以前に比べて「障がい者の雇用」をテーマにした書籍が増えてきました。これまでミルマガジンのコラムでもいくつかの書籍をご紹介してきました。
このように書籍として取り上げられる数が多くなってきた理由は「精神障がい者の雇用義務化」や「法定雇用率の上昇」など、障がい者の雇用にまつわる法律の改正により、単なる義務感だけではなく企業の関心事としての捉え方が大きくなってきたからにほかなりません。加えて、障がい者の雇用実数が増えるのに伴い、従業員である障がい者との間で発生する労働争議などのトラブルも増加している証拠なのだと考えます。
今回ご紹介する書籍『本書を読まずに障がい者を雇用してはいけません!』では、助成金や法律のポイントに関するお話しのようなメリットをお伝えするハウツーではなく、障がい者の雇用にまつわるトラブルから見た問題点や解決方法を解説する内容です。
私がこちらの書籍を読み、最初に感じたのは「紹介されている事例で発生した過程に目を向けてみると、どこの会社で起こっても不思議ではない。」ということでした。普段から意識していない小さなボタンの掛け違いからくるトラブルの事例が多いのですが、それらを解決するだけの具体策や対処法を持っている企業はほとんどいないのではないだろうかという印象です。その中には、就業規則を悪用した事例など、人事担当者にとって非常に参考になる内容が多数紹介されています。
また、現在では精神障がい者・発達障がい者が求人のターゲットになる中、離職率が高いという課題があります。表立った紛争にならずとも円満で退職した人ばかりではないでしょう。障害者雇用におけるトラブルが増える分だけ、ネットによる書き込みも増加するため、雇う側の企業にとっては不利な状況になってきているのも事実です。障がい者に対するネガティブなイメージを持ったままであれば、雇用は進まず罰金と同じ意味合いの納付金を支払い続ける状況も考えられます。
障害者雇用も、障がいを持つ人材と企業のご縁のお話しです。たとえ、両想いにならなくても、お互いが良好な状態で次に進みたいものです。そうすることで、障がい者は企業で働くことに意欲を持ってチャレンジをすることができます。企業も障がい者に対してネガティブなイメージを持たずに新しい求人活動を続けることができます。
それでは、『本書を読まずに障がい者を雇用してはいけません!』を読んでお伝えしたい重要なポイントをご紹介します。このポイントに心当たりのある人事担当者がいらっしゃいましたら、ぜひこちらの書籍を手にしてみてはどうでしょうか。
① 『企業にはノウハウがない』
ここでいう「ノウハウ」というのは、「障害者雇用に必要な助成金活用術」や「希望が叶う求人方法教えます」的なものではありません。本書では障がい者の雇用時に発生するかもしれない「トラブルを避ける(解決する)ノウハウ」を多くの企業が身に着けるべきであると説明しています。私自身も感じていた点ですが、特例子会社や障害者雇用実績を多く経験している企業が持っているような「障がい者の雇用に関するノウハウ」を持っていない企業が本当にたくさん存在すると思っています。
本文には、人事担当者の個人力に頼り(担当者に任せ)過ぎたために、情報の蓄積がされていないことを指摘しています。これは、大企業に多く見られるのですが、一定期間ごとに担当者が異動してしまい、情報の蓄積や伝達が機能していないために、結果としてトラブルの解決能力が身についていないことが原因だということになります。求人・採用に関する申し伝えだけではなく、トラブルの防止や解決のためのノウハウにも力を入れる必要があります。
② 『小さなコミュニケーション不足』
本書では「コミュニケーション不足」が原因でトラブルに発展する事例も多く紹介されています。その中でも特に興味を引いたのが、「身体障がい者」とのコミュニケーション不足によるトラブル事例です。障がい者とのコミュニケーション不足で思い浮かびそうなのは「精神障がい者・発達障がい者・知的障がい者」であり、「身体障がい者」は比較的問題としては考えにくいと思っていたのですが、実際はそうではないようです。「身体障がい者」を表現する際によく言われるのですが、身体に障がいを持つため理解をしやすい特性である一方で周囲が分かったつもりで接してしまう点に注意が必要だと解説しています。本文では聴覚障がい者とのコミュニケーション時に発生する問題として、健常者側が伝えたいことが細かいニュアンスの部分まで理解されているかどうかの確認をしっかり確認していないことでトラブルに発展してしまう点を紹介し、周囲の勝手な思い込みや慣れが生み出す障がい者への負担に警鐘を鳴らしています。
確かに、身体障がい者の場合は日常のコミュニケーションがとりやすい分周囲が障がいのことを忘れてしまうこともあり、内部障がいのような見た目から障がい者だと分からない特性にいたっては、どのような配慮が必要なのかを知らない従業員がいることもあります。
障害者雇用を見ていて感じるのは、大変な求人活動を経て雇い入れた時点でゴールと感じてしまいますが、そこからスタートになります。雇用した障がい者が長く勤務してもらうためにも対応が中途半端にならないよう、普段からのコミュニケーションにも注意を払う必要があります。
③ 『乏しい知識・間違った思い込みがトラブルを招く』
企業には障がい者を雇用し、職場に定着をさせるための「ノウハウ」や「コミュケーション不足」の他にも「情報不足による乏しい知識と間違った思い込み」で取り組みを進めている会社も多く存在します。それでは、折角の取り組みも様々な邪魔が入ってしまい人事担当者が思い描くような雇用を実現することができないでしょう。
本書を読む限りでは、仮に「乏しい知識・間違った思い込み」の状態であったならば、それは雇用している障がい者との間でいつトラブルが発生してもおかしくない状況下にさらされている。と理解できそうです。普段と変わらない状態で働いていた障がい者が、ある時突然会社に対して訴えを起こすという話は少なくありません。
また、障がい者に対する正しい知識が不足している場合、障がい者の“わがまま”と“要望”の見分けがつかず、結果として両者にとってよろしくない方向へと進んでしまうことにもなり兼ねません。本書でも「障がい者だから、気を使って言わないといけないことも言わずにいた。」「気の毒だから、本来の規則を多めに見て契約を延長した。」ことによるトラブルの事例も紹介されています。この場合、障がい者本人に問題が見られるのであれば、健常者と同じように対処をするべきだったでしょう。ちょっとした思いやりが結果として悪い方へ流れてしまうこともあるという内容です。
本書では、上記に挙げた3つのポイント以外にも読んでメリットになる点として、面接の重要性や退職時の注意点なども丁寧に解説されています。
人事担当者の方へ。本書にある各事例が発生した際に自社での対処法や予防の具体策を挙げることができるか試してみてはどうでしょうか。自社の現在の状態を把握することができると思います。