ミルマガジンでは、「障がい者アスリート」×「働く」をテーマに、障がい者スポーツを取り上げていこうと思います。
前回は、聴覚障がい者によるスポーツとして『デフバスケットボール 男子日本代表』のご紹介をしました。
今回も引き続き『デフバスケットボール 男子日本代表』について、チームの監督を務められている上田頼飛氏に色々なお話しを聞かせていただくことができました。
デフバスケットボール男子日本代表監督 上田頼飛
監督を引き受けたきっかけ
上田氏自身は健聴者にもかかわらずデフバスケットボールの男子日本代表の監督を務められています。きっかけは、20代の頃に知り合った聴覚障がい者の選手でした。それまで、聴覚に障がいを持つ人が身近にいたわけでもなかった上田氏ですが、ストリートバスケットで外国の選手と試合をすることが多く、言葉が通じない相手とのコミュケーションに対して強い抵抗を感じていなかったため、聴覚に障がいを持つ選手との関係も自然な形で作り上げられました。
そのような中、デフバスケットボール男子日本代表チームの監督のお話しが来た時も、「聴覚障がい者と健聴者の間に垣根のないバスケットボールというスポーツを構築したい!」と思いから引き受けられたということです。
監督になって感じたこと
今から約3年前、監督に就任した当初に強く感じたことがあります。それは、選手を見ていて「全体像をみて取り組める選手が少ない。」ということでした。当時、マネージャーをしていた方にデフ選手の状況を聞かされた内容が「働いている選手の多くは単純作業と呼ばれる簡単な仕事しか任されていません。そのため、担当している仕事を向上させるための改善や工夫、同僚との連携などを考えることも少なく、中には仕事も長続きせず転職を繰り返す選手が多いのです。」と説明を受けていたこともあり(実際には内容の違う部分がありました。)、日常の習慣の部分からのアプローチを試みました。
バスケットボールは、他のチームプレーが必要なスポーツと同様に、メンバー同士のコミュニケーションが重要で、与えられた役割の中で試合に勝つために自分は何を求められているのかを自身で考えないと強いチームにはなりません。
先ずは、自分たちで意見を出し合い考えるということを教え込みました。その結果、例えばこれまでプレイヤーとして足りていなかった体格の強化にも目を向けることができた結果、これまでより一回りも大きな体格となり、試合中の接触プレイにも簡単に負けないようなフィジカルを身に付けることができました。
また、以前に比べて障がいを持つアスリートが注目をされるようになってきました。そのことは非常に喜ばしいことなのですが、その一方で感じる困り事もあります。「アスリートのプロ化」です。一部の障がい者アスリートがメディアやCMなどに取り上げられる頻度が高くなってくると、「自分もあんな風になれるんだ。」「プロとして契約すると働かなくても生活していける。」といった考えを持つ選手が増えてきます。
メディアなどに取り上げられる障がい者アスリートはごく一部であって、ほとんどのアスリートは仕事とスポーツを両立しながらの生活を送っているということをしっかりと理解してもらいたいと思います。
このように障がい者スポーツの現状を広く知ってもらうことで、アスリートを目指す障がい者の生活や将来が今よりも良いものになってくれるのではないかと考えています。
嬉しかったこと
デブバスケットボールという競技に対する認知はまだまだ低く、知名度を上げていくことも大きな課題となっています。チームを強くするのと同時にデフバスケットボールをもっと広く知ってもらうための活動にも力を入れています。
そのような中、選手が試合後やイベント開催時に来場したファンや子供たちからサイン・写真をねだられる風景を目にする機会が増えてきたことです。
これまでのメンバーは、チームスポーツなのにお互いのことを考えずにプレイすることも多く、勝つための練習やトレーニングにも力を入れていませんでした。それが、今ではファンからサインを求められるような存在となったことが非常に誇らしく思います。
障がいがあっても「人に求められる存在」「目指される存在」になってもらいたいと思っています。
今年は、7月に「U21デフバスケットボール世界選手権(ワシントン)」、11月に「アジア太平洋デフバスケットボールクラブ選手権 国際大会(メルボルン)」に参加が決まっています。
選手たちはまだまだ強くなります。(フィジカルは監督の上田氏の方が高い数値なのですが)是非、これをきっかけに応援をよろしくお願いします。
デフバスケットボール男子日本代表の皆さん、監督の上田頼飛さん、取材のご協力ありがとうございました。
上田氏は、日本のスポーツを支える指導者の祭典である「ジャパンコーチズアワード」の第5回の優秀コーチ賞のひとりに選出されました。これは、デフバスケットボールの代表チームの監督としての評価だけではなく、同競技の振興にも尽力された結果でもあります。
私は今回の取材を通じて、デフバスケットボールのことを知りました。また、障がいを持つアスリートの現状や課題についても改めて感じることがありました。
今後も障がい者アスリートの取材を通じて、多くの方々に競技に取り組む選手や周囲で支える方々、そしてそれらを取り囲む環境や現状など、あまり知られていない部分を知っていただく機会を作っていきたいと思います。
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