「障がい者福祉」ということばを耳にします。
厚生労働省のホームページには、『障がいのある人も普通に暮らし、地域の一員としてともに生きる社会作りを目指して、障がい者福祉サービスをはじめとする障がい保健福祉施策を推進します。また、障がい者制度の改革にも取り組んでいます。』とあります。
障がいがある人も普通の生活を送ることができるようにサポートするのが「障がい者福祉」です。
私たちが生まれてから死ぬまでの生活の基礎をあらゆる面で支えてもらっている行政機関。障がいのある人たちにとっても、少しでも不便を感じない生活を送るための様々なサービスを受けるための窓口としての役割を担っています。
今回ミルマガジンでは、従来の「障がい者福祉」の枠を超えた新たな支援のかたちで取り組みを実現している神戸市を取材しました。
取材にご協力いただきましたのは、神戸市 福祉局 障がい福祉課の担当係長 山下清治氏、同じく担当係長 浅田亜貴代氏、伊藤尚子氏、塚本梓氏の4名です。また、今回の取材で取り上げました『神戸市障がい者手帳カバー』で選定事業者となりました株式会社フェリシモの永冨恭子氏にもご同席いただきました。
福祉事業所の商品開発を支援!『商品力向上支援制度』
《話・浅田氏、伊藤氏》
『商品力向上支援制度』について
こちらの支援制度がスタートしたのは平成26年になります。市内にある障がい福祉事業所では、日々の訓練を通して軽作業や商品作りを行っています。そういった商品が多くの方の目に触れ、ひとつでも多く売れれば利用者の工賃として反映されます。
そこで、福祉事業所が作り出す商品「ふれあい商品(神戸市の福祉事業所で製作された自主製品の総称)」をもっと売れるようにするために、市内の福祉事業所から販売を前提とした商品の応募を募り、プレゼンテーションを経て選ばれた商品(事業所)に対して商品開発に必要な費用を補助金として支給しようとこの制度が始まりました。
エントリーにはパートナーとなる専門家からの協力を得られることが条件です。地域の洋菓子店のパティシエとタッグを組んで準備してくる事業所もありました。それぞれの福祉事業所には特徴や強みがあり、それらを活かして良い商品を作ることができます。そういった商品にパティシエやデザイナーなど、その道のプロの指導・アドバイスを反映させることで「売れる商品」にすることができます。
一方で、「〇〇なことができる福祉事業所を紹介してほしい」という企業やお店等があることから、神戸市内の福祉事業所の商品や作業を紹介するWebサイト「ふくしワザ」を開設しました。Webサイト「ふくしワザ」を通じて、福祉事業所と企業等のつながりを持つ場にしています。
福祉事業所からの反応は
毎年、対象となる福祉事業所(就労支援、B型事業所、生活介護、地域活動支援センター)に案内をお送りして、平均して毎年約10件のエントリーをいただいています。
昨年度は4件の商品(事業所)を選びました。
- 「じぶんがつるくこうべのあかり」:御影俱楽部(神戸市東灘区)
協力:造形作家 今井杏奈氏/株式会社コウベノモリト 久木田啓氏
- 「無限の可能性を秘めたクラフトバンド」:Tise(神戸市中央区)
協力:アトリエえんじょい 竹内真紀氏
- 「たんとたると」:よかよかくらぶ(神戸市長田区)
協力:無添加焼き菓子 歩 近藤あゆみ氏、4S DESIGN 藤原幸司氏
- 「mof mof~made in ROKKO~」:「カレッジ・アンコラージュ」(長田区)
協力:creative unitDOR 岩本順平氏、羊毛フェルト作家 橋本瑞枝氏
『商品力向上支援制度』を利用したことがきっかけで、「良いものを作ると商品が売れ、工賃が上がり、モチベーションが上がる」と福祉事業所の支援者や作り手である障がいのある方々も感じられたようで、日常取り組んでいる活動への意欲向上にもつながったのではないかと思います。
今後の活動は
「商品力向上支援制度」で誕生した、魅力的な商品の販路をどう広げていくか、またこういった商品をきっかけに、ふれあい商品や福祉事業所の活動を皆さんに知ってもらうことが課題です。あらゆる機会をとらえて、より多くの人の目に触れ、知っていただくような広報活動を進めていこうとしています。
先ほどお話したWEBサイト「ふくしワザ」もその活動の一つで、現在開設当初から少しずつではありますが、登録していただく福祉事業所も増えてきているので、こちらも活用して認知を広げていきたいと思います。
障がい者のより良い生活実現を目指した『神戸市障がい者手帳カバー』
《話・山下氏、塚本氏》
『神戸市障がい者手帳カバー』について
私たち神戸市では身体障がい者「青色」・知的障がい者「緑色」・精神障がい者「白色」、それぞれの3つの障がい特性ごとに3色の障がい者手帳を配布しています。
※全国で配布されている障がい者手帳は3つの障がい特性に合わせて3色に分けている自治体が多いです。
きっかけは障がい者の方から「手帳を提示するときに障がい者だと認識されてしまう」「手帳の色で障がい特性が分かってしまうのが嫌だ」といったご意見が寄せられたことです。一部の障がい者かもしれませんが、少しでもこのような気持ちを解消する方法がないかと考えました。
当初は3種類の手帳の色を統一することを検討したのですが、「慣れ親しんだ障がい者手帳の色を変えることは変化に対して不安を感じる障がい特性にとって良くないのでは?」といった当事者の方々のご意見もいただいたことから、現在の障がい者手帳ごと収納が可能な神戸市独自の新たな障がい者手帳カバーを制作・配布することといたしました。コンセプトとしては、新しい手帳カバーを身に着けることで障がい者手帳を持ち歩くことに抵抗がなくなったり、お出かけが楽しくなるなど、今の生活をより良くしていくという考えから、企画をスタートさせることにしました。
障がい者手帳カバーのデザイン企画や制作は、専門性のある企業のノウハウを活用したいと思い、事業者公募を実施し、大変優れたご提案をいただいた株式会社フェリシモさんを選定、協力して事業を進めることになりました。フェリシモさんは神戸市に本社を構える企業であり、これまで通販事業で培ったデザイン性・モノづくり力の視点から、ウサギのキャラクター、ミッフィーで有名なオランダのディック・ブルーナとのコラボレーション「ディック・ブルーナバリアフリープロジェクト」から「たれみみダーン」をデザインとして使用した障がい者手帳カバーをご提案いただきました。
せっかく作るのであれば、無料配布だからといって安っぽいものにしたくはありませんでしたので、素材からデザインまで素晴らしい手帳カバーをご用意いただけて嬉しく思います。
1週間で在庫がなくなりました!
令和3年7月20日に配布を開始しました。今回は試行的に準備し、神戸市内の区役所健康福祉課にて希望される障がい者を対象にモニター利用者として無償配布しました。また、障がい者手帳カバーの配布に合わせて災害時の備えとして緊急避難場所を記載できる改訂版のヘルプカードも同時のお渡しするようにしました。
結果は、早いところで2日で在庫がなくなり、遅いところでも1週間で準備していた手帳カバーがすべてなくなってしまうほど大盛況でした。事前にSNSを活用したご案内の配信と地方紙に情報を掲載していただいたことで皆さんに知っていただくことができたようです。
障がい者手帳カバーの配布時にアンケートにもご協力いただき、神戸市在住の障がい者の方々から貴重なご意見をたくさんいただくことができたのも、今後の福祉政策に反映する良い機会にもなりました。
今後について
市内には約11万人の障がい者がいらっしゃいます。今回の障がい者手帳カバーへの反響を見ますと、来年度以降は皆様に手帳カバーが行き渡るように引き続き企画を検討する必要があると強く感じています。
手帳カバーを受け取られた方からのアンケートでは「気に入った」というご意見が約80%もあり、満足度が高いと認識しています。その一方でかわいいデザインでは男性は持ちにくいと感じたり、他の色も増やしてほしい等ご意見もいただいていますので、より良い制作ができるよう今後の課題としていきたいです。
今回ミルマガジンでは初めて行政機関の取り組みを取材しました。
市民の生活を支える行政機関が、福祉事業所と利用者がチャレンジする新たなチャンスの場を設ける制度や従来からある障がい者手帳カバーを新しくデザインするといった活動に共通するのは、今よりも豊かな生活の実現を目指しているからだと強く感じるお話でした。このような取り組みが他の地域からも聞こえてくる世の中になってもらいたいと思います。
神戸市 福祉局 障がい福祉課の皆さん、ご協力ありがとうございました。
住所:神戸市中央区加納町6丁目5番1号 神戸市役所1号館5階
Tel:078-333-3330 Fax:078-333-3314
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