【Q&A】障がい者雇用を組織として取り組むことが重要な4つのポイント(前編)

【Q】
いつもお世話になっております。
障がい者雇用担当者についてご相談です。
現在、当社で雇用している障がい者は5名で、仕事の管理や日常の相談対応、月一回の面談、支援機関とのやりとりなど、全て私が担当しています。
今後、段階的に雇用する障がい者の数が増えることになっており、そろそろ組織として障がい者の管理体制を整えていきたいと考えています。
その場合、どのような点に注意して組織を作っていくことが理想的なのかを参考に聞かせてください。
よろしくお願いします。

《食品メーカー、従業員数約300名、人事担当者》

【A】

ご相談ありがとうございます。

雇用されている障がい者の特性や体の状態、本人に見られる特徴などにより雇用人数を特定することは難しいですが、複数名の障がい者が勤務している会社の場合、いち担当者から組織単位としての雇用環境整備へと段階を上げていく組み立てが求められます
現在の障がい者雇用環境下において雇用人数の増加に伴い組織立てた取り組みへと変化させる場合、どのようなことに注意をすれば、「障がい者の職場定着」と「従業員全般が感じる安全な雇用環境作り」の実現が可能になるのでしょうか。
注意するべきポイントとして、

  1. はたらく障がい者の特性が多様化してきた(身体中心→精神・発達障がいにも拡大)
  2. 障がい者が求める「配慮と支援」を個々に提供
  3. 適性に見合った業務マッチングと評価
  4. 外部の専門機関からのサポートも雇用定着に不可欠な要素

などが挙げられのですが、障がい者雇用担当者に求められる役割・専門範囲が拡大してきていることが分かります。
ひとつずつ説明していきましょう。

①はたらく障がい者の特性が多様化してきた(身体中心→精神・発達障がいにも拡大)


「①」の場合、企業に雇用される障がい者の中で実績数が最も多いのは身体障がい者ではありますが、近年は精神障がい者・発達障がい者を雇用する企業が増えてきています。
このことにより、人事担当者だけではなく一緒に働く従業員にも特性理解に関わる専門的な知識や経験からくる配慮が求められることになります。

例えば、日によって気分の浮き沈みが体調にも影響する状態が見られる精神障がい者と勤務する際の特性理解とそれに付随する仕事上での配慮や注意点であったり、視覚や聴覚といった感覚に過敏性のある発達障がい者がストレスなくはたらくことができる職場環境の提供といったことを想定した場合、仕事上で関わる人員を含めた組織としての対応が求められることになります。
従来であれば、人事担当者や職場で関わる従業員が個々で集めた情報をもとに見よう見まねで対処する会社がほとんどでした。上手くいくケースもありますが、多くの職場では当事者が求める支援が実施できず、退職につながったり時には大きなトラブルに発展した事例もありました。

考えられる対応としては、本格的な雇用が始まる前に障がい者と関わることが想定させる実務担当者を中心に、はたらく障がい者との接点を持つような機会を増やすことで大きく理解が進みます。
例えば、障がい者雇用実践企業の職場見学、体験実習の受け入れを通して、仕事に励む障がい者の姿と共に一緒にはたらく従業員が接している姿を直に見ることが手近に理解を深める方法のひとつだと考えます。

②障がい者が求める「配慮と支援」を個々に提供

次に「②」ですが、障がい者に対する認識を改めて問う機会だと感じています。
障がい者は「身体障がい者」「知的障がい者」「精神障がい者」の大きく3つに区分されます。それぞれの障がい区分の中も障がいの特性によって分けられています。
例えば、「身体障がい者」の場合であれば上肢に障がいがある人が求める配慮と聴力に障がいがある人が求める配慮には違いがあります。同じく、「精神障がい者」であれば発達障がいの人が不自由に感じる場面と統合失調症・双極性障がいなどの疾患を起因とした抑うつ症状のある人と一緒にはたらく周囲の方々に理解してもらいたことには違いがあります。

このように説明すると理解を示すことができるのですが、職場に目を移すと「障がい者」は一括りにされることが多く、個々の障がい特性に対する理解と配慮が進まない組織が少なくないと感じています。
個々の障がい者が求める「配慮と支援」を実行するためには、障がい者ひとりひとりとのコミュニケーションに時間を掛けることを惜しまないということです。

障がいの有無に関係なく、ひとりの人材の強みと弱みを本人との対話の中から引き出し、共通認識するところから始まります。

なぜ共通認識とするかについては、どちらか一方だけに認識していた場合、本人が必要としている配慮と支援に対してズレが生じてしまいます。それを認識した上で、その人にとってどのような業務とその進め方、周囲からのサポートを提示すれば高いパフォーマンスを出すことができるのかを考えます。高いパフォーマンスを出すことで少しずつ自信をつけていきます。そこまで掛かる時間は個々で違いますが、ひとりひとりの歩幅に合わせて寄り添っていきます

障がい者の中には業務以外の「配慮と支援」も職場定着にとって重要なポイントになります。例えば、一緒にはたらく人の行動や態度に対して過度な受け取り方をしてしまうタイプの方の場合、勝手にネガティブな想像をしてしまった結果として心の元気が失われてしまい継続した勤務ができなくなることがあります。テレワーク勤務のようなモニター上でしか相手を感じることができない勤務形態では、このようなケースが発生しやすい状態になり得ます。

後ほどご紹介する「④」の専門機関との連携も必要となりますが、本人の特性からくる特徴を理解し、できることなら早い段階で対処ができるように。状態が進んだ場合でも火種が小さなうちにサポートを行うためには実務担当者の配置をこれまで以上に手厚くしておくことが求められます。

次回に続く

ABOUTこの記事をかいた人

[障害者雇用コンサルタント]
雇用義務のある企業向けに障害者雇用サポートを提供し、障害者の雇用定着に必要な環境整備・人事向け採用コーディネート・助成金相談、また障害者人材を活かした事業に関するアドバイスを実施。障害者雇用メリットの最大化を提案。その他、船井総研とコラボした勉強会・見学会の開催や助成金講座の講師やコラム執筆など、障害者雇用の普及に精力的に取り組んでいる。

▼アドバイス実施先(一部抜粋)
・opzt株式会社・川崎重工業株式会社・株式会社神戸製鋼所・沢井製薬株式会社・株式会社セイデン・日本開発株式会社・日本電産株式会社・株式会社ティーエルエス・パナソニック株式会社・大阪富士工業株式会社・株式会社船井総合研究所・株式会社リビングプラットフォーム