障がい者就労支援機関に期待する障害者雇用のこれから

2018年度に施行される「精神障がい者の雇用義務化」はこれからの障害者雇用の転機となる法律だと強く感じています。より一層の障がい者採用の強化を求められる企業にとっては大きな負担を強いられる面もあることは否定できず、また支援する側の事業所に対しても現代社会に沿った支援設備・サービスの充実を図ってほしいと感じる場面も多いことから、この点も含め国は障害者雇用促進を考えるのであれば、より推進力が増すための助成制度導入も検討してもらいたいと思います。

内閣府の発表によると、全国には障がい者が約860万人(身体障がい者約394万人、知的障がい者約74万人、精神障がい者約392万人)います。更に厚生労働省の発表する障がい別の雇用実数を見ると、全国で雇用されている障がい者は約47.4万人おり、その内訳は「身体障がい者約32.8万人」「知的障がい者約10.5万人」「精神障がい者約4.2万人」となります。

ここで注目していただきたいのは精神障がい者に関する数字です。人口は身体障がい者とほぼ同数となる約392万人ですが、雇用されている数は身体障がい者の約1/8しかありません。身体障がい者人口の70~80%は年齢が60代となり、雇用対象年齢層で求職活動中の働くことのできる人口は10%程度ではないかと思われます。一方で、精神障がい者の雇用対象年齢層は約50%存在するため、今回の法改正も手伝い精神障がい者の雇用が大幅に進むことが考えられます。

私の経験上、精神障がい者の雇用・定着は身体障がい者のそれとは違う点があるために多くの企業で「困り感」が発生しています。「困り感」とは、採用や雇用の場面で上手くいかず、職場の定着を実現できていないことから生まれる困りのことです。身体障がい者を職場で受け入れる場合、障がいの特性や特徴が比較的「分かりやすい」ために周囲からの理解も得られやすく、協力的という面があります。反対に精神障がい者を職場で受け入れる場合は、障がいの特性や特徴が「分かりにくい」のと併せてイメージが「マイナス」なために周囲からの理解が得られにくく、非協力的な状況が生まれてしまいます。

ここでキーワードになってくるのが、従業員からの「理解と協力」です。これをしっかりと得られない状態のまま焦って障害者雇用の取組みを始めてしまうために定着が実現できないという負のスパイラルに入り込んでしまう企業が増えています。

精神障がい者の雇用には、これまで主流となってきた身体障がい者と違ってより専門性のある理解や配慮の導入が、雇用定着の実現には必要不可欠となります。それらを企業単体で習得したり、自社に浸透させるという作業は非常に困難です。

障がい者が働くために必要な雇用の訓練(ビジネスマナー・スキルの習得)を提供する福祉事業所が増加傾向にあります。数年前から株式会社からの参入も許可されたために、様々なサービスを提供する福祉事業所が出てきました。その中でも障がい者の一般企業への就職をメインにしているのが「就労移行支援事業所」と呼ばれている福祉事業です。まだまだ、一般企業による認知が進んでいないため、障害者雇用をする際に活用されるケースは少ないのですが、採用前の企業実習や雇用後の定着フォローなど、採用する側にとってのリスク回避に大きく貢献してもらえるサービスが揃っています。

私は、企業が新しく障害者雇用の導入をする時のお手伝いする際、その企業の地域にある「就労移行支援事業所」からの協力をベースに雇用の構築を進めていきます。私の役割りは全体のコーディネートや従業員の方々が知識や経験を積んでもらうための場のセッティングが主体となります。その際に、実際職場で障がい者の実習や雇用開始の場面では専門的なサポートしてもらえる「就労移行支援事業所」の力が本当に役に立ちます。

企業は自社にとって有益だと感じることに関しては柔軟に対応することができます。反対にこれまで企業との接点が少なかった「就労移行支援事業所」ですと、企業が本当に必要な訓練やサポートして欲しい部分を汲み取るということが浅くなってしまい、双方で距離感が生まれます。

私としては、「就労移行支援事業所」のような就労系の福祉機関は利用者(事業所に通う障がい者)へのサービスはもちろん、一般企業との接点を増やすところにも力を入れてもらいたいと考えます。それは、“企業を知る”ということです。今企業は、「どのような障がい者人材を必要としているのか」「仕事の現場はどうなっているのか」「どの部分を補えば障がい者が定着するのか」など、企業の現場をもっと知ってもらいたいと思います。その“企業を知る”が、利用者へ提供するサービスが「就職につながるサービス」になるはずです。

私個人としては、この「就労移行支援事業所」の存在がもっと企業に知ってもらいたいと感じています。来年度以降の動きから、一般企業は障害者雇用をサポートしてくれる存在を熱望しています。「就労移行支援事業所」がその存在になってもらいたいと強く願います。

ABOUTこの記事をかいた人

[障害者雇用コンサルタント]
雇用義務のある企業向けに障害者雇用サポートを提供し、障害者の雇用定着に必要な環境整備・人事向け採用コーディネート・助成金相談、また障害者人材を活かした事業に関するアドバイスを実施。障害者雇用メリットの最大化を提案。その他、船井総研とコラボした勉強会・見学会の開催や助成金講座の講師やコラム執筆など、障害者雇用の普及に精力的に取り組んでいる。

▼アドバイス実施先(一部抜粋)
・opzt株式会社・川崎重工業株式会社・株式会社神戸製鋼所・沢井製薬株式会社・株式会社セイデン・日本開発株式会社・日本電産株式会社・株式会社ティーエルエス・パナソニック株式会社・大阪富士工業株式会社・株式会社船井総合研究所・株式会社リビングプラットフォーム