いつもミルマガジンを拝見しています。
現在、法定雇用率の達成に向けて障がい者の採用活動を進めています。
直近で聴覚に障がいのある方を採用しました。当社では聴覚障がい者の雇用は初めてのことで、その方を通じて聴覚障がいについての理解を進めていこうと考えています。
聴覚障がい者を雇用するにあたり、どのようなことに気を配り周囲が理解を進めていくことが良いでしょうか。
よろしくお願いします。
《商社、従業員数約250名、人事担当者》
【A】
ご相談ありがとうございます。
障がい者雇用に取り組む企業の人事担当者からのご相談でよく耳にする内容としては「精神・発達障がい者の雇用」「職場理解」「業務の切り出し」など、具体的な取り組みを進める中でぶつかる課題に関するものだと理解しています。そのような中で聴覚障がい者の雇用に関する相談をいただくことも決して珍しくありません。
聴覚障がい者は身体障がい者になります。一般的に身体障がい者は周囲の理解も進みやすく、雇用に困る場面も他の障がい特性と比較しても少ないです。ですが、聴覚障がいは身体障がい特性の中でも特異な点があるため、どうしても周囲の人たちからの理解が進まなかったり認識にズレが生じたりしがちです。
昨今の企業に見られる「D&I」「法令遵守」として障がい者雇用に取り組む以前から積極的に障がいのある人材を採用してきた企業の中には、聴覚障がい者を多数雇用しているところがあります。そのような会社の現場を見てみるとその特性と相性が良い業務や職場とのマッチングができれば、仕事に対する貢献度も高く、職場で長く勤務している方もたくさん存在しています。
例:常時機械音がする職場(印刷現場、食品工場など)、細かい検品が必要な業務(マイクロチップ、小さな部品)などであれば、音がうるさくても集中できる特性を活かして働いています。
その一方で聴覚障がい者の特性により雇用の場面で課題を感じる企業も少なくありません。
一言で「聴覚障がい者」と表現しても個々で見てみると様々な特性の方がいます。例えば、
- 先天性と中途障がい(生まれた時は聞こえていた)
- 全く聴力がない(全ろう)と補聴器や人口内耳で音を感知できる人
- 手話が「できる」「できない」
- 発語が「できる」「できない」 など
性格や顔形に違いがあるのと同様に、障がい者手帳では同じ聴覚障がいでも必要としている配慮やコミュニケーション方法には個々で違いがあることを理解することが大切です。
既に聴覚障がい者が勤務する職場で雇用に感じることはありませんか。
- 伝えたいことが理解されていない、仕事が進みが遅い
- 自発的に行動してくれない
- 孤立している、1on1は問題ないが会議やミーティングでは情報を取得できない
この①〜③の理由で考えられることは、
①健聴者は目から入った情報(文字)でも無意識にその言葉を「音」に置き換えてインプットさせます。例えば、読書中に知らない言葉を目にしたときに、今であればスマホの検索機能で意味を調べます。同時に「読み方」も確認しています。そのため、脳は「文字」と「音(言葉)」の両方を結びつけて認識するような働きをしています。(一瞬で)
ところが、聴覚障がい者の場合、視覚から入る情報のみでは脳にとっては情報量が不足状態となってしまうため、特に普段から使い慣れていない言葉を「インプット・理解・使いこなす」に時間がかかるようです。
②仕事を通じて指示をもらってから行動に移す経験が多くなってしまい、結果として能動的に自分から行動できない方が多く見られる。
③1on1の場合、話者が特定できるため視覚から入る情報(口の動きを確認)も併せるために情報を得られるが、会議やミーティングでは誰が話していたかを目で追うことが困難であり頭で情報を処理する間に次の話者に移ることで会議に追いつけなくなるため。
といったことが挙げられます。
次にこれまで私が関わってきた企業の事例をもとに雇用定着に必要なポイントを紹介します。
①雇用後早い段階で本人の障がいによる特性を理解できるまでこまめなコミュニケーションを図り、「得意な点と苦手な点を共有→苦手な点はどのようなサポートが必要か確認→具体的なサポート内容を本人と共有→周囲で関わる人たちへのアナウンス→後日サポート内容の不具合を見る」という流れを作ることで、本人の理解度と業務の成果に問題ないことを確認する。
実際のところ、このことは聴覚障がいに関わらない。更に言うならば障がいの有無にも関係がない。例えば「家庭の事情で勤務に制限がある」「障がいではないが持病や事情があるため勤務には周囲からの理解と配慮が必要」といった人材も活用することが求められている。
②例えば、職場にサポート役を配置し、その人がナビゲーターとなって小さな役割から「自発的な行動→成功」を経験してもらう。自分では分かっていてもなかなか行動に移せないため、小さなハードルを一緒に超えるイメージです。成功体験の積み重ねが大切です。
最初に掛ける手間暇が本人の成長につながりチームの成長につながります。
③聴覚障がい者支援ツール「UDトーク」や手話通訳の導入。しかしながら現時点で聴覚障がい者が複数人が意見を交わす会議で平等に情報を取得できるところまで至っていないと感じています。そのため会議への参加を必須とせず、本人の理解と納得が得られるまで伝えた上でテキストによる情報共有を徹底させ、決して孤立感を持たせないようにすることが良いと考えます。
また、聴覚障がい者で小学校から大学・企業での勤務まで一般社会で周囲と変わりなく過ごしてきた方の中には、これまでの経験や努力の結果として求める配慮が最小限で済む方もいます。
これからは、「企業が定めた規定に当てはまる人材の雇用」から「企業が必要と思う人材が持つ特性に対して柔軟に対応できる組織」が世の中から求めれ、人材から支持されるような社会になると感じます。
最後に。私の経験から聴覚障がい者は孤立しがちです。(説明すると長くなりますので、先日アカデミーで作品賞を受賞した「Coda」をご覧になってください。)ですから、私は訪問した企業で働く聴覚障がい者にお会いしたときには「よろしくお願いします。」を手話で伝えるようにしています。たったそれだけのことなのですが、ものすごく喜んでいることが表情からこちらに伝わってきます。何か通じたものを感じます。
職場で一緒に働く人たちが「ありがとう」「よろしくお願いします」などの日常的に使う言葉を手話で伝えるだけで一体感が生まれます。会社で障がい者を雇用するってこういう姿勢だと思います。