取材レポート:就労継続支援B型事業所AlonAlon『マンゴー栽培』

今回ミルマガジンでは、以前にも取材にご協力いただきました千葉県富津市にありますNPO法人AlonAlonが運営する就労継続支援B型事業所「AlonAlonオーキッドガーデン」が新しい取り組みを始められたと聞き、千葉県に訪問してきました。

職場見学:就労継続支援B型事業「AlonAlonオーキッドガーデン」

2018.12.06

支援施設インタビュー:AlonAlonオーキッドガーデン

2018.07.31

取材でお話を聞かせていただいたのは、Alon Alon代表の那部智史氏です。那部氏はこれまでいくつもの事業を起業し、現在もビジネスの最前線で活躍しています。就労継続支援B型事業所「AlonAlonオーキッドガーデン」は胡蝶蘭の栽培から販売という他にはない事業を障がい者の福祉サービスとして始め、昨年には新たな事業を視野に1億5,350万円の増資を行いました。

今回、那部氏から「胡蝶蘭の次にマンゴーの栽培にチャレンジする」というお話を聞きましたので、その経緯や新しい活動についてご紹介します。
※取材時期は緊急事態宣言発令前

マンゴーの栽培について

《話・那部氏》
最初にスタートした就労継続支援B型事業内での胡蝶蘭の栽培・販売が拡張される中、2019年の台風15号の影響により近隣の農家さんたちが大きな被害を受けました。当事業所も例外に漏れず、電気が通じなくなったことで当時栽培していた胡蝶蘭が全滅する被害がありました。そのことがきっかけで自家発電機を設置することになったのですが、仮に停電になっても3日間は設備が稼働できるだけの電力をまかなうことができるので安心です。
その台風15号の被害により、たまたま隣の農家さんが農地を手放すというお話があり、我々でその農地を購入して新しい事業を始めようということになり、それがマンゴーの栽培になります。

お陰様で胡蝶蘭の事業は軌道に乗せることができましたので、次のチャレンジということで産業用ロボットのシステムインテグレーター企業と共同研究でスマートアグリによるマンゴーの栽培に取り組むことになりました。ここでは産業ロボットを導入した完全自動化を目指しており、人では行き届かない部分を補うことで障がい者との融合性を図る狙いがあります。
例えば、マンゴーは暖かい地域での栽培が適しているのですが、こちらでは苗を地植えではなく専用のポッドに定植させ、日本初の遠赤外線システムにより根や茎を最適な温度で管理できるようになっていますので、場所を選ばずに高品質な作物の栽培を実現させることができます。もちろん無農薬です。

いずれは、糖度センサーを取り付けたドローンが、採取に最適な状態のマンゴーを選び出し、翌朝出勤してきた障がい者たちがVRメガネをつけて見るとどのマンゴーを摘み取れば良いか分かるといったことも考えていて、いかにして彼ら彼女たちが楽しくはたらくことをひとつずつ実現させていきたいと思っています。

ちなみにこのシステムインテグレーター企業に我々の事業所から2名の障がい者が就職しました。これは、この研究の段階から実際に障がい者が関わっていることで我々が求める成果にたどり着けるはずだという考えもあったからです。



作物としてマンゴーを選んだ理由は、胡蝶蘭の流通が落ち着く7~8月の閑散期とマンゴーの収穫時期が重なるため、年間を通して仕事を用意することができるからです。また、マンゴーは贈答品としての価値が高く値崩れしないところなど、胡蝶蘭と重なる点も選んだ理由のひとつです。

今後ですが、スマートアグリによるマンゴーの栽培と障がい者の仕事をパッケージ化し、障がい者雇用を目指す企業への導入を目指します。
導入する企業は、当社から提供する設備やノウハウを活用することで、これからも引き上げられる法定雇用率に伴って切り出しを求められる障がい者の仕事に困ることなく、マンゴーの栽培事業によって法定雇用率を維持させながら、収穫されたマンゴーの販売で収益化を目指すことが可能になります。既に胡蝶蘭事業では同様のサービスを提供している契約企業が増えてきているところです。

また、胡蝶蘭と同様にマンゴー栽培のオーナー制度も企画しています。
マンゴーの苗は実が収穫できる程度に育つまで3~4年掛かります。契約したオーナーがマンゴーの育成期間の費用を支払うことで、収穫されたマンゴーが毎年手元に届けられます。品種は「キーツ」「アーウィン」などがあるのですが、その中でも「玉文(ぎょくぶん)」という幻のマンゴーは市場にはほとんど出回ることがない最高級品種になり、オーナーになっていただく方にも大変喜んでいただけると思います。

この他にも木更津に新しくオープンするホテルにスイーツ工房ができるのですが、収穫したマンゴーをそちらで加工品として販売する企画もあり、福祉事業所による六次産業化までのビジネス展開を目指しています。



胡蝶蘭のハウスも拡張したと聞きました

はい。前回取材に来られた時から胡蝶蘭のハウスを倍の敷地に拡大しました。
現在、新しく建てたハウスの方では台湾にある契約農家から毎月1,000個の胡蝶蘭苗を仕入れていますが、仕入れた苗を芽が出てくるところまで育てています。この時に、基本はひとつの苗からはひとつの茎を育てて花を咲かせるのですが、ダブルステムといってひとつの苗から2本の茎が伸びてきますので、片方を切って整えていく作業を行っています。その後、最初に建てたハウスの方に移動させて、成長した茎を支柱に沿わせる作業があり、皆さんがご存知の胡蝶蘭の姿に成型していくわけです。



当事業所は今年になってから就労率100%を実現しました。
昨年利用者として来ていただいた人数と今年我々のところから企業に就職した方が同数となりました。

おそらく全国の就労継続支援B型事業所の中で就労率100%を達成したところはAlonAlonオーキッドガーデンだけだと思います。

これから目指す先

現在、木更津市で保育園を開園する準備を進めています
こちらでは入園を希望するお子さんすべてを受け入れるつもりです。自分自身の原体験によるものですが、知的障がいのある息子が小さい頃に入園させたいと思い、保育園を探したのですがどこも受け入れをしてくれないという経験をしました。当時の私と同じように困っているご家族の助けになりたいという考えから開園することを決めました。他にもグループホームの運営も始めました。

私が就労継続支援B型事業を始めて思ったことはこの国の福祉制度を変えたいということです。
現在ある制度設計ではB型事業所の場合、利用者として通う障がい者の数が多いほど、国からの報酬額が高くなります。一方で就労を目指す障がい者にとっては、B型事業所を卒業して一般企業に就職するという目的があります。この事業所の経営側と障がい者の利害が一致していないところに制度上の大きな欠点が見られます。国はB型事業所に対して年間に約4,000億円の予算を使っていますが、全国のB型事業所に通所する30万人の利用者が受け取る平均工賃約15,000円※を年で計算すると540億円になり、これでは単なる税金の無駄遣いになってしまいます。
また、福祉ではたらく支援スタッフの給料も安いといったワーキングプアの問題もあります。こういった問題を解決するのはビジネスの力だと考えてこの事業をスタートさせ、当事業所での平均工賃10万円を実現させました。
※現在、就労継続支援B型事業所における平均工賃は約16,000円

そして、我々の活動を理解し賛同していただける企業があります。お陰様で様々なメディアにも取材いただくのですが、我々だけではこの活動を広げていくだけの力はありません。
ご賛同いただく企業があり、それらの企業と一緒にビジネスの力を使って障がい者雇用の仕組みを作り、企業に導入していただくことで社会的なインパクトとして世の中に周知させることが可能になります。それが結果として、今ある障がい者福祉制度を変えるきっかけになればと考えています。

今回の取材の日、障がいのある高校2年生の息子さんとそのご家族が事業所の見学に来られていました。
私も同席をさせていただいたのですが、事業所での仕事のことであったり就職のことについての質問が多かったのも、息子さんの将来を任せられる居場所を見極めるためだと思うと納得できます。そのご家族は事業所の見学の後、グループホームの見学に向かわれました。
このようなご家族からの見学は後を絶たず、毎月多くの問合せがあるということでした。

また、AlonAlonオーキッドガーデンの目下の悩みは、事業所から一般企業への就職者が増えてしまったために、事業所内で胡蝶蘭の栽培をしていただける利用者が足りず、現在募集をしているということでした。

福祉の新たなスタンダードを目指すAlonAlonオーキッドガーデンの活動には今後も目が離せません。(活動はYouTubeチャンネルにて配信されていますので、下記URLよりご覧ください)
代表の那部氏とAlonAlonオーキッドガーデンの皆さんご協力ありがとうございました。



『NPO法人 就労継続支援B型事業所AlonAlonオーキッドガーデン』
URL:https://www.alon-alon.org/
所在地:千葉県富津市西大和田1234-2

Facebook
URL:https://www.facebook.com/alonalon.orchidgarden/

YouTubeチャンネル
URL:https://www.youtube.com/channel/UCUZ1Nz6aKl7KPvUbUcZcLBA

ABOUTこの記事をかいた人

[障害者雇用コンサルタント]
雇用義務のある企業向けに障害者雇用サポートを提供し、障害者の雇用定着に必要な環境整備・人事向け採用コーディネート・助成金相談、また障害者人材を活かした事業に関するアドバイスを実施。障害者雇用メリットの最大化を提案。その他、船井総研とコラボした勉強会・見学会の開催や助成金講座の講師やコラム執筆など、障害者雇用の普及に精力的に取り組んでいる。

▼アドバイス実施先(一部抜粋)
・opzt株式会社・川崎重工業株式会社・株式会社神戸製鋼所・沢井製薬株式会社・株式会社セイデン・日本開発株式会社・日本電産株式会社・株式会社ティーエルエス・パナソニック株式会社・大阪富士工業株式会社・株式会社船井総合研究所・株式会社リビングプラットフォーム