最近では多様性というワードが日本でも市民権を得たお陰で社会にも浸透し、普段の生活のあらゆる場面でも「自分との違いを認識し受容する」ことが尊重される時代として、特に若い世代を中心に進んできたように感じられます。とはいえ、多様性な立場の人たちから見た現在の日本社会が果たして暮らしやすいと感じられる状況にあるのかと問われれば、世界のスタンダードと比較したときに、まだまだ道半ばもしくはようやくスタートラインに立ったあたりではないでしょうか。
URL:https://www.gender.go.jp/international/int_syogaikoku/int_shihyo/index.html
※日本の順位:125位/146か国 (2023.6.21発表)
今回ミルマガジンでは、過去に障がい者雇用の実践企業への取材としてご協力をいただきました阪和興業株式会社にて完全リモート勤務をされている宮田真氏にお話をお聞きしました。
車いすユーザーである宮田氏は身体障がい者として同社に勤務する一方、トランスジェンダーでもある自身のこれまでの経験を通してセクシャルマイノリティの理解促進を目的としたNPO団体レインボー高知の代表としても活躍をされています。企業で働く障がい者とトランスジェンダーのダブルマイノリティとして日々活動されている宮田氏への取材を通じて、多様性社会の実現に向けた取り組みを知りたいと思います。
◯「NPO団体レインボー高知」を始めたきっかけ
《話・宮田氏》
私がレインボー高知を始めたきっかけはコロナ禍前の2018〜19年でした。
当時、10年来の友人カップルから同性婚についての悩み・相談を聞いていました。その頃は同性による結婚の形が養子縁組の制度を活用して、カップルにも関わらず親子関係もしくは兄弟関係になる選択がほとんどでした。しかし、カップルのうちのひとりの方にとっての結婚は養子縁組による戸籍上で家族になる形ではなく、同性間でも一般的な結婚をしたいという強い気持ちがありました。
その方の周りでは結婚をする友人がいたり、結婚に関する話題を聞かれたりなど、自分の将来について不安を感じる状況にあったことも結婚に対するこだわりを持っていたのだと思います。
そのような中、2015年に渋谷区で国内初の同姓パートナーシップ制度の条例が施行されました。同性間でも結婚に相当する関係として証明書が発行される制度で、高知市でも条例を施行できないかと考え、活動を始めました。私は疾患が原因で車いすユーザーになったのですが、治療を受けて退院をするタイミングとパートナーシップ制度条例の施行を訴える活動の時期が重なった頃でもありました。
元々、セクシャルマイノリティの当事者が集まる小さな団体の代表を務めていたのですが、パートナーシップ制度の導入を含めた啓発活動を本格的に取り組むのであれば正式な団体とすることで信用性が高まり、行政機関としても声に向き合った対応を取ってくれるとのアドバイスのもと、NPO団体レインボー高知を設立することになりました。
◯活動を通して
上記の活動を経て高知県にも「パートナーシップ制度」が施行され、今では県内8つの自治体で導入されています。高知市が多様性を認識する地域であることを示す取り組みとして「高知市にじいろのまち宣言」を行ったり、LGBTQ+といった性の多様性を理解・支援を意味する「Ally(アライ)」をテーマにした「アライフェスタ」の開催など、セクシャルマイノリティが可視化された活動としてくれるようになりました。
視覚的・体感的な情報として捉えられるようになることでこれまで関心がなかった人たちにも情報が届くきっかけになったと感じています。
県内で実施した人権に関するアンケートでもセクシャルマイノリティに関する項目についての回答が増えてきたと実感するようになりました。これは、我々の活動だけではなく様々なメディアで取り上げられる機会が増え、多くの人たちの関心ごとになってきたからだと思います。
また同性愛をテーマにしたドラマ・漫画も多くなったことで、これまではタブーだった同性愛が男女の恋愛と同じようなものじゃないかと思ってもらえる様に近づいてきており、普段の生活の中でもLGBTQ+を見聞きするようになってきたと感じます。今まではセクシャルマイノリティの人たちはカミングアウトもできず隠れた存在でしたが、少しずつ社会が変わってきたのだと実感しています。
URL:https://www.city.kochi.kochi.jp/soshiki/124/nijiironomatisenngenn.html#:~:text=%E9%AB%98%E7%9F%A5%E5%B8%82%E3%81%AF%E3%80%81%E5%A4%9A%E6%A7%98%E3%81%AA,%E3%82%92%E8%A1%A8%E7%8F%BE%E3%81%97%E3%81%A6%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82
◯社会における課題について
メディアによりセクシャルマイノリティに関する情報が発信される機会が増えたことで関心が高くなる一方で、差別的な部分やヘイト活動の様子の取り上げ方によってはトランスジェンダー、同性愛がマイナスな印象になる恐れもありますしG7の中で唯一日本だけが同性婚が認められていません。
国内の地裁の判例がようやく否定一辺倒から、肯定的な意見を発信するようになりましたが、日本としてはまだまだこれからとなります。
セクシャルマイノリティの人たちが日々の生活で遭遇する困りごとや不便を見ると、課題が山積していると感じます。身近なことで言えば、トイレ・更衣室・公共施設で男女の区別しかされていない場合の使用ルールや設備、設置方法など、ニュースでも取り上げられる機会が増えてきました。いろいろな立場の意見があることも理解していますので、だからこそ話し合う機会が必要だと思うのですが、そういった機会が非常に少ないのが現実です。
防災の場面についても今のうちからそれぞれの立場の人同士が集まり意見交換が必要だと、災害が多い日本だからこそ強く感じています。
例えば災害が発生した際には近隣の学校等に設置される避難所に多くの人たちが集まります。避難所で集団生活を送る場面でもこれまでのような男女だけの区別だとセクシャルマイノリティの人たちには様々な不便を感じてしまいます。トイレの使用方法の他にも、外見は男性だが女性の場合に生理用品をどのようにするのかといった、大勢が集まって生活をする場だからこそ当事者の気持ちを汲み取ったルールや決めごとが必要だと感じています。ただ、我々の意見だけを押し付けるだけになってはいけませんので、避難所を安全に運用するための規則やルールを理解することも必要だと思いますので、お互いの理解を深めるところから始めていきたいと思います。
◯阪和興業株式会社での障がい者雇用について
私にとって初めての障がい者雇用枠での採用でした。働き方についても初めての完全リモートによる勤務なのですが、自分にとってはテレワークというスタイルが最適だったと感じました。
これが通常の出社スタイルだった場合、毎日の服装選びや天候などを気にしながら出勤しないといけません。また、車いすユーザーですから外出先でのトイレなども自宅での勤務であれば気にすることもありませんし、心身ともに安全性が守られた環境下で働くことができます。私は障がい者であり、セクシャルマイノリティでもありますので、テレワークによる働き方によって自身の特性を守りながら、自分らしさを強みとして発揮することができると感じています。
障がい者だからテレワークが良い、セクシャルマイノリティだからテレワークが良いというわけではなく、それぞれの特性に合った働き方を選択できる社会が広がってほしいと、阪和興業で働くようになってから改めて感じるようになりました。
セクシャルマイノリティの方達を含め、障がい者もマイノリティな存在として共通する部分がありつつ、性の多様性に関する知識がほとんどない状態だった私にとって、宮田氏との出会いは私が持つ多様性に対する視野を広げ、宮田氏から聞くレインボー高知を通しての活動は「自分との違いがある他者を認め受け入れること」だという認識をより一層深く掘り下げてくれるものでした。
ご協力ありがとうございました。