できるがふえる!

全国的にコロナウイルスが猛威を振るっている中、様々な業種が大きな損害を被っています。飲食店であるクロフネファームもその影響は直にありまして、特に3月頭の安倍首相の会見の次の日から目に見えてお客様が減っていきました。

『豪華客船での蔓延の理由の一つが朝食のビュッフェ』
正に名指しで営業停止!と宣告されたような気持ちでした。

でもこれはしょうがないことです。世界中に広がったコロナウイルスは、世界全体で終息に取り組まなくてはいけない大きな問題です。この日から僕らは一番の売りであるビュッフェを捨てて、今は何をやったらいいだろう、今は何が世の中に求められているだろうを真剣に考え取り組んでいます。

新しいスタイルへ

まずはビュッフェをやめて定食スタイルに変えました。お客様に料理を選んでいただくのではなく、席まで料理を持っていく形です。
これを障がい者スタッフとやるときに不安なことがいくつかありました。ガラッと新しい形になってその対応ができるのかという不安でした。

一番は『注文を間違えないかな?』ということでした。
今までのビュッフェスタイルだと『注文を取る』ということがありません。お客様を席まで案内したら、あとはお客様が好きなものを取って好きなだけ食べて好きな時に帰る、というものでした。ビュッフェ台に料理がなくならないように気を付けていればよかったのです。
ところが定食スタイルになると、どこのテーブルのお客様がどの料理を注文したかを覚えておかなくちゃいけませんし、ご注文の料理が全てそろったかの確認もしなくてはいけません。なるべく温かいうちに席までお持ちする、そろった料理の確認をする、その都度お客様と会話をする、そんな一連の流れが特に知的障がいのスタッフの子たちができるのか心配でした。
でもそんな私の心配は全く必要なかったことに後々気が付くのです。

初めは戸惑いもありましたが、2~3日後にはみんなすぐに慣れました。陰では店長を中心に居残り練習なんかもやっていたようです(笑)。しっかりと接客もでき、お客様と楽しく会話もしながらお店を切り盛りしてくれました。

このときホッとしたのと、正直できないだろうと思っていた自分を反省しました。
クロフネファームをオープンして3年半が経ち、彼らのことを理解したつもりになっていましたが、どこか自分が勝手に彼らの限界を見定めてたつもりになっていて、可能性を信じてあげることを忘れていた気がします。
『知的障がいの子たちはきっとここまでしかできない』
『○○くんにこの仕事は無理だろう』
自然とそんな考えになってた自分を大いに反省する、とてもいい機会になりました。

その後、終息するかなと思っていた状況も逆にどんどん悪化していき、いよいよお店も休業することになりました。お弁当などのテイクアウトに切り替え営業は続けていくことにしましたが、障がい者スタッフにやってもらうことが極端になくなりました。

『何かないか?うちにいるスタッフができることで、今、世間で困っていることは何があるだろうか?』そこで考え付いたのがキッチンペーパーで作るマスクでした。
キッチンペーパーを折り紙のように折って、両面テープを貼って仕上げていきます。耳に当てるゴムはストッキングを輪切りにしたものを使います。初めは不揃いの不細工なマスクが仕上がってきましたが、日に日にみんな上手になり今では市販のマスクと見た目は全然見劣りしないものが作れるようになっています。



障がい者スタッフの『できる』を増やす

今回のコロナの影響で、大きく方向転換しなくてはいけないところがたくさん出てくることでしょう。クロフネファームも一番の売りだったビュッフェは少なくとも1年はできなくなると思います。
もしかすると、もうビュッフェはできなくなるかもしれません。

そんな時にクロフネファームは下を向くのではなくて、しっかりと前を向いていける会社でありたいと思っています。障がい者スタッフの可能性を信じて、新しいことにもどんどん挑戦していく会社でありたいと思っています。

私は今回のことはひとつのチャンスだと思っています。
障がい者スタッフの『できる』を増やすチャンスです。小さな『できる』の積み重ねがその子たちの武器となり、次のステップの一般就労への可能性を広げます。
でも一番は『私たちもやればできる』という自信をつけさせるとてもいい機会だと思います。コロナで大打撃を受けて失うものも多かったですが、こうして得るものがたくさんあるのも事実です。クソ~コロナめ~(怒)、と恨んだこともありましたが、今は気持ちスッキリ半年先1年先を見れるようになりました。
今後のクロフネファームにぜひご期待ください。

ABOUTこの記事をかいた人

▼プロフィール:
1978年5月9日生まれ。福岡県糟屋郡粕屋町出身。同志社大学経済学部卒業。1998年度生。

▼現在:
野菜を中心としたビュッフェレストラン『クロフネファーム(就労支援A型施設)』を経営。接客業での障がい者の方が働く場所を作り、仕事の楽しさを共に分かち合っている。『地元の食』と『障がい者就労』という演題で講演活動も行っており、障がい者就労に対する意識や見解を広く伝えている。将来の目標は、『47都道府県クロフネファーム化』であり、一人でも多くの障がい者の方が働ける場所を広げることに努めている。

▼これまでの道のり:
大学卒業後、憧れていたウエディング業界へ就職する。海外ウエディングの会社やイベント会社を渡り歩きながらたくさんの経験を積む。2005年、東京から転職で三重の地へ。
有限会社クロフネカンパニーに入社し、ウエディングの勉強をする傍ら、講演会で全国を飛び回る同社代表中村文昭のマネージャーを務める。彼の思いや考えたことを具現化することが仕事となる。
あるとき、中村が出張先の仙台で、障がい福祉事業所としての野菜ビュッフェレストラン『六丁目農園』に出会う。『この料理を障がい者さんたちが作っているのか!』と、その料理のクオリティの高さと美味しさに感動し、このモデルを伊勢でもやろうと提案がある。その運営責任者を任せられる。当時は飲食の経験がわずかにあっただけで、障がい福祉に関しては知識や経験は一切なく、全くのド素人。文字通り1からのスタートとなった。
2016年12月12日、クロフネファーム~伊勢からやさしい風が吹きますように~がオープン。連日たくさんのお客様にご来店いただいている。オープン当初は3名だった障がい者スタッフも、現在では25名まで増え、みんなで一緒にお客様に喜んでいただくための新メニューの考案や、様々なイベントを企画している。ひとりひとりの個性・能力と向き合いながら、可能性を信じて日々新しいことに挑戦している。
2019年8月、オンラインサロン『47都道府県クロフネファーム化計画!!』を開設。全国各地のメンバーと共に、新しい形の障がい福祉事業を47都道府県すべての地区に開設する目標を掲げている。