厚生労働省から「平成30年 障害者雇用状況の集計結果」が発表されました。
例年であれば12月から年明け1月頃に発表されるのですが、今回は少し遅れてからの発表となったのには理由があります。昨年、大きく世間を騒がせました「中央省庁による障害者雇用数水増し問題」が原因であります。
先日、障がい者を対象にした第1回目の国家公務員試験の選考結果が発表され、全国で754名が合格されたということです。今回、就職が決まった方たちが職場に定着することが、今後採用される障がい者や一緒に働く方々にとって良い効果につながっていくことと思います。
今回の「平成30年 障害者雇用状況の集計結果」の内容から興味深い点がいくつか見られました。
障害者雇用数について
この集計結果に該当する民間企業というのは、「法定雇用率2.2%が義務化されている常用雇用労働者45.5人以上規模の企業」となります。これら民間企業に雇用されている障がい者の数は537,769.5人で前年比7.9%増の38,974.5人の増加となり、15年連続して前年度を上回る数値の達成となりました。
45.5~50人未満は4,252.5人(今年度より)
50~100人未満は50,674.5人(前年45,689.5人で10.9%増)
100~300人未満は106,521.5人(前年99,028.0人で7.6%増)
300~500人未満は46,877.5人(前年44,282.0人で5.9%増)
500~1,000人未満は62,408.0人(前年58,912.0人で5.9%増)
1,000人以上は264,036.0人(前年247,683.5人で6.6%増)
平成30年度になって初めて障害者雇用数が50万人を超えることになったのですが、これは法律の改正が一番大きく影響をしたからではないかと考えます。
また、この障害者雇用数である537,769.5人という数値ですが、実際の雇用人数ではないことをご存知でしょうか。
重度障がい者であればダブルカウント、短時間労働(週の労働時間20~30時間未満)であれば0.5カウントとして算出されているのがこの数値です。実雇用数を見た場合、身体障がい者は256,153人、知的障がい者は110,144人、精神障がい者は71,235人となり、437,532人というのが民間企業で働いている障がい者の数となります。全国約800万人の障がい者から見た場合、5.5%程度の数値であるということを知っておいてください。
実雇用率について
実雇用率とは、障害者雇用数534.769.5人を義務化となる企業100,598社で働く算定の基礎となる労働者26,104,834.5人で割った数値をパーセンテージ化したものとなります。平成30年度の実雇用率は過去最高となる2.05%(前年1.97%)でした。
45.5~50人未満は1.69%(今年度より)
50~100人未満は1.68%(前年1.60%)
100~300人未満は1.91%(前年1.81%)
300~500人未満は1.90%(前年1.82%)
500~1,000人未満は2.05%(前年1.97%)
1,000人以上は2.25%(前年2.16%)
但し、全体の実雇用率2.05%を上回った企業規模は「500~1,000人未満」と「1,000人以上」となり、いわゆる大きな組織を持つ企業では障害者雇用が進んでいることが分かります。一方で500人未満の企業は前年よりも雇用は進んだものの平均値には届かない実績ということになります。
法定雇用率達成企業の割合について
法定雇用率達成企業の割合というのは、2.2%の数値を達成している企業が全体から見てどの程度なのかを表したものになります。平成30年度の割合は45.9%となり、こちらに関しては上記「障害者雇用数」「実雇用率」とは違って前年度の50.0%を下回る結果となってしまいました。
こちらも企業規模別に割合を見てみると、
45.5~50人未満は34.0%(今年度より)
50~100人未満は45.4%(前年46.5%)
100~300人未満は50.1%(前年54.1%)
300~500人未満は40.1%(前年45.8%)
500~1,000人未満は40.1%(前年48.6%)
1,000人以上は47.8%(前年62.0%)
過去にも法定雇用率の引き上げとなる最初の年では達成割合が大きく下がる結果になっていました。従って、例年と同様であれば平成31年度からは再び上昇傾向が見られると考えます。
しかしながら、障害者雇用の対象となる企業数が10万社を超え、年々採用競争が厳しくなる中、求人のターゲットが精神・発達障がい者に移行してきたのはご存知のことだと思います。おそらく、これまでと同様の取り組みで法定雇用率を達成していくことが困難となり、新たな採用や雇用の枠組みを早い段階で模索していくことが求められてくるのではないかと感じています。
この未達成企業をもう少し見てみましょう。未達成企業の数は54,369社で全体の54.1%を占めています。そのうち、障害者雇用がゼロという企業は31,439社となり未達成企業の割合で57.8%となります。(下記参照)
この表をご覧いただくと未達成企業がそれぞれ1~4名程度の障がい者採用に取り組むだけでかなり大きな成果につながると言えます。
特に「45.5~100人未満」の企業群については雇用ゼロ企業が25,826社もあります。大きな母数となる企業規模が小さいところでは障害者雇用についての意識も高くない場合も多く、戦力というよりも邪魔な存在として認識されているのではないでしょうか。それであれば納付金(罰金)の支払いによる対応で済ませてしまうことがほとんどです。支払って終わりではなく、どのようにして障害者雇用が企業メリットとして捉えてもらえるかが大きなカギとなってきます。先ずは障がい者との接点を作ってもらうところから始めることで大きな一歩となります。そのような助成金ために使う納付金であってほしいです。
精神障がい者の雇用数増加について
平成30年度も例年通り身体障がい者・知的障がい者より精神障がい者の雇用数が大きく伸びる結果となりました。
知的障害者雇用数121,166.5人(前年112,293.5人で7.9%増)
精神障害者雇用数67,395.0人(前年50,047.5人で34.7%増)
特にこの平成30年度の精神障害者雇用数増加の一因は、「短時間労働者の精神障がい者の雇用も1カウント」とする特例措置によるものではないかと考えます。就職を希望する障がい者の中には短時間勤務からフルタイムへと段階を経て勤務時間をのばしていく方が雇用定着につながりやすい方々が少なくありません。
今回の法令は精神・発達障がい者にとって雇用機会の増加となり、企業にとっても採用メリットとなる結果だったのではないかと感じます。この法令は2018年から5年間の時限法案となっているのですが、今回の実績から「有期から無期限へ」「助成金」などの追加措置を検討してもらいたいと思います。
都道府県別の実雇用率等の状況について
最後に。都道府県別で障害者雇用状況についてお話ししたいと思います。
こちらでは各都道府県の「実雇用率」「法定雇用率達成企業の割合」「法定雇用率達成企業数」などが一覧で見ることができます。今回は「法定雇用率達成企業の割合」にある数値を見てみたいと思います。(「実雇用率」は達成企業の中で雇用率を大きく上回る採用をしている場合、平均値に影響が出やすいため)
「法定雇用率達成企業の割合」の全国平均である45.9%を下回っているのは「東京(29.6%)」「神奈川(43.9%)」「愛知(43.9%)」「大阪(41.0%)」の4都府県でした。やはり、他に比べて「企業」「人口」が集中している大都市を抱える地域の特徴と言えるでしょう。
今後、障がい者の採用は小規模企業にも進んでいくことが容易に考えられます。そうなると今以上に採用競争が激しくなってきます。一部では始まっている「地方在住の障がい者人材の活用」が本格的に動き出すと思います。