私には小学5年生になる息子がいます。彼は週に1度ラグビースクールに通っています。小学1年生から始めたのでかれこれ5年目になりますが、ラグビーのプレイの中でも“得意なこと”と“不得意なこと”があるようです。例えば、“得意なこと”はボールを持つと相手陣地に向かって真っすぐゲイン(前進)をすることです。ラグビーは「陣取りゲーム」と言われ、目的は少しでも多く相手陣地に攻め込み、そこでプレイをしトライ(得点)を奪うことです。従って、ボールを持ったプレイヤーは相手の防御をかいくぐってトライを目指します。逆に“不得意なこと”はボールを持った相手へのタックルです。人にブツかっていくってなかなか勇気のいることで、もうすぐ5年が経ちますが、最近になってようやく5回に1回は相手プレイヤーにタックルすることができるようになりました。
人にはあらゆる場面において“得意なこと(強味)”と“不得意なこと(弱味)”があります。健常者であっても万能な人なんてこの世にはいません。障害者雇用でもこの“得意なこと”と“不得意なこと”を理解し、上手く活用すれば職場の定着へとつながります。それは、障がい者個々の特徴や能力を認識するために、採用側が取る行動がポイントとなります。
今回のコラムは、障がい者に適した業務を見つけ方についてのご相談から職場定着を実現させるための事例をご紹介します。
今回のご相談者のような課題を持つ企業は非常に多いと思います。よく言われるのは、事務職であれば「コピーやシュレッダー、簡単な入力業務などの単純作業。主要な業務は担当させないように考えています。」といった内容です。これもひとつの考え方であり、正解か間違いかは企業によって様々です。敢えて言うのであれば、『段階を追った柔軟な業務確保が、適材適所な職場定着を実現させる』ということです。
今企業で求められている人材モデルは“ゼネラリスト”な人材だと感じています。これは、広範囲にあらゆる業務がこなせる「なんでもできる」人材を指しています。オフィスでの仕事場面で例えるなら、「パソコンスキルがある」「電話や接客もできる」「雑務もこなせる」など、どの業務も無難に処理できといった感じです。
その反対は“スペシャリスト”な人材と言い、狭い範囲ながらも高い知識や経験を活かした業務がこなせる「職人的」な人材を指します。例えると、「無愛想なので接客は任せられないが、資料の作成や調査などのマーケティングは精度の高い成果を出すことができる」といった職人気質なイメージと言えば分かりやすいでしょうか。
障がいを持つ人材はハンデを持つ分、健常者と比べて物事のできる範囲や精度に限界があります。例えば、すべての発達障がい者に該当するということではありませんが、健常者であれば普通にこなす「電話を受けながらメモをする」という行為が苦手で、いわゆる「2つの行動を同時にこなせない」という特徴です。これは“得意なこと”と“不得意なこと”を見た場合、特に“不得意なこと”に関しては「できない」の度合いが非常に高いものとなります。そのため、採用する障がい者に求める人材像は“ゼネラリスト”よりも“スペシャリスト”の方が現実的であると考えます。(この「電話を受けながらメモをする」が苦手という場合は、電話業務をはずすか専用のメモ用紙を準備するなどの配慮が必要)
障がい者の“得意なこと”を活かした業務に就いてもらう場合、適性からの判断が必要となります。これは段階を追いながら、どの作業が“得意なこと”でどの作業が“不得意なこと”なのかを見ていく工程を設けます。
当然、この工程を経て適正な業務に就いてもらうことは、採用活動時に本人や支援する方たちへ伝えておくことがスムーズに進めさせるポイントとなります。
あくまでも事例とことを前提にお話しすると、先ずはご相談者様のように単純作業からスタートさせます。これは、本人の能力を知るという点もありますが、最初から複雑な業務になりますと、本人へのプレッシャーも周囲の期待値も高くなってしまいますのでお勧めできません。この時、作業と一緒に単純作業を試してもらう期間も決めておきます。単純作業を通じて本人の能力と適正が分かったところで主要な業務に就いてもらいます。但し、本人がこのまま単純作業が自分に合っているという考えを持っているのであれば、対応を検討してください。必ず、主要な業務に就けないといけないということではありません
なぜ、単純作業 = 障害者雇用が相応しくいのかと言いますと、今企業から単純作業と言われているものがどんどんなくなっています。ツールが進化し便利になるということのひとつは単純作業を効率化(減らしていく)ことです。企業内から失くしていく作業を障害者雇用に充てるということは、今後障害者雇用を確立・構築させていくことと反比例な行動となってしまいます。従って、障がい者の職場定着を実現させるのであれば、ずっと単純作業ではなくある段階まで進めば主要な業務に移行させていくことが求められる理由です。
あと、身体障がい者、精神障がい者、知的障がい者それぞれに適した業務についてですが、これに関しては「必ずこの業務が最適!」といったものはありません。知的障がい者の多くは体を動かす業務(清掃、倉庫業など)に就いていますが、PCが好きで得意な方もいらっしゃいます。コミュニケーションが不得意な発達障がい者でも取引先や外注先との窓口業務をしている方もいらっしゃいます。これらも本人の適性を見極めた上で与えられた役割です。
障害者雇用の取組みを始めたばかりの企業が独自で今回のような進め方をするのはかなりハードルが高いです。できれば知識・経験のある専門家の力を活用してください。
もうひとつ。最後までご覧いただいた方の中にはお気づきになったかもしれませんが、今回の話は障がい者に限ったものではありません。冒頭でお話ししましたように健常者も障がい者も“得意なこと(強味)”と“不得意なこと(弱味)”があります。是非、健常者の適材適所を実現するのであれば、このような考え方を用いてみるのもひとつだと思います。
新しく採用する障がい者に適したお仕事をしてもらいたいのですが、どのようにして見つければよいのでしょうか。例えば、繰り返しの単純作業をメインで考えているのですが、果たしてそれでいいのでしょうか。また、精神障がい者に適した仕事ってあるのでしょうか。是非、よろしくお願いします。