自治体アンケートから見た障がい者雇用の課題と解決について

少し前のお話になりますが、世の中が新型コロナウイルスにより日常生活に影響が拡大されつつある3月下旬に「知的・精神障がい者は雇わず41% 自治体調査、13%は募集除外」という記事が目に留まりました。
この調査は共同通信社が全国にある1788の自治体を対象に実施したアンケートをもとに集計されました。

アンケートの回答率が約97%ということで、全国の自治体における知的・精神障がい者の雇用実態を表した内容だということが分かります。
自治体内で働く障がい者の多くは身体障がい者であり、全体の41%では知的・精神障がい者は雇用されていないという事実は非常に残念な結果です。しかしその一方で、この結果だけで自治体の多くで障がい者への「差別」や「無理解」が起こっているではないかといった疑念を持つことはできません。2018年に発覚した中央省庁・地方公共団体における障がい者雇用の水増し問題により、障がい者雇用が法律化された当初から何十年もの間、杜撰な管理体制のもとで実施されていたことが分かりました。そのため、短い期間で水増ししていた雇用数分を取り戻すかのような雇用は無茶だとしか言いようがありませんので、今は時間を掛けながら雇用体制を作り上げている段階だと考えることもできます。

知的・精神障がい者の雇用が進まない理由

今回の調査に見られる「知的・精神障がい者の雇用が進んでいない」という状況は、一般企業にも当てはまるところがある障がい者雇用の状況です。調査では、知的・精神障がい者の雇用が進まない理由についても公表されていました。

【雇用が進まない理由】

  • 障がい者本人に見合った仕事がない
  • 周囲のサポートの仕方が分からない
  • 長時間の勤務が難しい      など

障がい者雇用が進んでいない企業の人事担当者から聞く悩みとほとんど同じ内容だということが第一印象として感じました。これは、「障がい者を個々の特性に関係なく一括りに見ている」「法定雇用率の達成という義務感が優先」となってしまっていないだろうかと考えてしまいます。

例えば、「雇用が進まない理由」の原因として
「精神障がい者は体調などの状態が不安定」
「発達障がい者との意思の疎通が難しい」
「知的障がい者は簡単な仕事しかできない」
と感じているのではないでしょうか。

障がい者への間違ったイメージや思い込みが邪魔をしていることが多いと感じます。これらの特徴に該当する方もいらっしゃいますが、そうではない方もたくさんいるというのが現実です。
現在、求人対象となる障がい者は身体障がい者から知的・精神障がい者へと移行してきたのは、毎年公表されているハローワークの実績からも証明されています。知的・精神障がい者が採用された場合、周囲の理解や協力が必要不可欠になってきます。そのためには上記に挙げているような「雇用が進まない理由や原因」を解消していくことが前提です。これまで障がい者雇用で実績を残してこられた企業では採用・雇用定着に際して、下記のような対策を取ることで解消させてきたと感じます。参考にしてください。

【採用・雇用定着につながる対策】

  1. 求人相談:専門機関(福祉事業所・職業センターなど)との連携
    自社に最適な求人方法やアドバイスを聞くことができます
  2. 全体研修:全社に向けた障がい者雇用に必要な基礎的研修の実施
    障がい者雇用を「限定された部署」から「全社での取り組み」へ
  3. 実習受入:福祉事業所に通う障がい者をインターンとして受け入れ
    利点が3点「理解促進」「切り出し業務査定」「人材発掘」
  4. 個別研修:配属先従業員を対象に、採用者の特徴や配慮点を説明
    障がい者本人・周囲の従業員の不安を解消

「雇用が進まない理由」についてもうひとつ。
例えば、「障がい者本人に見合った仕事がない」場合、障がい者のことをイメージしながら仕事を切り出そうとするため、適した仕事が見当たらないという結果になってしまいます。上記の原因のようなイメージを抱いているのであれば尚更です。

先ずは、障がい者の業務を切り出すことを忘れ、自社内で解決したい労務や業務について考えてみてください。例えば、「他部署よりも残業が多い」「〇〇さんへの業務負荷が大きい」「同一作業の集約化」のような課題。また、アウトソースしている作業を内製化するのもひとつです。時折、ご相談をいただく人事担当者から「外注先から仕事を奪ってしまうので申し訳ない」という話を聞きますが、状況として「法定雇用率未達成」「罰金の納付」「障がい者雇用計画書の提出」を選択するよりも、アウトソース業務を自社の障がい者雇用業務として取り入れる方がよっぽど前向きな取り組みだと思います。

また、障がい者雇用の取り組みには、障がい者本人と職場で一緒に働く従業員へのサポートも重要な点です。
安心安全に勤務できることを考えて取り組んでいるのかということが、継続性ある障がい者雇用の実現となりますから、これらの理由は組織が障がい者雇用に取り組むための準備が整っていないことを表しているように思えます。例えば、責任感と義務感のある人事担当者や管理者の方々が障がい者雇用について真面目に考えている職場にもかかわらず、トラブルや離職などの課題を抱えている企業の特徴のひとつとして、障がい者本人や職場の従業員の意見や気持ちを確認しないまま話が進んでいるケースが少なくありません。やはり、業務に関連する場合、当事者である障がい者本人と周囲の従業員からのヒアリングを忘れないようにしてください。
他にも、「特定求職者雇用開発助成金」「トライアル雇用助成金」など障がい者雇用時の制度活用も大きなメリットになります。

現在の障がい者雇用は上記①~④を見ていただいてもお分かりのように進めていくには、じっくりと時間を掛けていくことが必然になります。仮に障がい者雇用にもPCで使用するショートカットキーのような便利なものがあったとしても、企業に根付いた障がい者雇用の実現にはつながりにくいと感じます。
おそらく「自社への理解」と「障がい特性への理解」が深まった結果、障がい者雇用は企業のメリットになると思っています。

ABOUTこの記事をかいた人

上前 忠司 (日本障害者雇用総合研究所代表)

[障害者雇用コンサルタント]
雇用義務のある企業向けに障害者雇用サポートを提供し、障害者の雇用定着に必要な環境整備・人事向け採用コーディネート・助成金相談、また障害者人材を活かした事業に関するアドバイスを実施。障害者雇用メリットの最大化を提案。その他、船井総研とコラボした勉強会・見学会の開催や助成金講座の講師やコラム執筆など、障害者雇用の普及に精力的に取り組んでいる。

▼アドバイス実施先(一部抜粋)
・opzt株式会社・川崎重工業株式会社・株式会社神戸製鋼所・沢井製薬株式会社・株式会社セイデン・日本開発株式会社・日本電産株式会社・株式会社ティーエルエス・パナソニック株式会社・大阪富士工業株式会社・株式会社船井総合研究所・株式会社リビングプラットフォーム