障がい者の就労を支援する福祉機関には、「就労継続支援A型事業」「就労継続支援B型事業」「就労移行支援事業」の大きく3つの形が存在します。これまで、企業が障がい者を採用する場合、ハローワークや人材会社を活用するケースが多かったと思います。これは、企業と福祉である就労支援機関との関係性が希薄なため、求人相談先として認知されていなかったことが原因だと感じています。
現在、法律改正や社会的意義としての考えから、企業の障害者雇用が増々進む中で、これら就労支援機関との協力関係を持つ会社が障がい者の雇用定着実績をたくさん作りだすと考えます。
先日、ミルマガジン編集部に三重県雇用経済部の担当者から三重県内にある就労継続支援B型事業所が企業と一緒に取り組んでいる『施設外就労』による実践報告に関するご案内をいただきました。
就労支援機関が企業との請負契約のもと、事業所に通所する「利用者(障がい者)」と支援機関の「職員」によるグループで企業から請け負った業務を企業施設内にて実施する取り組み。
ご案内によると、地域にある企業と連携しながら、長年にわたる『施設外就労』により、「利用者への高い工賃を実現」「利用者の中から多くの方を直接雇用」といったことを成果につなげているということでしたので、改めてこちらから取材の申込みをいたしました。
取材にあたりお話を聞かせていただきましたのは、「社会福祉法人 維雅幸育会」が運営する「就労継続支援B型事業所 びいはいぶ」の所長 菊田愛香氏と今回ご案内を頂戴しました三重県雇用経済部の主幹 柴原八栄子氏と福島頼子氏です。
「就労継続支援B型事業 びいはいぶ」による『施設外就労』
《話・菊田氏》
母体である「社会福祉法人 維雅幸育会」は設立から25年目を迎え、現在は三重県伊賀市内にて生活介護・生活訓練と就労支援、グループホームの運営をしております。
私が所属しています「就労継続支援B型事業 びいはいぶ」は、当初はゆっくりとした生産活動に取り組む就労系の事業所でした。『施設外就労』を実施することになったきっかけは、株式会社ミルボンの当時の担当者との出会いでした。当時、私どもは特例子会社の設立を模索していましたが、ミルボンの担当者は特例子会社ではなくとも「障がい者の働く」場所を作ろうと考えておりました。そこで、維雅幸育会と検討する中で『施設外就労』という働き方にたどり着きました。
障がい者の生活や将来について考えた時に、障がいがあったとしても「働く」ことを忘れてはいけないという想いは、施設の中ではなく施設の外で働くことが必要であるということに気付き、そのことが「働く」選択肢のひとつとしての『施設外就労』を後押しするものとなりました。
前任者になりますが、『施設外就労』を始めた頃、福祉出身の職員にとっては企業の仕事というものが分からず、常に理解することに必死な状態でした。
『施設外就労』による成果
「びいはいぶ」では『施設外就労』の実施により多くの経験と成果を上げることができました。福祉関連の学校や福祉業界の出身者にとっては、仕事を覚えて利用者に教える以前に、企業の考え方や求めることを理解することがものすごく大変なことでした。
しかし、働く障がい者のために先ずは自分たちが学び理解することができないと前に進むことはできません。また、企業との信頼関係ができないと『施設外就労』そのものを運営することができなくなります。そういった想いから少しずつ実績と信頼を積み上げていきました。例えば、障がい者の方たちは仕事に馴染むまで多くの時間を必要としますが、ひとまず業務を身に着けることができると我々では見つけることができないような細かいミスを発見してくれます。
「びいはいぶ」の特徴として、配置職員「6:1」(目標工賃達成指導員配置を含む)を「3:1」とすることで、手厚い支援を提供することができ、重度の障がいのある利用者が施設外就労に参加できるようになりました。
また、工賃についても成果を上げています。措置費の時代、弊会が初めて支払った工賃は800円でした。利用者からは「こんな工賃なら、タバコかコーヒーのどちらかしか買えない。」という一言を言われました。その後、支援費制度・自立支援法・障害者総合支援法と時代の流れと共に企業での「施設外就労」に本格的に取り組み、企業から求められる「納期」「品質」にこだわり抜き、『施設外就労』先として6社の企業と契約頂き、その結果として、今では6~7万の工賃が支給できるようになりました。
他にも、株式会社ミルボンには毎年『施設外就労』の利用者から雇用をして頂いています。(現在8名)一般的に企業に直接採用された場合、職場環境や仕事内容が変更されることも考えられます。
しかし、我々のところから直接雇用になった場合、『施設外就労』の時と同じ職場環境・仕事内容を継続できるため、本人も安心して勤務することができますので定着率も高くなります。
また、もしトラブルが発生したとしても、『施設外就労』として配置している職員が支援に入ることも可能ですので、受け入れている企業にとっても大きな安心材料として理解していただいています。
今後に向けた課題と目指したい未来
課題
我々の『施設外就労』は製造業に特化しているため、障がい者の働く選択肢が限定的となっております。今後は製造業以外の企業や業種にもチャレンジしていきたいと思います。
また、人材について、他の事業所に比べ配置する職員数が多くなるため人手が不足しています。例えば、通院などで時間が制限されてしまう障がいのある子どもを持つお母さんたちや施設外就労先のOB・OGの方たちと弊会が雇用契約を結び、支援に携わって頂いていますが、それでも人手不足は大きな課題です。
他にも、これまでの利用者は知的障がい者が多かったのですが、最近は精神・発達障がい者の方が増加傾向にあります。その結果として精神・発達障がい専門の支援職員の育成が急務な状態となっています。
未来
今回、『施設外就労』を通じて分かったことは「企業」「障がい者」「施設」のそれぞれにとって非常にメリットのある取り組みだということでした。
- 「企 業」:「労働力として」「多様性導入のきっかけ」「障がい理解」「雇用」
- 「障がい者」:「社会参加」「工賃上昇」「自己理解」「働く動機付け」
- 「施 設」:「企業理解」「収益性」「利用者の就職先」「就労福祉の理解」
また、この取り組みにおいて多くの実績と経験値をもとに業務のマニュアル化を実現させることができました。これにより、重度の障がいのある人材でも企業で働くことを証明することができました。これから先、当事業所で実施しました『施設外就労』モデルを障がい者就労のひとつの好事例として参考にしてもらうことで、多くの障害者雇用実績が増えてほしいと考えます。
今回の取材の後に、三重県伊賀市内にて維雅幸育会が実践された『施設外就労』の成果発表である『施設外就労「M.I.Eモデル」フォーラム』が開催されました。
三重県内外から多くの方々が参加された会場を見た時に関心度の高さがうかがえました。
現在、就労支援機関との協業による『施設外就労』の受け入れが可能な企業というのは限定的かもしれません。しかし、『施設外就労』によって受ける可能性と成果として受けることのできるメリットは非常に大きいのではないかと感じさせられました。
維雅幸育会、三重県の皆さんご協力ありがとうございました。