前回に続きまして、メンタルヘルス対策の導入が企業の進める障害者雇用に与える3つのメリットについてお話ししようと思います。
「メンタルヘルス」と「障害者雇用」の関係性は大きいと言えます。
お気づきの人事担当者も多く、「メンタル不調で休職した場合、手帳を取得することはできるのですか。」「手帳を取得した従業員から会社に申請してもらう方法はないですか。」「活用できる助成金はあるのでしょうか。」といったご質問をいただくことも少なくありません。
特に、「手帳取得従業員からの申請」について、人事担当者のこのようなお考えは間違っていませんし、義務感から法定雇用率を達成させるというミッションを与えられている身としては少しでも取りこぼしのないようにしておきたいでしょう。導き出したい答えは合っています。
メンタルヘルス対策に近道なし
但し、この答えを出すためには準備と時間が必要になります。どうしても、近道を考えてしまいがちですが、システムや機械を導入するのとは訳が違い、会社のために働いている従業員の関するお話しです。よくこのような例えを出すのですが、メンタルヘルス対策や障害者雇用の取り組みは、「高い山の頂上を目指す登山」のようなものです。高い山に登るために、先ずは「計画」や「体力作り」「山についての情報収集」「持参する装備」などの入念な準備が必要です。それらが揃って初めて登山開始です。目の前の山を制覇したいという逸る気持ちを抑えて一歩一歩足元を確かめながら、確実に歩を進めていきます。自分のペースだけを考えるのではなく、お互いの状態を確かめ合いながら登っていきます。高所には多くの危険があり失敗はできません。時にはシェルパの存在が命を助けてくれます。
これをメンタルヘルス対策に置き換えてみると、「導入計画」「社内の環境安全の状況」「メンタルヘルスへの従業員の理解度」「社外の協力者」の準備といったところでしょうか。準備が整ったら、本格的なメンタルヘルス対策導入を開始します。従業員のメンタル不調による休職率の軽減やリワーク制度の確立を目指すのであれば、それらの実現に不足しているパーツを見つけ出し当てはめていくことになります。これに近道はありません。
協力が不可欠な従業員からの理解。待遇の見直しや研修による従業員の意識改革も必要になってくるでしょう。活用できる助成金があれば負担の軽減にもなりますし、専門分野となりますから社外のプロへの相談やサポートをお願いすることも考えないといけません。
このように、時間を掛けてメンタルヘルス対策を浸透させることで得られるメリットがあるのです。
① 法律に影響されない
先ず、精神障がい者の採用への邪魔が減ります。理解が進むということです。
時間を掛けてメンタルヘルス対策導入への理解を浸透させるときに、障がい者(特に精神障がい者)に関する正しい知識も得てもらう機会を作ってください。
前回にもお話ししましたが、社内でうつや双極性障がいなどのメンタル不調が発症した際、身近にいる従業員にとってそれらの状態は「大きなマイナス」イメージを植え付けてしまいます。この時に、正しい障がい者に対する知識を身に着けてもらうことで、『メンタル不調になった状態』と『働けるまで回復した(精神)障がい者』とは違う存在だと理解してもらうことができます。障がい者求人のメインターゲットになっている精神障がい者の採用理解が社内にあるということは、義務感ばかりに囚われずに今後の法律改正にも困ることなく対応することができるのです。
② 従業員の理解が自己申告を生み出す
誰も自から望んでメンタル不調になる従業員などいません。仕事に熱心になり過ぎたり、身内の看病や介護による疲労など、意図しないことが原因で発症してしまいます。
悲しい話ですが、メンタル不調になる数を減らすことはできますが、完全にこの世からなくすことはできないと思っています。それならば、不運にもメンタル不調になってしまっても、現実を受け入れ今の自分を精一杯生きていける環境だったら元気になるのではないですか。体や心を壊した自分を会社や同僚たちが受け入れてくれたならどれだけ救われるでしょう。
おそらく、障がい者も健常者も変わりなく従業員として扱ってくれ、弱い部分を特徴だといって配慮してもらえるような理解が浸透されていれば、従業員自ら申告してくる会社になることができます。
③ 企業の成長が実感できる
最後に抽象的な、耳にやさしい言葉になってしまいましたが、メンタルヘルス対策がしっかりと導入され、障害者雇用が根付いた会社はどのような従業員であっても満足度の高い会社だといえます。
不思議な話ですが、これまで障がい者の募集を掛けても希望するような人材からのエントリーが全然なかった会社が、本格的なメンタルヘルス対策の導入をきっかけに障がいを持つ人材のサポートをする事業を始めた頃から、障がい者からのエントリーが増え、法定雇用率を達成させることができました。本業についても、取引先からの受注が増えた結果として毎年増収増益となり、企業の規模も大きくなりました。実は、企業の成長というのは規模のことだけではなく、そこで働く従業員の「人としての成長」が最もいい形で見られたのです。会社の雰囲気を作るのは、社長ではなくそこで働く従業員だと思っています。社長がにこやかにしていても、従業員が元気なく下を向いているような会社は、外から見ても暗い感じを受けてしまいます。
元来、人の脳は「他人の役に立ちたい」「人に喜ばれたい」という欲求があるといわれています。障がいのある人に対しての拒否反応は「分からない」「知らない」ところから出てくる反応です。しっかりとした正しい知識があれば拒否反応ではなく、「人を助けた」時に得る喜びの方が増します。職場で仕事を通じて「他人の役に立ちたい」「人に喜ばれたい」という欲求が生まれれば、会社は自ずから成長するのではないでしょうか。