私は普段から人事担当者の方から障害者雇用に関するご相談をよく受けています。多い時では年間に150社以上の企業とお会いし、法律や助成金に関する相談以外にも現状の課題に加え過去の失敗談や苦労話なども聞かせてもらいます。
今、障害者雇用で成果を出している企業も取組み当初はたくさんの失敗や苦労を重ね、諦めずに続けた結果、その中から自社に適した定着方法に辿り着きました。
これら成果を出している企業は取組みを進めていく過程で障がい者が定着しない理由に気づき、それらを克服するための修正を人事担当者だけでなく社内全体で実施してきました。
この「気づき」「修正」という2点のポイントは、本業に直接かかわることではない部分で、気を回しにくい点ですから、放置されがちですが、実はそれほど難しいことではありません。障がい者と一緒に働くということの理解が不十分なので難しく感じてしまっているわけです。
私は障害者雇用の課題に取り組んでいる企業に対して、絶えず諦めずに成果を上げてもらいたいという気持ちを強く持っています。
障害者雇用が根付いている企業には成長を感じることがあります。企業の成績となる売上だけを重視というのではなく、従業員も含めた「企業成長」という意味です。おそらく成長を感じる企業では障がいの有無に関わらず従業員が心身の健康を保ち、各自が与えられた役割以上の成果を出していけるのだと思います。
では、障害者雇用の失敗が企業成長にどのように影響するのでしょうか
① 理解不足が障がい者への悪いイメージに
障害者雇用にはある程度の失敗は必ず発生します。
どんなに人を見る目が合っても採用後の適性でミスマッチも起こります。
その失敗に大きくつまずかない企業にはしっかりとした下地ができています。いわゆる、一緒に働く従業員に対して理解に繋がる取組み(受入前の研修や実習など)の実施です。
下地ができていないと、従業員が障がい者と一緒に働くということに抵抗を感じてしまいます。家族や身内、近しい友人などに障がい者の存在がいないと理解を示すことは難しいことですから。
そのため、業務で上手く成果が出せなかったり、急な欠勤などが続いたりすると邪魔な存在に感じ、不平不満を持ち協力姿勢がとれなくなってしまいます。
仮にその方が定着せずに退職した後、新たな雇用を進めようとしても障がい者に対するイメージが悪くなっていますから、同じ部署での受入れをしてはもらえなくなってしまいます。
その空気は徐々に会社全体に広まり、結果法定雇用率を達成することが非常に困難な状況となります。
② 従業員の自社に対する期待値の低下
障害者雇用に対する一部の従業員からの理解不足により法令順守の実現は遠のいてしまいます。そのことで他の一般的な考えを持つ従業員からは法令を守っていない自社に対する不満が募ります。
その中にはご家族に障がいを持つ方もいらっしゃるでしょう。(※人口の約6%が障がい者)そのような時、企業は従業員の目にはどのように映るのでしょうか。
障がいを持つご家族がいらっしゃる従業員は自分の勤めている会社のことをどのように説明するのでしょうか。
企業は障がい者を雇用できない理由をお話しされます。不足については納付金(罰金)の支払いで対処していると。ひどい話では障がい者を雇用するよりも納付金を払っている方がコストが安くなるとお考えの企業もあります。悲しい気持ちになりますね。
③ 法定雇用率も企業を図るものさし
ここで質問です。
会社でPCを購入するため新たに納入業者を探すことになり、A社とB社という会社のどちらかと契約を結ぶことになりました。どちらも価格やアフターサービスは申し分なく、担当者もとても気の利く人物です。甲乙つけがたいと思っていたところ、A社は障害者雇用が未達成で会社としても採用より罰金の支払いで済ませるという考え方をしているようでした。一方のB社では法定雇用率は達成、障害者雇用には積極的で、障がいを持つユーザーのためのサポートツールやソフトなどのサービスにも力を入れているようです。自社としては率先して障がい者を応援しているわけではありませんが、どちらの企業を選択するでしょうか。
(※ちなみに、企業が障がい者法定雇用率を守っているのかを調べる方法があります。少し手間ではありますが、各地域の労働局へ申請を出すと一覧のデータとして閲覧することが可能です。)
もしかすると、こういったことで取引先やユーザーからの指示を取りこぼしているとすればチャンスを逃しているようで残念です。
障がい者法定雇用率遵守が本業には関係がない取り組みだとしても企業は色々な角度から見られているということを改めて知っておくと良いのかもしれません。
自社の従業員が仕事を通じて、多種多様な人材の存在を認めるということは企業にとって大変喜ばしいことではないでしょうか。
企業の規模、業種に関係なくお互いを理解するということは自分の成長となります。ひいては雇用している企業の成長につながるのではないでしょうか。