚生労働省から令和6年度以降の障がい者雇用に関連するいくつかの方針発表がありました。障がい者雇用に取り組む企業の経営者や人事担当者にとっては大きな関心事になる内容だったと思います。
障がい者雇用促進法に関する法律の改正が行われ、早ければ令和6年度から施行されるのですが、この令和6年度以降、障がい者雇用の分野にとって大きな節目になるタイミングだと感じています。
その理由について、今回発表された障がい者雇用関連方針より3つのポイントについてお話をしたいと思います。
障がい者法定雇用率が最大の引き上げ幅に
おそらく障がい者雇用に関連する各担当者は漏れなくご存知のことだと思いますが、来年度以降段階的に法定雇用率が引き上げられることになりました。公表された内容によると令和6年(2024年)4月1日に現行の2.3%から2.5%へ、令和8年(2026年)7月1日に2.7%となり、合わせて0.4ポイントの引き上げとなるのは、これまでの法定雇用率の引き上げと比較して最大の上げ幅となることがわかりました。
このことにより、令和6年の法定雇用率2.5%では常用雇用労働者40人の企業が、令和8年の法定雇用率2.7%では常用雇用労働者37人の企業が雇用義務の対象に含まれることになります。
これは、全国の障がい者約1,000万人に対して、雇用義務対象となる企業がこれまでの約100,000社から更に増えるため、今よりも採用競争が高くなることが分かります。
2022年12月に厚生労働省から公表された「令和4年障がい者雇用状況の集計結果」によると法定雇用率の達成割合は48.3%となり、これまでも50.0%を超えたのは2017年のみとなっていることから、障がい者の実雇用数は増加傾向にあるものの法定雇用率の達成割合が伸び悩んでいるのは、企業間に広く障がい者雇用が浸透していない表れのひとつになります。
この達成割合を企業規模ごとに見ましたら「43.5〜100人未満(55,602社)」の45.8%、「300〜500人未満(7,012社)」の43.9%、「500〜1,000人未満(4,778社)」の47.2%が全体の48.3%を下回る値となっています。
今回の法定雇用率の引き上げにより新たに雇用義務対象の企業(令和6年に常用雇用労働者40人の企業、令和8年に常用雇用労働者37人の企業)が加わることで、法定雇用率の達成割合にどの程度の影響が出るのか非常に気ないるところです。
「43.5〜100人未満(55,602社)」の企業規模群が法定雇用率の達成割合に大きく影響を与える存在である一方、1つの企業が1〜2名の障がい者を雇用すれば達成割合を大幅に更新させると考えられます。
これまで、障がい者雇用に対して関心が薄かった企業に対して、行政による支援やその企業が抱える別の課題解決に障がい者の労働力がマッチするといったきっかけがあれば障がい者の新規採用に舵を切る可能性も十分にあると思います。
障がい者雇用除外率の引き下げによる影響
次に令和7年(2025年)4月1日より除外率が10%引き下げられることが決まりました。
《除外率とは》
除外率制度を見たときに、施行された当時は現在よりも障がい者雇用についての認識も進んでおらず、職場での配慮や事業への影響を考慮し、業種によって障がい者の雇用を免除する考え方が一般的に通じていたのだと感じました。それから時代は進み、企業も含め社会全体が多様性の理解と共生に向けて邁進している現在から見て、今回の除外率の引き下げは当然の方針だと思います。
その一方で平成16年(2004年)4月に除外率廃止が決定しながら、同年と平成22年(2010年)7月にそれぞれ10%ずつの引き下げ実施があったのみで、完全撤廃となる時期は未定であり、除外率制度の適応を受けている企業と受けていない企業との間にある不平等な状況を早期に解決してもらいたいと強く願います。
今回、除外率の適応を受けている企業にとっては令和6年の法定雇用率2.5%への引き上げ、令和7年の除外率10%の引き下げ、令和8年の法定雇用率2.7%への引き上げと、この数年は毎年法定雇用率の達成を目指し障がい者の実雇用数の増加を求められるため、今から新たな雇用に向けた計画と実施が必要な状況下にあります。
この流れは、除外率制度の適応を受けていない企業にとっても少なからず影響が考えられます。
前項でもお伝えしたように、これまで除外率制度によって障がい者の雇用数を免除されてきた企業にとっては除外率の引き下げに伴い、新たな人材雇用が必要になってきます。また、環境としては法定雇用率の引き上げとも重なることで、世の中の障がい者の求人活動が活性化。
求職活動中の障がい者に自社の求人を選択してもらうためには、採用時の条件だけではなく雇用定着をにらんだ「職場環境の改善」「障がい者のキャリアパス」「生活の質の向上」が得られる企業が求められると考えます。
障がい者雇用は次のステージに 〜「量」から「質」へ〜
少し前に「障がい者雇用代行ビジネス」に関する記事が世間を賑わせました。
「障がい者雇用代行ビジネス」は別の機会にお話しをするとして、障がい者雇用の置かれる状況と今後について考えてみたいと思います。
結論から申し上げると近い将来の障がい者雇用は「量」から「質」を求められることになります。
「量」とは障がい者の雇用数であり、現状であれば指針となる法定雇用率達成の有無になります。もちろん法定雇用率は今後も障がい者雇用の判断基準のひとつとして設けられ、定められた雇用数を達成しているかどうかは大切な評価となります。
では、「障がい者雇用は「量」から「質」を求められる」とは、「法定雇用率の達成」が求める障がい者雇用の完成ではありません。
企業は何のために人を雇うのでしょうか。社会?顧客?株主?ステークホルダー?
では、そのために大切にしていることは何でしょうか。契約?受注?売上?利益?
その中に従業員とその家族の幸せは含まれているのでしょうか。
企業は顧客からは「困りごとを解消してほしい」と期待され、株主からは「利益を上げ還元しろ」と要求される中で企業努力を惜しまず、切磋琢磨しています。その中身は、会社から努力を求められた従業員が成果を会社に納めているからです。
では、企業は従業員から求められたことにどこまで耳を傾けられているのでしょうか。従業員とは給与を払う側ともらう側の関係性だけで良いのでしょうか。
障がい者という存在は、能力・できることの範囲・成長・強みなど、人の顔と同様に千差万別であるにもかかわらず、一括りにされることが少なくありません。
もし「障がい者は成長しない」「障がい者は仕事ができない」「障がい者には任せられない」と思っているならば、障がい者雇用を「量」でしか測ることができない組織かもしれません。
私が知る企業で働く障がい者は、「出世をします」「結婚をします」「子供ができます」「キャリアパスの一環で転職をします」を実現させています。それらの企業から共通して感じるのは「障がい者雇用はコストではない」と考えている組織なので、雇用する障がい者と共に組織も成長をしています。
繰り返しになりますが、今後も法定雇用率の引き上げは継続され、これまで以上に障がい者の雇用を進める企業は、社会の見えない壁を取り払うかのように多様な人材との相互理解を求められます。障がい者の可能性は周囲が決めるのではなく、選択肢を用意し障がい者自身が選んで進める社会環境が必要だと考えます。
法定雇用率がギリギリの企業にとっては法改正のたびに数名の雇用に一喜一憂しないといけないといった人事担当者の苦しい声が聞こえてきます。そろそろ人事担当者だけが孤軍奮闘する障がい者雇用ではなく、企業が支え組織として多様な人材の活躍をどのように取り組むべきかを考える時期に来ていると思います。