【Q&A】これから障がい者雇用を進めるにあたり求められること

【Q】

いつもお世話になります。

現在、障がい者を数名雇用しています。来年度以降の法定雇用率に引き上げや定年退職を迎える障がい者もいますので、今後も継続して障がい者の採用を進めていく状況にあります。
そのため、セミナーや勉強会、障がい者雇用に取り組む企業の見学会などにも積極的に参加し、自社の障がい者雇用をもっと進めていきたいと考えています。

これから、さらに雇用する障がい者が増えることを想定して、人事担当者・組織が意識して取り組んだ方が良いと思われることはどのようなことがあるか教えてください。
よろしくお願いします。

《医療機器商社、従業員数約350名、人事担当》

【A】

最近は、企業の人事担当者から障がい者雇用のご相談をいただく機会が増えてきたと実感します。
大きな理由としては来年度2024年4月1日の2.5%及び2026年7月1日の2.7%となる法定雇用率の引き上げや除外率の引き下げなど、企業の障がい者雇用に大きく関わりのある法律改正が続きますので、今年度中から取り組みを強化する動きのひとつだと思います。

今回の相談内容は、その中でも1段階進んだ障がい者雇用に取り組もうとする姿勢を感じます。障がい者の求人や採用に関わっている担当者であれば周知のことになりますが、ここ数年で企業は精神・発達障がい者の雇用を大きく進めました。これは、厚生労働省から毎年公表されている「障がい者雇用状況の集計結果」「障がい者の職業紹介状況等」の数値をご覧いただければ国内の障がい者雇用の現状がよく分かります。

精神・発達障がい者の雇用では人事担当者に加え、一緒に働く職場の上司や従業員も障がい特性に関する理解や合理的配慮についての認識を身につけることが求められます。何かしらの資格が必要というほどではありませんが、身体障がい者よりも一見して認識がしづらい特性がありますので、シチュエーションによっては専門的な理解が必要になります。

ここで改めて「これまでの障がい者雇用」と「これからの障がい者雇用」を比較してみたいと思います。

「これまでの障がい者雇⽤」 「これからの障がい者雇⽤」
【担 当 者】

⼈事担当者

⼈事担当者を中⼼に
受け⼊れ部署の担当者が連携

【受⼊部署】

特定の部署
(⼈事・総務・製造現場など)

様々な部署
(雇⽤率の引き上げ、多様性理解)

【特 徴】

⾝体障がい者を中⼼に
軽度知的障がい者も雇⽤
知り合いからの紹介・既存従業員

⾝体・知的・精神と拡⼤
特に精神・発達の雇⽤が増
専⾨機関からの⽀援と合わせて定着

これまでの障がい者雇用では身体障がい者を中心に知的障がい者が会社の人事や総務、製造現場などの特定の部署で勤務する雇用でした。
雇用される障がい者も知り合いからの紹介や既存の従業員の勤続年数が長くなるのに合わせて体調を崩したり事故に遭ったなど、様々な経緯で障がい者(主には身体障がい者)手帳を取得した方が出てくることで、在籍している企業の雇用率にカウントされていたケースが多かったのだと思います。

一方、「これからの障がい者雇用」(※実はすでに始まっています)では、法定雇用率の達成を目標にした際に身体障がい者の雇用だけでは充足させることが困難なため、消極的だった精神・発達障がい者人材も採用ターゲットとして捉え、求人活動を行ってきました。併せて、これまでは特性の部署での受け入れだった配置が、雇用人数の増加に伴い様々な部署でも障がい者を受け入れていくようになってきました。
その結果、人事担当者と受入部署となる職場の担当者やその上司がこまめな連携を取り合ったり、気になることがあれば相談・対応が可能な体制を整える必要性を感じる組織が増えてきました。
これは、「これまでの障がい者雇用=集約型・個」から「これからの障がい者雇用=分散型・組織」に移行してきたと考えられます。

「これからの障がい者雇用=分散型・組織」では、より専門性が求められるため、職場に負担が増えるのではないかと考えてしまいます。ご存知ない企業の担当者が少なくないので改めてお伝えすると、企業の障がい者雇用を外部からサポートしてもらえる専門機関があり、特例子会社や既に障がい者雇用で実績を上げられている企業はそれら専門機関を大いに活用しています。
専門機関というのは、障がい者の就職や社会参加を支援する就労系障害福祉サービス(障がい者就労移行支援事業所/障がい者就労継続支援A型事業所/障がい者就労継続支援B型事業所)や地域職業センター、障害者就労・生活支援センターなどが挙げられます。
職場で専門性ある支援や合理的配慮の提供を自社にあるリソースだけで実施するには多くの時間と経験が必要になることも少なくないため、足りない部分を補ってくれる役割である専門機関の活用を検討してほしいと思います。

そういう意味では、障がい者雇用を進めていきながら、その取り組みによって得られる「知識」「経験」「ノウハウ」を蓄積させる体制とその仕組みづくりが不可欠だと考えます。これは、企業が存続する限り障がい者雇用が継続的な取り組みであることを忘れてはいけません。障がいのある人が働き役割を担える職場環境は他のマイノリティを含めた誰にとっても働きやすく環境であり、成果を生み出せる組織にこそ価値ある企業になり得ると思います。
また、今後少子高齢化が進む時代にあって労働力の確保は企業の生命線のひとつとなります。そのような時代に労働力に関連する課題から解放される組織、人材から選ばれる組織は価値が高いと考えます。障がい者雇用では、労働力に関する課題を解決する効果が得られます。

コロナも落ち着き、企業による障がい者求人も回復してきました。来年度以降の法定雇用率の引き上げにより既存の雇用義務企業はますます障がい者確保に大きく舵を切ります。
また雇用義務の対象となる企業範囲も拡大しますので、採用競争はこれまで以上に激しくなります。障がい者を雇用しているから安心ではなく、求人数の増加は選択肢の数と比例するため在職中の障がい者もより良い待遇と環境、キャリアアップを求めて転職を目指す人材が増えると考えられます。
過去の障がい者雇用では、「雇ったら終わり」「障がい者のキャリアアップなどにほとんど目を向けてきません」でしたが、これからは一般の従業員と大差ない待遇や雇用環境を整える企業を障がい者が選ぶ時代がもっと進んできます。蓄積された知識や経験等を使って障がい者から選ばれる会社を目指すことが求められます。売上・利益に加えて社会貢献度、多様性理解のある組織づくりに実績がある企業が評価される時代になってきたと感じます。
裏を返すと障がい者雇用を法定雇用率の達成のみで取り組んできた企業にとっては大きな転換期を迎えることになります。またアウトソースによる障がい者雇用実数を作っている企業の場合、上記のような取り組みをしている企業と比較して知識や経験、ノウハウが蓄積されにくい体制と考えますから、早い時期に方針転換をしなければ、大きな差となってくることでしょう。

ABOUTこの記事をかいた人

[障害者雇用コンサルタント]
雇用義務のある企業向けに障害者雇用サポートを提供し、障害者の雇用定着に必要な環境整備・人事向け採用コーディネート・助成金相談、また障害者人材を活かした事業に関するアドバイスを実施。障害者雇用メリットの最大化を提案。その他、船井総研とコラボした勉強会・見学会の開催や助成金講座の講師やコラム執筆など、障害者雇用の普及に精力的に取り組んでいる。

▼アドバイス実施先(一部抜粋)
・opzt株式会社・川崎重工業株式会社・株式会社神戸製鋼所・沢井製薬株式会社・株式会社セイデン・日本開発株式会社・日本電産株式会社・株式会社ティーエルエス・パナソニック株式会社・大阪富士工業株式会社・株式会社船井総合研究所・株式会社リビングプラットフォーム