私の主な仕事は企業の障害者雇用をサポートすることです。特に業務範囲はなく、セミナーや従業員向け研修、求人対応、面談、新規事業の企画など、時に「行政機関が企業向けに対するサービスのようなことをしているんですね。」と言われることもあります。私自身は、それぞれの企業で障がい者の採用や雇用定着に必要だと思うことはすべて対応するようにしているだけです。
そのため、既に障害者雇用で実績を残している企業や新しい取り組みを導入している支援機関などがあると聞けば、全国どこへでも足を運び企業が取り組む障害者雇用の参考にするよう心掛けています。
全国には障害者雇用の分野で素晴らしい成果を生み出している企業や団体、個人の方がたくさんいらっしゃいます。障害者雇用というのは、他社で上手く取り組んでいる方法を自社用にアレンジすることが必要だと感じています。今は、企業の障害者雇用現場でも多くの工夫が見られ、雇用に必要なナレッジが蓄積されていると思います。これは、障がい者の法定雇用率の上昇に合わせて採用範囲が広くなり、色々な特性のある障がい者を雇用し、戦力化させていくことが求められているからです。
各企業は、「障がい特性 × 業務特性 = 独自ノウハウ」が大きなカギになるため、事業の大小に限らず様々な事例を実際に「見て」「耳を傾け」参考にすることが重要だと考えます。必ず自社が手本にしたくなる雇用に出会うことができます。
今回、ミルマガジンの取材にご協力いただいたのは『一般社団法人ありがとうショップ』の代表 砂長美ん氏です。
砂長氏は就労継続支援B型事業所で障がいのある利用者が作成した商品の販売を支援する事業を運営しています。彼女がこの事業を始めたきっかけや考え方を取材することで、企業や支援機関の障がい者との関わり方について気が付く点が多いと感じました。
一般社団法人 ありがとうショップを始めたきっかけ
イギリス留学中に発達障がい(ディスレクシア)であることを指摘されたことが、自分に障がいがあることを知るきっかけでした。帰国後、派遣社員として働くが14回もクビになってしまいました。今思うと、自分の障がいをオープンにせず働く道を選んだからだろうと後悔しています。
そんな時に障がいのある私の日常をテーマにしたドキュメンタリー映画「DXな日々(ディスレクシアなひび)」に出演することになりました。同じ時期にお弁当屋さんを始めたのですが、理由は「毎日同じところに行き、自分の食べるものがあればOK」という気持ちからでした。
それでもギリギリの生活でいつまでこの状態が続くのかと感じていた時に、国会議員の前でスピーチをしてほしいという話をいただいたことがきっかけで国会議員会館内にあるセブンイレブンで、障がい者施設で作成された商品を設置・販売する企画がスタートしました。
国会議員の方々に障がい者施設で作成された商品を身近に感じてもらうことで、障がい者のことをもっとよく知ってもらい、課題である所得向上に協力してもらいたいと考えました。
ありがとうショップの実績
国会議員会館内にあるセブンイレブンでは、全国にある障がい者就労支援施設で作成されたお菓子や雑貨を販売しています。通常、有名なコンビニエンスストアの場合、誰もが知っているメーカーであってもひとつのワゴンを独占することというのは滅多にありません。それが、この企画がスタートしてから、セブンイレブンのワゴンひとつ分のコーナーを用意していただくことになりました。
販売当初は、「障がい者が作りました」ということを前面に出したクッキーや雑貨を販売していましたが、それでは売れないことに気が付きました。これまで、障がい者の作成した商品は、どこかで「障がい者が作りました」「買ってください」という気持ちで売っていたように感じます。私自身もそのような気持ちで販売していました。
一番大事なことは、『お客様が欲しい!』という気持ちになってもらえる商品を作ることだということです。たとえ安くても、必要ないものは買ってくれません。そのことに気が付いてから、「みんなの笑顔クッキー」を「国会に来ましたクッキー」にシールを張り替えて販売したところ、飛ぶように売れました。めったに来ることがない国会に来た人は、「国会」という言葉の入ったクッキーが欲しいのであって、障がい者が頑張って作ったということは関係ないんです。そのことに気が付かないといつまでたっても、変わることができないということが分かりました。
当社に協力いただいている事業所のうち、以前までは1袋100円のクッキーを製造・販売していたところが、「国会に来ましたクッキー」にすることで1袋500円で販売することができるようになりました。同じクッキーなのに、「売り方」「場所」を変えるだけで、売り上げを大きく変えることができるんです。
『ありがとうショップ』から仕事をお願いする先は、障がい者の給料になる福祉事業所が中心です。お菓子や雑貨の作成に限らず、印刷やデザインなどができる事業所にも仕事を発注しています。そうすることで、そこで働いている障がい者の方たちの給料になって支払われます。
今では、国会に限らず全国の観光地や博物館・お城などの施設にも障がい者が作った商品を設置・販売するような活動も行っています。お陰様でたくさんの観光地から声を掛けていただき、その度に施設周辺の福祉事業所に協力を依頼して、お土産品の製作をしてもらっています。そうすることで地域の活性化にもつながっていきます。
感じる課題とこれからの展望
このビジネスを始めてから全国にある就労系福祉事業所と関わることが増えました。その時に感じるのが「就労系福祉事業所なのにビジネスについて考えることが不足している。」ということでした。
『ありがとうショップ』を通じて私の考えや実現したいことを理解していただける福祉事業所もありますが、中には「うちの障がい者は重度だから無理」「要望通りのことができない」といった消極的な姿勢を変えない事業所も少なくありません。これまでの経験でお話しすると、消極的な姿勢が見える福祉事業所は、作業をするのが障がい者だからということで提案や要望に対してできないことの言い訳をしているように感じることがあります。障がいのある人たちの中には、指先が不器用であったりできることの範囲が限られている人もたくさんいます。
でも、周囲が諦めてしまうとできることも増えませんし成長もしません。支援する側の人たちもチャレンジする気持ちで、限られたことしかできない障がい者にはできるところから始められるような方法を考えてください。
また、地方の施設からの依頼で絵葉書などのお土産品を製作するときに、絵の得意な障がい者がいたらデザインをお願いします。その時にも支援施設側が「障がい者だから自由に絵をかいてもらいますね。」というのですが、それは間違っていると思います。近隣の施設に設置するお土産品なのであれば、色々なところから観光目的で来られるお客さんが旅行の想い出として購入していきます。それならば、その地域にある特産品や観光スポットをイメージした絵を描いてもらわないといけません。ここでも「障がい者」ということを言い訳にしていると感じてしまいます。
支援側が考えることをさぼってはいけません。福祉事業所も変わる時代です。
私が目指したいのは、重度の障がい者でも生活していくだけの十分な給料がもらえる世の中です。今の法律は「重度の障がい者は働くことができない」を前提に作られています。
例えば、時給1,000円の仕事を3時間勤務するために通勤している重度障がい者の方がいます。その方は公共交通機関での通勤は大変なため、福祉タクシーを利用するのですが、働く理由では介護保険が適用されないために自費で2,500円の福祉タクシー料金を払っているので手元に残っているのは500円です。では、何のために働いているのかとその方に聞くと「それでも社会と繋がっていたいからです。」と言います。このような世の中を多くの方々に知っていただき、どのような障がいのある人でも生きやすい国にしたいと思っています。
今回の取材で初めて砂長氏とお会いしました。取材場所は国会議員会館。もちろん初めての訪問でしたので緊張しましたが、優しく明るい雰囲気を持っている彼女は国会議員会館内でも知らない人はいないのではないかと思えるぐらい、すれ違う多くの方と挨拶をしていました。
その一方で、取り組んでいる仕事や日々感じている課題についてお話しされているときは、非常に力強く、伝える言葉にも想いがこもっていました。自身も発達障がいの当事者目線で語る姿は、多くの障がい者の代弁者であるかのようでした。砂長氏のもとには全国の自治体や企業、福祉事業所からの問合せや講演依頼の連絡が入ってきます。彼女のこれからの活躍に期待したいと思います。
取材を終える頃には愛称である「美んちゃん」と呼んでいました。とても素晴らしい方です。
ご協力ありがとうございました。
URL:http://arigatoshop.jp/
『砂長美ん』さん
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